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銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十九話(16) 決別の儀式 レースの前に

第一話のスタート版
第三十九話 まとめ読み版①   (10)(11)(12)(13)(14)(15

「知力は体力」と老師はいつも言っていた。
 レイターはひらめきだけでなく、考え抜く持久力も持ち合わせている。老師の直弟子候補か。強いはずだ。

 だが、僕だって負けない。一級設計士のプライドにかけても。
 老師の言葉が自分を奮い立たせる。
「アラン・ガラン。お前はすごいぞ。革新的なその発想こそ風の設計士団に必要だ」
 僕のアイデアでハールとメガマンモスをつないでみせる。老師、見ていてください。

 いつものように三人で議論していた時のことだった。
「責任分界点を考えようぜ」

n1@5ニヤリ

 とレイターが言い出した。
「船が融合燃焼するリスクのうち、衝突は俺の操縦のせい。宇宙塵と太陽風とダークマターは運だな」

 オットーがあきれた声で言った。
「衝突がレイターさんのせいとも限らないです。それより、運による燃焼リスクが多すぎます」

オットー横顔後ろ目む

「しょうがねぇだろ。宇宙塵は当たる時にゃ当たるんだ。俺でもよけられねぇよ。あとはパラドマ発火をどこまで抑えられるかだ」

 僕は発言した。
「このつなぎでメガマンモスのエンジン馬力は九十二パーセントまでいける」
「九十二だと勝てねぇ。あと一ポイントの上積みが必要だな」
「横G六十五度のリスクは解消できないぞ」
「そんなピンポイントな攻めは、誰もしてこないんじゃないですか?」
「ま、後ろへ下がって逃げりゃいいか」
「安全性が確保できていない」
「そうでもねぇだろ」

 安全性は最大の懸案だ。それすら、なかなかクリアできない。しかも、横G六十五度で飛ぶとメガマンモスがエンジン停止する。
 課題はそれだけではなかった。
 直線番長のメガマンモスはカーブの操縦がしにくい。小惑星帯では暴れ馬に変身する。
 ナセノミラは小惑星帯含めカーブが多い。レイターはそれをわかっていてメガマンモスを選択した。

「大丈夫さ。俺、メガマンモス乗せてアステロイドで飛ばしてたから、暴れ馬を乗りこなすの得意なんだ」

 その時、急に思い出した。

 アステロイドを信じられない速度で飛ばす恐ろしい船、突風教習船のことを。あの船もメガマンモスを積んでいた。
「レイター、君はもしかして裏将軍だったんじゃないのか?」
「懐かしいことご存じだねぇ」
 レイターが肩をすくめた。やっぱりそうだ。

 六年以上前のことだ。
 S1のヒントを探して、僕は飛ばし屋のバトルをアステロイドへ見に出かけた。
 ギャラクシーフェニックスという新興の飛ばし屋グループ、その大将である裏将軍の飛ばしは見ておいて損はないと聞いていた。

 驚いた。

18歳横顔@

 S1レーサーでもああは飛ばせない。操縦の限界を超えたあれは自殺行為だ。衝突事故を起こさないのは、ただ運がいいだけだ。本人もわかっている。「また、死にぞこなった」という決め台詞はおそらく本心だ。

 若者が熱狂するのがわかる。S1を見慣れた僕ですら、目に焼き付いて、しばらく夢に見たほどだ。

「僕は一度だけ裏将軍の飛ばしを見た。怖かった。死を覚悟した、ってもんじゃない。あれは死に場所を探しながら飛んでいた。レイター、まさか君は今度のS1で死ぬ気じゃないだろうな?」

「俺は不死身だから死なねぇんじゃねぇの?」
 レイターはニヤリと笑った。はぐらかすような答え。

 レイターから死の香りが漂った。ボリデン合金は融合燃焼を起こしたら一気に燃える。死に直結だ。

 助手のオットーの言うとおりだ。燃焼リスクが高すぎる。レイターを死なせるわけにはいかない。左足が震え始めた。

「オットー、もう一度計算をやり直すからな」
 僕は自分に気合を入れた。     (17)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」