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テレビについて㊿番組の質を変えた「食べ手」の力------『イキスギさんについてった』

 その番組のタイトルは、夜中のテレビを見ていると、視界のすみに入ることが多かった。

 こうしたバラエティーは、「激レアさん」に代表されるような、社会的には「ちょっと変わった人」の面白さを扱うことが多く、場合によっては、面白がる、を超えて、視聴者にとっては「いじる」に感じることもあって、それは、大げさに言えば、排除につながりそうな気がして、そうした番組は、あまり見なくなりつつあった。

 だから、妻が「ラーメン」に注目して録画してくれたから、たまたま見たに過ぎなかった。

「イキスギさんについてった」 伝説のラーメンに男泣きSP

     ラーメンは、好きな方だと思う。

 でも、ごく一般的な「好き」なくらいで、もしかしたら、店で食べる本格派よりも、カップ麺に代表されるインスタントの方が、なじみがあるかもしれない。

  その程度の知識で、だから、福島県の喜多方ラーメンは一応知っていて、本場にまで出かけることはないものの、チェーン店になった喜多方ラーメンは食べたことがあるくらいだったから、その福島県でも、さらに、いろいろなラーメンがあって、「郡山ブラック」は、どこかで聞いたことがある、といったレベルの情報しか知らなかった。

  その「郡山ブラック」が、今回の「イキスギさんについてった」のテーマだった。

2004年、突如閉店したあるラーメン店
郡山でその一杯は今や伝説となっている
同じ味にいつか出会う事を夢見て、19年間探し求めている男に密着!

   これだけを読むと、おそらくは、これまでにも何度も見たような番組のテーマだったし、この番組が始まると、司会、というか番組進行とコメントなどを担当していたのが「ジャニーズWEST」と、ゲストとして、安定した力を常に発揮するハリセンボン・近藤春菜がスタジオにいた。

  そして、福島県・郡山市で、伝説のラーメンを探す役割は「ジャニーズWEST」のメンバー小瀧望が、小瀧Dと呼ばれつつ担っていた。

   そこへ、「伝説のラーメン」を探し求めている男性が合流した。

   高田啓史さん。ビジュアル系のバンドの一員の、日常の姿のように見える男性が現れた。この人が何をしている人かも分からなかったが、ラーメンのTシャツをさりげなく着て、なるとをデザインした指輪もして、何よりも、19年間、「ある味」を求めて、ラーメンを食べ続けている人、ということは伝えられた。

 ここまでは、既視感のある展開だった。

伝説のラーメン

 「伝説のラーメン」というのは、2004年に突如閉店してしまった「ますや分店」という店。その「郡山ブラック」の味は、取材によると、「本当に美味しかった」ということと、どうやら、その味を超える「ブラック」は、まだない、ということも、分かった。

 そして、この高田さんは、その「ますや分店」の味に出会いたくて、ずっと20年近く、食べ続け、それでラーメン3000杯になった、という人だった。この番組の今回のテーマは、その「伝説のラーメンの味」にたどり着く、だと伝えられた。

 ただ、ここからは、緊迫感が特に増したというのではないのだけど、徐々にシリアスな気配が強くなっていった。

「ます屋分店」の味は、番組に出てくる郡山のラーメン屋の店主も、あの味を求めている、という人が少なくなかった。そして、その店主たちの語り方や、何件かのラーメン屋でラーメンを食べて、その再現度を語る高田さんの姿にも、ウソが感じられなかったから、そうしたシリアスな気配になっていったのだと思う。

 もちろん、テレビ画面を通して、しかも編集された番組を見ているだけで、どこまで分かるかは不明だとしても、このラーメンマニアと言ってもいい高田さんは、とにかく「あの味」を食べたい、という目的の純度が高いことが徐々に視聴者にも伝わってくる。

 それに対して、少しずつ敬意を表するような、というか、もう20年も「本気で」追い求めてきたのだから、その店主が姿を現さない以上、無理だとは思いつつも、なんとか実現できないだろうか、というような気持ちにまでなっていた。

 この高田さんという方が、どんな仕事をしているのか、本当はどういう人なのか。そうしたことは最後まで分からなかったし、それは重要ではないのかもしれないけれど、テレビに出演する以上は、「自分が」という気持ちがないわけでもないはずで、マニアの中には、「こんなに詳しくて、追い求めて、クレージーな自分」に酔っているような人もいるのに、この高田さんは「自分のことよりも、あの味」という目標に徹しているように思えた。

「作り手」の力

 だからなのか、番組の力か不明だけど、最後は「ますや分店」の味を、プロとしても追い求めている3店舗の作り手が、本気で取り組んで、今は、90%の再現度に留まっている味を、さらに完璧に近づけようとすることになった。

 それは、「作り手」の力を最大限発揮する場面でもあった。

 そのラーメン制作過程も、さまざまな試行錯誤を3人で行なっているが、誰かが引っ張るというようなことではなく、完全に力を合わせ、淡々としているのだが、やるべきことをやって、ベストを尽くす、という姿勢に思えたし、その結果、出来上がった「郡山ブラック」に対しての、高田さんの姿勢も、見応えがあった。

 完成したラーメンを見て、すでに感極まりかけている。

 それは、ここに集まってくれた3人の「作り手」への敬意があるせいにも思えたし、20年近く食べてきた蓄積が「これは今までと違う」と告げていたのかもしれないが、スマホで撮影する手が震えていた。

 その時は、早く食べないと、という気持ちで見ていたのだけど、食べ始め、麺をすすり、スープを飲み、その途中で、おいしい、以外をほとんど語らずに、涙を流す姿は、本来、無関係である視聴者にとっても、まずは「よかった」という気持ちになった。

 高田さんが食べるとき、CMが途中に入っていたのだけど、妻は、それを見て、食べ始める前には、おそらく泣いていたと思う。

 テレビへの集中力が、私よりもはるかに上だから、妻は同じような気持ちになっていたのだろうけど、その「食べ手」の姿を見守っていた3人のラーメン店主も言葉が少ないものの、「食べ手」によって、心を動かされているのが分かるような姿だった。

 今回の企画によって、これから、この3人のラーメン職人は、さらに上の「郡山ブラック」を目指すだろうし、そのことによって、もしかしたら、気がついたら「ますや分店」を追い越す可能性まであるような気がしてきた。

「食べ手」の力

 時々、思うのだけど、こうして何かを書いたとしても、「読み手」がいなければ、おそらくは、書き手の質は上がっていかないと思う。

 アートでも、音楽でも、文化と言われるものは、その「受け手側」の力が、とても重要なのは間違いない。そのレベルが高いほど、「作り手」側の質も上がっていくはずだし、逆に言えば、「いい観客」がいなければ、「いいもの」は誕生しにくい。

 今回の番組は、バラエティなのだけど、「作り手」の質を高める「食べ手の力」というものを、すごく意識させられた。

 それは、特定のものを「とにかく好きな自分が好き」といったマニアも少なくない中、「伝説のラーメンのあの味」に対して、しっかりとした味の記憶と、「あの味」にもう一度出会いたい。という、もしかしたら不可能かもしれない願いに対して、全くブレがなく見えた「食べ手」によって、番組の質まで少し変わるというのを見せてくれた気がした。

 強い願いや目的が、自分の中ではなく、自分から遠くて、世界の側に置かれている。

 そのことが、周囲を巻き込む力を持つことまで、大げさに言えば、考えさせられたから、見てよかったし、録画してくれた妻にも感謝の気持ちがある。


 番組情報出ました 全国放送ヽ(´▽`)/  郡山のらーめんの素晴らしさを知っていただくきっかけになれば良いと思っております。 とても丁寧に取材していただきまして、郡山のらーめんや食文化の、歴史的資料としても素晴らしい内容になることと思います 皆様是非ご視聴宜しくお願い致します。

(どんな人なのだろうとTwitterを見ましたが、テレビ番組についての言及が、あくまで「郡山のらーめん」であるので、番組での印象とブレがありませんでした。なんだかすごいと思いました)




(他にもいろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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