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テレビについて㊶『じゃないとオードリー』----ドキュメントな存在にもなれる柔らかさ。

 自分が前もって知らないだけかもしれないけれど、夜中に突然、『じゃないとオードリー』が始まることを知り、あわてて、予約録画をした。

 2022年10月13日、20日の深夜で二週連続放送だった。

オフゼロ

 今回の企画は、いろいろなことをオードリーがする、といったことではなく、基本的にはシンプルだった。

 それは、「日向坂で会いましょう」、1日3本の収録をする日に『じゃないとオードリー』が密着し、その時間の中で「オフゼロ」というミッションを遂行する、という企画だった。

 たとえオードリー二人きりの状態であっても、常に相手を笑顔にすることを忘れない「オンの状態」を強制されるということで、その「指令」を、収録を始める前のオードリーの若林と春日に伝えると、どちらもしんどそうな表情をしていた。

 二人だけの楽屋を隠し撮りした映像では、最初に春日が座っているところに、若林が入ってくるが、挨拶も声をかけることもなく、本当にどちらも他に人がいないかのような反応だった。

 こうした「オフ」の状態をつくらず、番組3本の収録中だけでなく、その合間も含めて、1日中「オン」になるのは、確かに、ずっと走り続けるような感覚だから、想像するだけで疲労が増すかもしれなかった。

 何しろ、毎日のようにテレビで顔を見ているということは、ほとんど休みもなく働いている、ということだろうから。

日常の様子

 それでも、二人だけの楽屋は、想像以上に沈黙に包まれていたといっても、これまでテレビを見続けてきた人間の感想としては、ここまではっきりと映像化はされなかったものの、それまで芸能界の噂として聴いていた話が具体的なものとして目の前に現れただけ、という印象でもあった。

 それは、古い話で言えば、大きな笑いを生み続けている落語家が、自宅ではくすりとも笑わないし、下手をすれば一言もしゃべらない。

 テレビ画面では、永遠に話し、笑わせるのが好きに見える芸人が、カメラが止まると表情が止まり、ほとんどしゃべらなくなり、話したとしても声がとても小さい。

 特定の誰、ということではなく、芸人やタレントなど、人前で仕事をする人の、そうしたオンとオフのギャップがある、というエピソードは、これまでも、いろいろな場所で聞いてきた。

 視聴者としては、オンの状態で、あれだけのしゃべりをしているのだから、普段までそれを続けたらエネルギーが持たないし、何よりノドへの負担も大きいし、たとえばサッカープレーヤーが、試合以外でもずっと走っているわけでもないのだから、どこかで自然なことだとも捉えていた。

 稀に、オンとオフの差がないように、ずっと面白い人もいるというのも、聞いたことがあったものの、それは、ごく一部のモンスターみたいな人だと思っていた。


 オードリーの二人は、普段は話さない、といったことが、他の芸人から聞かれることも少なくなかったから、そういうモンスターではないだろうと思っていたから、こうした「オフゼロ」の1日は、より厳しいのかもしれないと思っていた。

 同時に、この二回にわたって放送が終わった時には、この二人が「疲れたね」といったコメントを言いそうな姿もイメージができた。

ドキュメンタリー

『じゃないとオードリー』放送の一回目は、普段は話さない二人が、さまざまな場所で言葉をかけ、相手が戸惑う、というぎこちなさのようなものを感じさせる場面が多く流れた。

 その関係者の姿を見て、視聴者は、これまで本当に話さなかったんだ、という、それでも小さい驚きのようなものもあったけれど、それでも、バラエティをドキュメンタリーに近づける力のある若林も、その状況に(しんどいとしても)自分を委ねているのはわかって、ドキュメンタリーの主役にもなれる柔らかさは感じていた。

 だから、しんどさも隠そうとしなかった。

戸惑いと変化

日向坂で会いましょう」の1本目の収録中に、カメラが止まっている時も、日向坂のメンバーに話しかけるオードリーは、最初は不審がられ、もっと言えば怖がられていた。

 どうしたんですか?ハイになる飲み物でも、飲んでいるんですか?

 そんなことまで、アイドルに言われるほど、普段は黙っているんだと改めてちょっと驚くのと同時に、最初は、不審がっていた彼女たちも、休憩中は、すぐに楽屋に帰るオードリーが、スタジオに留まり、さらに話しかけるので、そのうちに日向坂のメンバーの方から、普通に話しかけるようになる。

 それは、テレビカメラの前での、「企画」があっての出来事とはいえ、ドキュメントな変化が起こっている現場だった。


 さらに、視聴者にとって、もしかしたらオードリーにとっても、想像以上のことが起こった。

「ミッション6。収録終了の去り際にかっこいいことを言え」

 3本の収録のあと、『じゃないとオードリー』からは、そんな指令が下っていた。

 ただ、収録後、サプライズで若林の誕生日ケーキが運ばれてきて、ペースが狂って、そこで当然だけど、感謝の言葉を述べ、やりにくくなったと思っていたら、若林は、スタジオの去り際に、さらに踏み込んだ言葉を発した。

 日向坂では、今年、卒業したメンバーがいて、だから、いつまでも続くわけでもなく、かけがえのない時間を一緒にいることの貴重さと、そのことへの感謝のようなことを、話した。

 その言葉で、涙を流すメンバーもいて、その表情で、さらに若林の発言が、背中を押されたように見えた。

 オードリーは、武道館でイベントを行なって、そこで達成してしまった気持ちになっていた。だけど、日向坂の東京ドームを見て、次はドームと思えた。つまりは、モチベーションを持たせてくれた、ということのようだった。

 もしかしたら、勢いで言ってしまった部分も大きかったり、笑いも狙っていたのかもしれないけれど、それは嘘ではなく、何か本当のことが生まれたようにも思えた。

コミュニケーションする動物

 最後のミッションは、オードリーの二人だけでクルマに乗って、お互いを笑わせろ、というものだった。

 春日は、集中できなかった、という感想を述べ、それを受けた若林は、それは自分にとっては逆だった、という言葉を返した。

 それから、しばらく若林が話し続ける。

 ……みんな本番で、エネルギーを出すから、他のところでは、しゃべりたくないんだ、と思っていた。だけど、違った。
 
そうでないところでも、話すことで、番組が明るくなった。

 ……俺の負けだよ。

 本番だけ出す方がいいと思っていた。だけど、人間は、コミュニケーションする動物だよ-----。

 言葉の細かいところは違うかもしれないけれど、若林は、何度か、俺の負けだよ、という言葉をはさみながら、そうした話をした。


 さらに、春日との話の中で、若林が、春日のことをジャッジしているように思われていたことに対して、そこは反省している。これだけのキャリアになって、そんなことをしないよ。正直、尊敬しているから。

 そんな話から、笑いにつなげたものの、おそらくは本音のように感じた。

 そして、こうした「オフゼロ」のような企画は、全コンビやった方がいい、と若林は言った。

 こうして受け入れ、変われる柔らかさがあるから、生意気な言い方だけど、オードリーはまだ成長するかも、と思えた。

バラエティ

 その後、『じゃないとオードリー』の密着をしていた「日向坂で会いましょう」が、本当に変わったのかを確かめたかったけれど、次の日曜日には、同じテレビ局だけに、そのことについても触れていた。

 収録でいえば、2本目、3本目の方が変化したように見えたから、その後も気になったが、その翌週は、明らかに違う時のロケが入ったので、10月30日、11月6日で、その3本目までを見られたのだと思う。

 それで、確かに、番組は明るくなったように感じたけれど、失礼ながら、それ以前の「日向坂で会いましょう」をそれほど見ていなかったので、気のせいかもしれなかった。


 ただ、この記事にあるようにオードリー自身は、その変化を実感していたようだし、他の番組でも、『じゃないとオードリー』のような「オフゼロ」は、「全コンビやった方がいい」と若林が何度か発言していた。


『じゃないとオードリー』は、バラエティだったけど、ドキュメンタリーでもあった。



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