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読書感想 『おんなのことば』 茨木のり子 「生活と地続きで、同時に遠くからの言葉」

 、特に現代詩は、自分の中にとても深く潜るか。もしくは、とても遠い宇宙へ意識を運ばせるような作業が必要な印象があって、だから、どこか覚悟が必要だったり、時間や場所を確保しないと、といった思いにもなる。

 もしくは、現代詩を読むには、ある種の訓練が必要ではないか。といった気持ちと、だから、自分には読む資格みたいなものがないのではないか、と微妙な後めたさを感じることもある。

 それでも、言葉になっていないぎりぎりの場所に、詩人という人たちはいて、そのことで、世の中の何かが、確実に広がっていくのだとは思っている。だけど、そんなことを思いながらも、詩を読むというか、触れるのには、個人的には、ちょっと、しんどい部分がある。

「おんなのことば」 茨木のり子

 私が知っていたのは、「自分の感受性くらい」だけど、実は、ドラマの中などでも比較的多く作品が紹介されていて、だから、もしかしたら、個人的には谷川俊太郎の次に、実はメジャーな詩人なのかもしれない、と改めて感じた。

 この春になって、茨木さんのお許しをいただいて「おんなのことば」は生まれることになりました。茨木さんの六冊の詩集から三十五編を選んだ詞華集(アンソロジー)です。若い人たちの読みやすさを考えて、原詩にはないふりがなをいくつかつけました。

 そんな編集者の田中和雄氏の気遣いもあるせいか、今回、茨木のり子の詩を、一編ずつゆっくり読めたように思う。

 そして、改めて、自分の日常と、どこかつながっているように感じる。その上で、やはり、日常とは違う場所での言葉が使われているのは、わかる。だから、日常と隔絶してはいないけれど、少し遠い場所に連れていかれるような感覚にもなれて、それは、大げさに言えば、時間の流れ方が、少し変わる。

「いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまた、生きとし生けるものへの、いとおしみの感情を優しく誘い出してもくれます。」
 茨木のり子さんの「詩のこころを読む」(岩波ジュニア文庫)の冒頭の文章です。私はこの二行をくりかえし読みました。
                (あとがきに代えて  童話屋  田中和雄)

 そして、私にとって、この書籍を読むきっかけになったのは、「一人は賑やか」だった。

一人は賑やか

一人でいるのは 賑やかだ
 賑やかな賑やかな森だよ
 夢がぱちぱち はぜてくる 
 よからぬ思いも 湧いてくる
 エーデルワイスも 毒の茸も

 一人でいるのは 賑やかだ
 賑やかな賑やかな海だよ
 水平線もかたむいて  
 荒れに荒れっちまう夜もある
 なぎの日生まれる馬鹿貝もある
  
 一人でいるのは賑やかだ
 誓って負けおしみなんかじゃない
 
 一人でいるとき淋しいやつが
 二人寄ったら なお淋しい

 おおぜい寄ったなら
 だ だ だ だ だっと 堕落だな

 恋人よ
 まだどこにいるのかもわからない 君
 一人でいるとき 一番賑やかなヤツで
 あってくれ」


汲む
 ―Y・Yにー

大人になるというのは
 すれっからしになることだと
 思い込んでいた少女の頃
 立居振舞の美しい
 発音の正確な
 素敵な女のひとと会いました
 
 そのひとは私の背のびを見すかしたように
 なにげない話に言いました

 初々しさが大切なの
 人に対しても世の中に対しても
 人を人とも思わなくなったとき
 堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
 隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

 私はどきんとし
 そして私は深く悟りました」

本のつくり

 2編目は、「汲む」という詩の一部の引用で、この本の最後に置かれている。
 それは、この詩集を作った人のメッセージにも思える。
 
 この詩集は、小さい。しおりもついている。文庫本サイズでありながら、ハードカバー。持ち歩いて、大事に読めるたたずまい。詩だから、ページ数に比べると、読むのに時間もかかる。挿絵も柔らかく、どこかホッとする役目もきちんと果たしている。

 詩集の中から35編を選んで組まれているのだけど、この本のつくり自体から、言葉をとても大事にしている、ということまで伝わってくる。

おすすめしたい人

 とても忙しくて毎日が早く過ぎていってしまう人。
 逆に、いろいろなことが停滞して、何も分からない気がする人

 特に、そんな方に、おすすめしたいと思っています。
 それは、ほんの少しだけど、「いま・ここ」から距離をとって、気持ちが楽になるように思えるからです。




(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。



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