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「なじみのない言葉」が、耳に残らないことが多い理由を考える。

 病名でも、メジャーなものと、そうでないものがある。

 とても不謹慎な例で、申し訳ないのだけど、プロ野球界のスーパースターで、プレーヤーとしても監督としても輝かしい実績を持つ人物が、病に倒れたことがあった。

心房細動

 その時は、午後のワイドショーでも、医師が記者会見を開いていて、その病状に対して、説明をしていた。

 心房細動の発作による脳梗塞。

 そんなような内容を、一度だけでなく、何度もしていたし、その映像も夜になるまで繰り返し流れていた。

 私にとっても、スーパースターの一人でもあったから、その病状に関しては、心配する気持ちもあったのだけど、それと同時に、これで、自分の持病に対して、人から聞き返されたり、覚えてくれないことは減るかもしれない、とも思っていた。

 私も、心房細動の発作に襲われたことがあった。

エイリアン

 親の介護と看病に加えて、病院関係者に精神的に追い込まれたこともあり、心臓の発作を起こした時がある。

 最初は、ろっ骨の下に痛みがあって、胃腸かな、なんだか変だと思っていたら、胸の中で、何か知らない動物が暴れ始めたような感覚があった。それは、自分の意志とは別に、どんどんその激しさを増して、ただ、怖くなった。その上で、時々、脈が止まったと思える時まであった。

 イメージとしては、映画で見た「エイリアン」だった。
 体内に卵をうえ付けられ、それが育って、人間の体を破って、誕生する、というシーンがあって、そのことを思い出して、ありえないと思いながらも、何かが自分のお腹あたりを破って出てきそうな気持ちになって、もう、死ぬんだと思えた。

 そんな時間があって、いろいろとあったものの、医師に診察してもらい、治療も受けた。それが、1分間に200や300くらいの細かい動きを不規則に繰り返していたこと。レントゲンも撮って左心房肥大を起こすような心房細動という発作ということ。それが脳梗塞につながり、命を落とすことや、麻痺が残ることもあるのを知った。

 その時は、30代だったけれど、そのくらいの年代の「突然死」の原因で、この心房細動が多いらしいことも医師の言葉で知ったが、幸いなことに、左側の視界が、数時間欠けたくらいで、後遺症もなかった。

 毎日のように薬を飲んだ。それが7年くらい続いて、今は、非常用にサンリズムという薬を持ち歩くくらいで、体調は安定している。

病名

 心房細動という病名を聞いたのは、その時が初めてだった。

 誰かに尋ねられて、その病名を伝えても、一度で通じることは少なくて、心臓の構造から話すことも多かったが、そこまで話すと、聞いている人は、ちょっと飽きているような感じになることも少なくなかった。

 そして、心房細動そのもので命を落とすことはないと言われているが、そのことで、心臓の中で血流が乱れ、血の塊ができて、それが脳に流れて、血栓として脳梗塞を起こす。

 そういう症状も、自分がまだ、心臓の発作が完全に治らない時に聞いたから、それまで全く知らないことだったのだけど、嫌でもありありと記憶に残ったし、本当に医学的にいえば、違うのかもししれないのだけど、その症状の流れのことは、今でも忘れることはできない。

 このnoteでも、何度か、この病気のことを書いたことがあったから、それを知っている方には、繰り返しになって申し訳ないのだけど、もしかしたら、こうして繰り返し書くことで、誰かに伝えようとすることで、その時のショックのようなものを、今でも少しでも和らげようとしているのかもしれない、とは思う。

 そして、今は薬を飲むことはないとはいえ、完治することはないし、何よりストレスが大敵で、しかも、急に発作が起きるとも言われていたし、その怖さは、コロナ禍により、持病がある場合は、より重症化しやすいのも常識になっているから、前よりは、心臓のことを意識する毎日は続いている。

なじみがない言葉

 最初に話は戻るのだけど、その野球界のスーパースターの病気のことに、当時は会話の中で触れた時に、ほぼ全員が、脳梗塞、という病名を語っていた。

 確かにそうなのだけれど、その原因となった心房細動について、あれだけテレビのニュースでも流れていたのだから、さすがに、誰かが覚えているか。もしくは、少し説明をしたら、そういえば、脳梗塞の話の前に、何かの病名が出ていたような気がする、くらいの反応をする人がいると思っていた。

 だけど、これまでにその話をした人の中で、もちろん個人的な狭い範囲に過ぎないのだけど、あれだけ、何度も言われていた「心房細動」という病名を覚えていた人はいなかった。しかも、その原因として、何かの病名が語られていた、という抽象的な記憶を持っている人すらいなかった。

 人は、なじみのない言葉は、本当に、耳に残らないし、記憶にも定着しない。

 それも、その物事がなかったかのようになっていることに気がついて、自分も含めて、人間の記憶というのは、かなり限定的なものだというのを、その心房細動という病名にまつわることで、思い知らされるように、改めて気がつかされた。

 おそらくは、自分自身も、浴びるほど聞いていたり、接していたりしても、自分になじみのないもの……つまりは、自分と関係が薄いことに関しては、関心が働きにくく、同時に記憶に残りにくい。それは、人間が自分に必要な情報を無意識で選択しているということでもあることかもしれない。

 カクテルパーティ効果、という言葉があって、それは、あらゆる音に囲まれていていても、自分が必要な音だけを認識する、という感覚的な特徴のことを指している。

 それと同様に、自分に関心があること、関係がありそうなこと、なじみがあることだけが、よく聞こえてくるし、記憶に残りやすい、という傾向は、人間には、あるのかもしれない。

話を聞く、ということ

 そんなことまで考えると、人の話を聞くことの難しさにも、思いあたる。

「人の話をきちんと聞く」のは、その内容や、もしくは話している人に対して、なじみがないことも多く、それに対して、きちんと想像力も働かせながら、正確に聞いていくことは、思った以上に難しい。

 その理由を未熟ながらも推測すると、自分に関係のなさそうなことに対して、平等に注意力を働かせることは、本来の人間の能力から考えると、かなり不自然なことかもしれない。

 さらには、自分のための情報を効率よく集めるといった生存のための行動から考えると、もしかしたら無駄なことになる可能性もある、と思う。

 だから、「人の話をきちんと聞く」ことができるためには、その自然さに逆らうような姿勢や、態度や能力を身につけることにも近いから、傾聴をするにもトレーニングが必要、ということになるのだろう。


 ただ、なじみがないことを聞いて、考えることは、場合によっては、より広い世界を知ることになるから、さらに長い目で見たら、自分の生存にも有利に働く場合もある。

 だから、もしも、そういう成功体験を持つことができれば、それが、遠回りかもしれないが、「人の話を聞く」ことにもつながるような気がするのだけど、それは、ちょっと強引すぎるのだろうか。

 そんなことも、考えることができた。




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