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セミの抜け殻が「相席」になるほど、増えていた。

 なかなかセミが鳴かなかった。 

 一匹だけ鳴いたような気がして、それが2〜3日続いた。

 いつもの夏は、ある日一斉に鳴くイメージがあったから、今年は違うのかもしれないと思ったときがあった。

 それからしばらく経つと、そんなことを思っていたのを忘れるくらい、セミが一斉に鳴く日が続いている。


セミの羽化

 夜中の12時頃、庭に面した家の壁でセミの羽化を見たことがある。

 抜け殻は茶色い印象があったけれど、そのサナギは玄関の照明を受けて、透明にも見えた。そして、その背中が割れて、中からセミの成虫が出てくるのだけど、想像以上に、その動きはゆっくりで、というよりも、遅すぎるだろうと思うくらいで、夜とはいえ、何かに襲われたら、あっという間にやられてしまうのに、と思っていた。

 出てくるセミも、気のせいかもしれないけれど、向こうが見えるくらいに透明に見えた。単純にきれいだった。ちょうど妻が起きてきて、しばらく一緒に見ていた。その時間はかなりかかって、だから、途中で見続けるのをあきらめてしまった。

 次の日の朝、その場所には空になった抜け殻があった。

 すっかり茶色くなっていて、それはいつも見るセミの抜け殻になっていた。

セミの抜け殻

ここにも、あるよ」。

 いつも庭を丁寧に見続けている妻に、そうやって教えてもらわなかったら、私は実際にあるセミの抜け殻の半分くらいは気がついていないと思う。

 コンパクトといっていい家の庭にはその広さにそぐわないほどの大きい柿の木があって、そのほかの場所には、いろいろな植物がある。妻は、雑草という植物はない、と主張したと言われる牧野富太郎博士を尊敬もしているし、草花が好きなので、(他の人なら抜かれてしまうかもしれない)妻がかわいいと思った植物であふれている。

 ただ、私にとっては、意識的に注意深くしないと、全体的に緑が広がっているように思えてしまう。

 それと同じように、セミの抜け殻も、庭のあちこちや、玄関の外に置いてある妻の父親が作ってくれた机のへりなど、ちょっと見ただけでは、見落としそうな場所にあるから、妻に教えてもらわないと、わからないままだと思う。

ほら、あそこにも」

 そう言われて、植物の葉っぱの裏にあると、茶色い抜け殻は、余計にわかりにくくて、さらには、少し離れた場所にもあることを教えてくれる。

 気がついたら、少し広いワンルームの部屋くらいの庭なのに、セミの抜け殻が10個近くあった。ということは、同じ数だけのセミがここで誕生したことになる。

 だから、この庭の土の中にはセミの幼虫が、少なくとも抜け殻の数だけはいたはずで、ここ10年くらいは、毎年抜け殻を見ない時はないから、おそらく今も、土の中にはセミの幼虫が育っているはずだ。

 あまり知識がない私でも、セミは7年くらいは土の中にいるらしいと知っている。毎年、セミが羽化しているということは、1年ごとにセミとして地上に出てくるのだから、地層のように重なっているのかもしれない。

 そう思うと、全く根拠のない想像だけど、不思議なような、ちょっと怖いような気もする。

抜け殻の配置

 庭にあるセミの抜け殻が見つけにくいのは、ある場所に集中していないからだと思う。

 ここにあると思うと、少し離れて、しかも角度が違うところにある。

 点々と存在する、という言葉を形にしているようだ。

 セミの羽化を見たときに思ったように、あの時間は完全に無防備で、だから少しでも大きい動物に襲われたら一瞬でやられるだろう。

 だから、もしも、二匹が同時に、近い場所で羽化をしていたら、そこで襲われたら二匹とも終わる。それを少しでもなんとかするために、もし、時間的に同じようなときに羽化するとしても、少し離れた場所でセミの成虫になっていく。

 そんな必死な意志のようなものが、こうして抜け殻があちこちに点在する、という形になっているのかもしれないと勝手に想像をした。

抜け殻の「相席」

 だから、玄関の近くに今はいろいろなものを置く台として機能している妻の父親が作ってくれた机のへりに、最初は1つだったセミの抜け殻が、まるで「相席」のように並んで、もう一つ増えたのを、妻に教えてもらった。

 そのとき、この庭のセミは、今年の夏は、すでに「第2世代」を迎えているのかも、などと思った。

 なるべく安全に羽化する場所が限られているから、この庭の「定員」はいっぱいになってきてしまっていて、すでに「第一世代」は浮かし終わり、同じ場所であっても、安全が保障されているような場所で、2つ目の抜け殻を見るようになったのかもしれない。

 ということは、まだ夏も終わりが遠いし、あまりにも暑い日も続いているし、セミの鳴き声も当たり前のように毎日聞かされ続けているのだから、うちの庭のセミも「第2世代」どころか「第3」か「第4」くらいまで羽化すれば、庭のあちこちで、「相席」の抜け殻が増えていく可能性もある。

 そうなったら、なんだかまた違う光景になるとは思うのだけど、そこまで抜け殻でいっぱいになった夏も記憶にないから、そうなる前に、おそらく夏は終わるのだと思う。

 夏にそれほどの思い入れもなく、できたら暑さは早く去ってほしいと思う方なのに、夏の終わりを想像しただけで、少し寂しい思いまでした。

 自分のことだけど、なんだか勝手なものだと思った。





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