読書感想 『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』 「“考える自由”を使える強さ」
どうなるのだろう?
素直にそう興味を持てるタイトルだけど、読み始めてすぐに、これは厳密に言えば、本当に何もない、という意味での「連休」ではないのではないか。そういった、細かいツッコミをしたくなるのだけど、だんだん、そうした小さなことでは測れない貴重な記録だと思えてくる。
それは、考える自由を、これだけ使える人は稀だし、まして「2000日」続けるのは、達磨大師に近いのではないか、と大げさではなく、思える瞬間もあったからだ。
『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』 上田啓太
いろいろとあった著者は、古い民家に居候することになった。1畳半の小部屋。外から見ると、ほぼ物置の中で、ずっと生活を続ける。そこの元からの住民は、ネットで知り合った年上のデザイナーの女性。付き合っているわけでもない関係で、距離を保って暮らしが続く。
その際、家賃の半分3万円を請求され、著者は仕事を再開することになった。
ここを読んだ時は、「仕事があったら、連休ではないのでは」という気持ちになった。
このあたりでは筆者の能力に支払われていると分かりながらも、在宅で、これだけの収入があることにうらやましくもなり、自分自身の無力さを改めて思う。
ただ、ここまで読み進めてくると、実は、想像以上の孤立感があるのではないか、と思えてくる。
そうであれば、それからは、一種の修行なのではないか、と思いながら、読み進めることになる。同時に、「自分という人間を使った実験」に臨む記録でもあるのは、分かってくる。
情報
「2000連休」の前半では、外からの情報に関して反応していて、まずは図書館へ行き、かなりの本を読んでいくことが始まっている。そのことによって、かなり影響を受け、心が乱れることもあったが、そのうちに、文字を読むのをやめることを試みている。
そんな時代だからこそ、全く文字を読まない状態に自分を置くのは、かなり困難なのは予想がつく。
他にも様々なチャレンジをしているのだけど、これも、「貴重な実験の結論の一つ」でもあると思った。
記憶
その次に、著者が試みたのは、自分の記憶の整理だった。
まずは、自分が読んだ本や、見た映画。そういった記憶のデータベースを作っていく作業を始め、そして続けた。
そのあとは、人間のデータベースを作り始め、そこまでは、まだ楽しさもあると思われたのだけど、さらに、記憶の振り返りを進めてしまう。特に、封印していた感情を書き出す、という、一人で行うには、かなり困難な作業にも進んでいく。
こうしたことを一人で、実感として、つかみ取るのは大変なことだと思うし、その上で、強い記憶を思い出そうとすると、抵抗感もあり、それは、精神的には危険なことのはずだった。
困難さを乗り越え、その状態を迎えたのが、「連休」が始まって「1000日」を迎えた頃だったようだ。
変化
ここまでの「修行」や「実験」の成果で、著者の意識は変わっていった。
自己、という意識そのものが薄くなっていったようだ。
2000日まで
ここまででも、一種の「到達」といってもいいことなのだろうけど、「2000日」に向けて、さらに考え続け、試みも継続することで、ふと、これは「悟り」に近づいているのかもしれない、と思うような描写もあるが、それも、ただ抽象的なことではなく、身体を通して、時に、笑いの要素も含めつつ、さらに思索を深めていく。
なんだか、すごい。
こうしたことは、この期間の中で、著者がつかんだ実感の一つでもあるのだけど、他にも、読む前は、そのタイトルでは、読者として、予想できなかった思考について書かれている。
それは、時間があるのは、考える自由があることなのだけど、それでも、考える自由を十分に生かし切るのは、実は強さが必要なことだと思う。だから、その力を備えていた著者が、この「2000日」を過ごす機会があったことで、初めて成立した作品だと思うと、ちょっと不思議な気持ちになる。
おすすめしたい人
考えることに興味がある人。
いつも忙しくて、時間が欲しいと思っている人。
時間があるけれど、何もしていない気がして、自分を責めがちな人。
いつもとは違うことをしてみたいけれど、お金をかけられない人。
そうした人たちにおすすめできますが、タイトルで興味を持って、手に取った人も、後悔しない作品だと思います。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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