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「書くことについて、考える」------保坂和志『小説的思考塾』vol.11。

 最初は、リアルイベント、そのあとはオンライン開催、最近はリアルとオンラインのハイブリッドになっているが、時々、参加している。

 いつも、どうしようか、と迷うのは、すごく大事なことが語られるのだろうし、視聴している時は、すごく面白い、わかった、と思えるのに、時間が経つと、とても難しいことで、特に「書くこと」に具体的につなげていくのは無理なのではないかと思える時もあるからだ。

 それでも、保坂和志の語っていることは、どんどん聞けなくなる種類の言葉のように思え、時々、聞きたくなる。

広く構える

 今回は、この『野球短歌』の著者で、「小説的思考塾」にも参加していた池松舞も、対話の相手として参加するというので、これまでとは違うのではないか、といった期待もあった。

 配信の最初の数分は、真っ暗だった。

 何かの意図があるのか、それとも、こちらの不具合なのかと思っていたら、どうやら発信者側の問題で、それは解決し、保坂氏と、池松氏が二人で並んで、話をする姿が映った。

 そこで、まず話されたのは、広く構える、といったことだった。

 それは、デビューすることについて話すわけではなく、ずっと書いていくのか、そうではないのか、といったことが大事であって、だから、審査されて、その課題のようなものをクリアしていく、いう意識ではダメなのではないか。もっと自分がのびのびできるかどうかを重要視するべきだというような話題になっていた。


 こうして書いていても、ここで話されたことを伝える難しさを感じるものの、それを視聴している時は、自由について語っていると感じ、確かにちょっと気持ちが軽くなったような気がしたことは覚えている。


 前半は、小説は、客観性の外へ出なくてはいけない、という話題も出ていて、それは、こうして、短い言葉でまとめてはいけないけれど、かといって、長く伝えてもわかりにくく、だけど、そこで画面とはいえ、人が話していることで、その時は、あ、そうか、と思えることを話していた。

デビューについて

(私が、トークのことを、こうして記録というか、メモに近い言葉を残しているだけですし、正確さに欠けると思います。すみません。それに、やはり、話し言葉は、直接聞いてこそだと思うので、あくまで参考までに考えてもらえたら、幸いです)。

 保坂和志が、休憩の後も、話を始め、続ける。

 小説の書き方本が一つの産業になっているらしい。デビューしてから食べていけるかわからないのに。

 それに、自分がデビューしたら食べていけると思っている人は、読まないと思うのに……。

 今でも、歌人と言われる人たち、俳人と呼ばれる人たちも、それだけで食べているわけではない。小説家も、他にも仕事があって、その一方で小説を書いて、商業誌にも発表する、ということになるのではないか。

 それに、小説の書き方本に書いていることは、自動車で言えば、免許を取れるレベルで、F1のレーサーとは全く違うのに……。

文体について

 そして、保坂氏は、文体のことにも触れる。

……文体っていうのは、文体っていう観念が、わかっていない人は、本当にわかっていない。

 小説の文章は事実を報告することじゃない。

 三行先に、これ書こうと思っていても、一行目を書いたら、予定が変わること。

 意図的に考えることを増やすことで、簡単にできたキャッチボールがいったんできなくなるようなこと。

 文体は、技術論の話ではない。

 技術はできているのが前提。また、それを壊していくようなこと。

 谷崎潤一郎は、1日、2枚。3枚は書きすぎ、と言っていた。
 それは、人によって違うのだけど、毎日、最低、3枚書きなさい。5枚書きなさい、という人もいる。

 とにかく毎日ように書くこと。365日のうち、360日くらい。それも、何かのために、新人賞の締切りがあるから、というのではなくて、自然に書ける人じゃないと、だめ。

 書きたいから書く、ということ……。

少し具体的なこと

 保坂氏は、さらに話を続ける。

……文体については、ほぼ抽象的なことしか言わない。

 もし、もう少し具体的な話をするならば、できるだけ、形容詞を入れずに、名詞と動詞にする。

 それに、できるだけ、いろんな要素を、入れる。

 文章のテンポにこだわると、要素を入れられなくなる。別の要素を入れることで、テンポが狂ってくると思いがちで、テンポなんて、基本はどうでもいい。

 文体は、身振り手振りでもある。
 文章は勝手に動くもの……。

 手書きか、パソコンか、何で書くのか。
 どこで書くのか。

 そうしたことも大事になってくる…

身体性

 保坂氏の話は、あちこちに飛ぶようで、でも、ずっと筋が通っているようでもある。

 ……文体は、文字で書くことと、その人の、折り合いの悪さ。

 文字で書くことの大変さを知っている人が、ひねり出してくるのが、文体。

 文章を書くのは、気を散らすことでもある。集中して、散らしていく。

 何かしらの文体を、自分なりに作るには、圧倒的に、自分の中にこもるべき。 

 ただ、それは、自然にこもりたくなるはず。書きたくなったから書くのと一緒で、文体は自分を追い詰めないと出てこない。
 自分を追い込むことができないのは、機が熟していない。

 何か、内側からのものだと思う。何かアートに関わるのは、内側のこと。

 とにかく積極性とか、身体性とか、出して出しすぎることはないと思う。広くとる……。

 2時間ほど、そういう話をしてくれた。

 もちろん、これは、断片的に切り取ったにすぎないので、もしも、興味を持ってくれた人がいたならば、まだ「小説思考塾」は続くようですので、ぜひ、直接、試聴されることを、おすすめします。





(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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