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「非正規」への忘れていた視点。

 非正規社員。

 この言葉自体が、変ではないか。

 正社員、は「正しく」、非正規 は「非正」で、まるで正しくないようにも思えてしまう。

 その「肩書」というか、呼び名であり、名称でもあるのに、その最初の漢字が、否定を表すものになっているというのは、やっぱり変だと思うし、社員の上に「正」や「非正」という言葉で分けるのは、差別的な感情を生み出しやすくなるのではないか。

 同一賃金、同一労働が原則であり、それは、本当にそうだとしか思えないけれど、そうであれば、その名称も同じにして、単純に「社員」にすればいいはずだ。それは、今の日本国内での「非正規」という雇用方式は、もう禁止すればいいのではないか、という思いにもつながる。

 こういうことは、社会や現場を、本当の意味で知らない、気楽な発想に過ぎないのだろうか。

非正規雇用の給与

 最近、読んだ本の中で、こうした一節があった。

非正規雇用の従業員は、同程度の仕事を行う正規雇用の従業員に比べて一般に給与が低く設定されています。非正規従業員は、臨時、短期、不定期など労働力の需要の変動に柔軟に対応するための調整弁であることが多いので、本来は給与が割高でなければならないはずです。しかし現実は逆になっています。同一労働同一賃金ということになってはいますが、業務の範囲や責任の大きさの違いなどを理由にかなり低く抑えられているのが現状です。

 最近、「寄り添う」という言葉は使われ過ぎて、やや違和感すら感じる時があるのだけど、この産業医の方は、メンタルヘルスを書いているのに、もっと距離をとって、冷静で、現実的な印象を受けた。そうした姿勢に思える人でさえ、「非正規雇用」に関して、こうした書き方をしていた。

 この中で、「非正規従業員は、臨時、短期、不定期など労働力の需要の変動に柔軟に対応するための調整弁であることが多いので、本来は給与が割高でなければならないはずです。しかし現実は逆になっています。」と指摘されていて、そのことで、私自身でさえ、こうした「働くことと給与の原則」すら忘れていたのに気がついた。

 それは、考えたら、怖いことだった。

プロとしての非正規

 例えば、サッカーのJリーガー。プロ野球のプレーヤー。

 この人たちも、働き方のジャンルで言えば「非正規雇用」に近いのだと思う。実際は、それぞれが自営業として働いている、というプロだけど、でも、働く場所と契約を結ばないとプロとして働けない、という意味では、非正規雇用に見える。

 ただ、この人たちは、成績が悪かったら、1年でクビにもなるけれど、だからこそ、その給与は高い。

 極端に言えば、金額に違いはあるとしても、「非正規雇用」全体も、こうした発想で給与水準が定められてもおかしくはない。

 つまり、企業の都合で、いつ切られてもおかしくないけれど、今必要だから雇う。そういう不安定と引き換えに、給与水準は高く設定されるという方法。

 考えたら、そんなごく当たり前の「働くこと」の大原則が、今の社会では通らなくなっているし、私自身も、非正規の方が給与が安い、ということを当たり前に思い過ぎていて、本来のことを忘れていた。

人として大事にする

 こうしたことが、まかり通っている理由は、もしかすると、人に冷たい国だから、なのではないか。

 そんなことを思うようになったのは、私自身は、介護をしていたせいもあるかもしれない。例えば車イスと共に外出すると、弱った人間に対して、優しくないと思うことが、自分のことを棚に上げても思うことが多かったからだ。

 この記事の中で、社会学者の西田亮介氏が、冷たい日本社会。という指摘をしていて、それを前提に社会のシステムを考えた方がいい、といった分析をしていることを引用させてもらったのだけど、それから、この印象は強まることはあっても、弱くなることはない。

 さらには、この冷たさは、実は、もっと根が深く、伝統的と言っていいほど歴史的なものがあるかもしれないと思うこともあるが、それは、もし別の機会があったら考えたいし、今からできるのは、非正規と正社員という「区別」を、本当だったらすぐにでも無くすのが筋だとは思うのだけど、それが無理ならば、少なくとも非正規の給与水準を、正社員より上げるべきではないだろうか。

 それに対して、さまざまな批判が、おそらくは非正規雇用の当事者の方からも飛んできそうな気もするのだけど、そうしたことを法律で定めたりしないと、「人を、人として当たり前に大事にする社会」から遠ざかる一方で、あまりにも冷たすぎる社会に進み過ぎてしまうような気もしている。

 もう「冷た過ぎる社会」になっているのかもしれないけれど、それでも、少しずつでも違う方向に進むことはできると思いたい。

 などと言っていること自体が、すでにおめでたいだけなのだろうか。






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