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最新のビル・新しい企業・エリートな気配・クールすぎる空気。

 大きめの駅で降りて、久しぶりの改札を出ると、駅前の風景が変わっているように思えた。

 それは、それまでに記憶にないような大きく新しいビルができていたからだった。そこには、あまり聞いたことのない店などもあって、魅力的に見えたので、そこを通り過ぎて、用事が終わってから再び目の前を通ったので、そのビルに入ることにした。


飲食店

 外から見たら、ロゴもカッコよくて、何かあまり見たことがお店の名前だったので、珍しくておしゃれなものが売っているのでは、と妻と一緒に思って、何段かの階段を登って、そのビルの1階を回った。

 そうしたら、小売店というのではなく、大体は飲食店で、それも確かにあまり見たことがないような感じの店でおいしそうだったけれど、今は食事の時間でもなかったし、微妙に高そうで、最近いろいろと値上げもあって、節約モードにもなっていることもあり、気持ちが惹きつけられなかったが、それは、こちらの問題もあるだろうけれど、それでも、妻は他の店も見たいらしく、さらにエスカレーターで上階に登った。

 そこには、飲食店があって、ビルの角の店は、広いバルコニーのようなスペースにテーブルとイスも並んでいて、とても気持ちよさそうだった。駅の道路側とは逆の方向になる、その下には、意外にも公園というか、緑が広がっていた。

 ベンチもあって、小川も流れているようだ。

 なんだか気持ちよさそうだと、妻が言って、1階にはアイスクリーム屋もあったので、その提案をしたら、うーん、でもちょっと冷えちゃうかも、とやや難色を示したので、さっき、外から見えたコンビニに行って、コーヒーを買おうという提案をしてもらったので、それにのることにした。

上階のコンビニ

 さっき、外からみたときは、確かにコンビニが見えた。

 それも、建物の端っこ、という位置にあるはずで、だから、今いる場所とは、ビルでいったら逆の方向に行けばいいと思った。とはいっても、最新に近いビルのためか、その通路は真っ直ぐだけじゃなくて、微妙なうねるカーブがあって、だから時々、進んでいる方向を見失いそうになりながら、なんとか駅側の広い道路が見えるところまで来た。

 だけど、目指すコンビニはなかった。

 妻と二人で、さっきは確かに、ここにあったのに、などという話をして、また少しそのへんを探して、、と思って、さらに上を見たら、ちょうどもう一フロア上に、そのコンビニはあった。

 そこに行くには、開かれた商業施設の部分ではなくて、もう一度通路を戻って、また自動ドアがあるところに入らなくてはいけない。

 すでにやや敷居が高い感じがあるが、自動ドアが開くと、ちょっと冷房の温度が低い。そこには、ベンチがあるのだけど、そこは背もたれの部分が恐竜のように高くなっている木製のオブジェのようになっている。アーティスティックなたたずまいもある。

 もう、ここは違う場所、と告げられているようだった。

 すでに、アウェイな感じがするけれど、エスカレーターを上がると、そこは、すでにドラマなどではよく見る大きくて新しい企業にはありがちな、駅の自動改札のようなゲートがある。それも、その前の通路と比べると、すぐそばにある、という感覚で、エスカレーターを降りたら、そのゲートに入らない人間にとって圧迫感があるのは、その前に警備員がいるせいもある。

 このゲートから先には、新しく、これからも未来がありそうな企業ばかりがあるようだ。

 そこを通り過ぎて、少し曲がった通路の向こうには、目指すコンビニがあった。

 道からはあんなに近くに感じたのに、来るだけで、こんなに手間取るとは思わなかった。

黙食

 そのコンビニに行くと、どうやら、このビルに勤めている人が来ているように思えた。やや緊張感があるというか、まだ仕事の途中のように感じてしまう。

 首からは会社のスタッフを示すような札を下げていて、それが、もしかしたら、さっきのゲートを通るときに、かざす目的もあるように思えたが、中には、家にいるのでは、というくらいのTシャツにハーフパンツに近いカジュアルな格好をした若い男性もいる。

 あのゲートの向こうには、新しくて、外資系で、かなり勢いもあるし、そこに入社するのはとても難しそうだし、おそらくはシステムエンジニアといった職業の高いスキルだから、服装は問われないのだと思った。(全部、推測なので違うのかもしれない)。

 コンビニの奥にイートインのスペースがあって、その区切りをするパーテーションのような場所には、「黙食」という文字が見える。

 コロナ禍はまだ終息はしていないから、そのためのものかと思ったのだけど、でも、マスクをしている人もほぼ見かけなかったので、勝手な連想だけど、昔の私語禁止のラーメン屋とか、厳しい社食に近い存在なのか、などと思ってしまった。

 別に禁止までいかなくても、黙ることを推奨しなくても、そこにいる人たちからは会話の気配もなかった。

 コンビニで、最初はホタテとか、イカとかに妻は目がいったようだったけど、途中で、あ、コーヒーには合わないか、と言ってくれて、エクレアにした。

 それと、コーヒーの「S」を二つ頼んだ。店員は、おそらくは海外からの若い男性だった。商品を購入して、コーヒーを2つ持って、キャップを締めるのに手間取りながら、外へ出ると、通路の際には、やはり、ちょっと普通ではないおしゃれそうなベンチがあり、そこには、麺類をためらいなく真っ直ぐにすすっている男性が一人で食事をしていた。周囲に人がいることは、全く気にしていない様子だった。

 そこから、また警備員のいるゲートのすぐそばを通って、エスカレーターを下って、自動ドアの外へ出ると、外気だったから、物理的にも気温が上がったけれど、気持ちもちょっとゆるんだのは、ビルの中は、自分たちがよそ者だから余計に感じていた緊張感が満ちていたせいだと思う。

公園の緑

 コーヒーを持って二人で階段を下って、建物の隅の方へ行って、さらに下へ行くと、公園に着いた。

 思ったよりも緑が多くて、ちょっと静かに感じて、小川のせせらぎもある。

 ベンチは、その公園のあちこちにあって、面積あたりを考えたら、多めかもしれないが、先客は2人ほど若い男性が座っている。

 妻と一緒に、他の二人とは距離がとれる場所に座って、エクレアと、もっと前に買って一個だけ残っていたチュロス風のパンを食べて、コーヒーを飲んだ。

 おいしかったし、やっぱり少し上を見て、緑が目に入って気持ちよかった。

 妻と、何かを話して、笑って、都市の真ん中で、上を見ると新しめの高いビルが見える。何階あるのだろう。タワーマンションは新しく、人間という小さい存在から見ると、真っ直ぐ建っているというよりは、こちら側に少しお辞儀するように、ちょっとゆがんで見える。

 その上に飛行機が飛んでいく。

 何年か前に羽田空港の飛行機の空路が、確か海外からの観光客の増加に合わせて路線を増やし、そのために変更になったはずで、こうして街の中でも、飛行機が飛んでいく姿が、かなり近くに見えるようになった。

 その度に、音もする。

 この地上の位置から、これだけ大きく見えるのだから、タワマンの最上階だと、どれだけ近く見えるのだろう?でも、音は聞こえないか。上を見上げなければ、わからないかも。などいう会話を妻とする。

 公園の中には小川が流れていて、その前にはプラスチックの鎖があって、まるで入ってはいけない場所のようになっている。

 そこに下げられたフダには、「生き物を放流してはいけません」や、もっと大きい文字で「アメリカザリガニは、放流禁止」と、赤文字も含めて書かれているから、なんだか、やってはいけないことのようで、そのうちに防犯カメラなども設置するのかも、というより、もうすでにセッティングしているのかも、などというようなことを思う。

 アメリカザリガニは、とてもなつかしく、子どもの頃に、こういう小さい川のような場所で、たくさん捕まえた記憶がある。残酷なことに体をバラして、それをさかなつりのエサにしたりしていたけれど、他のザリガニに比べて数が多かったせいか圧倒的に身近で、ザリガニといえば、このアメリカザリガニで、たしか「まっかちん」などと呼んでいた。

 そんな古いエピソードを少し妻にも向けたが、そのことにあまり関心はないようで、あ、というような声を出して、立ち上がって、川のそばへ歩いていく。

 しばらくそこにある緑に顔を近づけて、戻ってきて、ハンゲショウだった、とうれしそうに教えてくれたものの、私にとっては未知の名前と存在だった。

 そうして、しばらく座って、ささやかなお菓子を食べ、久しぶりのコンビニのエクレアは、外側のチョコだけではなく、中のクリームも充実していて、やっぱりおいしいかも、というような気持ちにもなり、そして、コーヒーを飲んで、今日は、出かける前にいつもならば準備する小さいポットにインスタントコーヒーを入れるのもバタバタして忘れてしまったし、カフェなども混んでいたから、今日、初めてのコーヒーだった。

 おいしいねえ。

 妻がしみじみと言って、なんだかおかしくなったのだけど、こうしてささやかでも緑があって、なんということもない話をする相手がいて、空を見上げたりして、もうすぐ帰りの通勤ラッシュだから、と微妙に気にはしているけれど、基本的には時間のことをそれほど考えないで済んで、こうして何も目的を持たない時間を持てるのは、恵まれているんだ、と思えた。

 小さくても緑に囲まれるのは、本当に心身にいいのかもしれないと改めて思う。

クールすぎる気配

 その公園は、かなり独特の明るい服装の女性が通り過ぎて行ったり、若い学生のカップルが待ち合わせをして、どこかへ歩いて行ったりと、途中の場所として利用されていたみたいで、先客の2人以外と、私たち以外はベンチに座っている人は増えなかった。

 そのうちの一人は、Tシャツにハーフパンツのような、かなりラフな格好だったけれど、首からプラスチック製の名札のようなものを下げていたから、もしかしたら、さっきのゲートの中にある新しい企業のエリートの一人かもしれない。

 この公園で聞こえる一番大きい声は、その若い男性の発する音声だった。

 それも、スマホを前にして、もしかしたら映像も含めて、顔を見ながら会話をしているらしかったのだけど、楽しそうで、それがしばらく続いていた。ここにいない誰かとずっと会話をしていて、今日は平日だし、これからまた働くのだろうという感じもあったから、休憩をとっているのだろう。

 そして、その自分のペースを守るような姿勢とともに、さっきほんの少しだけ垣間見た新しい企業の、有能なエリートの人たちも、そのマイペースな空気は強めに発していたように思えたし、さらに、あのとき、ちょっと冷たいのでは、と思うくらい、クールな空気で満ちていたのは、冷房のせいで気温が低いだけではないような気がした。

 もちろん、これはエリートとは縁がない人間のゆがんだ見方かもしれないけれど、思い出した、その時間では、声が聞こえなかったことに気がついた。

 そこにはかなりの人数がいて、忙しそうに歩き回ったり、同時に、コンビニのイートインや、通路のわきや、入り口付近のベンチに座って、黙々と食べていた人もいたけれど、その時に見かけた人たちは、全部が単独行動だった。

 そして、隣にいる人の存在に対しては、そこに誰もがいないかのような振る舞いにも見えていたし、何しろ会話というものが存在しなかった。

 もちろん、これは、他人同士が集まっている場所では珍しくないし、企業が集まっているビルの中のコンビニで、あれだけクールな気配になるのは、逆に今では自然なことなのかもしれない、などとも思った。

 それでも、その後、公園での時間が終わり、立ち上がり、帰りの支度をして、また駅に向かって歩き始めたら、この新しいビルの1階には、さっき行ったコンビニと同じコンビニがあって、どうして、同じビルに2つもあるのだろうと思ったけれど、1階の空気はもう少しざわざわとしていたから、やっぱり、あの場所はちょっと違う空気感があるのかも、とは思った。

 でも、会社の中では、もう少し会話があったりするのだろうか。

 確かGoogleのアメリカの本社のようなところでは、カフェやレストランや、プレイルームのようなところもあることを、テレビか何かで見たから、このビルの中でも、外側のコンビニとは違って、良質なコミュニケーションがおこなわれる場所が設置されているのかもしれない。

 そんなことを思うほど、ビルはきれいで、そこにいる人たちは、すごく優秀そうに見えていた。

 自分にとっては、やや違う世界なのも間違いなかった。




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