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『大田区アートスポット巡り』--------「地元の豊かなアート」。

 最近、地元の大田区ではアート関連のプロジェクトが多いように思う。

 そして、何度か参加したせいもあって、新しいプロジェクトのお知らせのメールが来るようになった。


アートスポット巡り

(『大田区アートスポット巡り。青山悟といく』)
https://www.ota-bunka.or.jp/recruit/recruit01/aroundinotaartspot

 青山悟氏の作品は最近も見た。

 これまでも絵画や譜面などを信じられないレベルの精密さで刺繍をして作品を見せてくれていたのだけど、もっとシンプルなのに、現実と強く関わろうとする作品を制作したような気がして、キャリアを積んでも、さらに変わろうとしていた青山悟氏がガイドをしてくれるというので、すごくぜいたくな企画だと思った。

 ただ、このアートツアーは、「歩く」ということらしいので、それが不安で問い合わせをしたり、こちらのミスでバタバタしてしまったが、担当の方の丁寧な対応のおかげで、なんとか参加できることになった。

 ありがたい。だけど、暑いらしく、時間厳守もあって、なんだか前の日から緊張していた。

バス停

 何かの情報で、大田区の城南島にアートの施設ができて、それはなんだかすごいらしい、といったことを聞いたこともあったのだけど、同じ大田区内なのに、大森駅からバスに乗らないといけないし、その本数も少ないし、といった情報で、なんとなくおっくうになっていたのだけど、今回の集合場所が、その城南島だった。

 大森駅。午前10時35分発。

 それに乗るために家を出て、微妙に焦りつつも大森駅まで着いた。

 まだ20分くらいある。

 だけど、トレイに行ったりしているうちに時間が過ぎ、一緒に行く妻と、まずはバス停に行こうということになり、案内板などを見て、その乗り場の隅には、雑草が背が高く生えているようなバス停だった。
 そこで待っていたら、おそらく同じ目的と思われる人たちも待っていたし、今日のガイドをつとめてくれる青山氏の顔まであった。

 バスが来て、乗る。9月1日から値上げらしい。

 久しぶりに、少し遠いところまで、まだ行ったことがない場所までバスが進む。海らしき水面も見えてきて、空も広くなり、工場や倉庫ばかりがあるようなところのバス停で降りる。

 少し歩くと、細やかなレンガづくりの建物があると思ったら、そこが「城南島」だった。

三島喜美代

 おそらくは大田区のような海に面しているところにある独特の、埋立地のような環境。空には、飛び立ったばかりの飛行機が大きく見え、本当に無理に飛んでいるように見える。音も大きい。

 午前11時、ほぼ予定通りに集合ができた。

 そこから、20名ほどの参加者、大田区文化振興協会の担当者やスタッフの方々と、今日のガイドをしてくれる青山氏が中心になって、あいさつなどをし、今日の参加費を払い、そして、ART FACTORY城南島の中に入る。

 その中で、大きな体積や面積を占めているのが、三島喜美代の作品だった。

 まるで土をそのまま掘ってきて、そこにある新聞紙なども含めて焼き物の作品などで、ゴミが形作られ、そのまま大きな四角い固まりが並んでいる場所がある。

 新聞紙を模った立体作品が天井まで積み上がっているように配置され、迷路のようになっている作品もある。そこには裸電球で薄明るくなっている。

 広い場所に100年分の新聞をプリントした古いレンガのような立体が数限りなく並んでいる。

 スケールもすごいけれど、重みだけではなく、どこか軽みもあって、ガイドをしてくれていた青山悟氏は、ポップアートの影響もあるのでは、という言い方をしていて、確かに、三島は、90歳になっていて、それでも作品を変わらず作り続けているらしい。

   それだけの長いキャリアがあったのに、個人的には三島の作品は、今は無くなってしまった原美術館の庭に、新聞紙を焼き物として立体にしている作品しか知らなかった。そして、その時も、そこから他のバリエーションがあることを、恥ずかしながら想像できにくかった。

 この城南島で、そこにいるスタッフの方々の話によると、三島喜美代の評価が高くなったのは、ここ最近のことらしい。それも、こうして城南島で、常設展で作品が公開され続けていることが影響しているという。

 確かに恥ずかしながら、私自身もテレビなどでこの城南島の映像を見たときと、実際に、ここにきて、作品を見て、そのすごさを初めて知ったような気がした。

 アーティストの評価は上がったり下がったり、さらには死後に高く評価されたりするのだけど、80歳を超えてから評価されたとしても、それによって意欲も上がって、それで今でも作品を制作し続けている可能性もある。

 そんなことを考えられたのは、そして、広い視点を持てたのは、青山氏のガイドを聞きながらの状況で可能になったので、こうした企画でツアーとして来てよかったと思った。

スタジオ

 それから、そうした作品だけではなく、この施設の上階にある「スタジオ」を見学することもできる。

 ここは、かなりの数のスタジオがあって、そこはアーティストに貸与されている。そして、そこは普通に考えれば、かなりの低額らしい。そして、こういうシステムは、アーティストを育てるためには必要だと思えたし、それが地元の大田区にあるのは、ちょっと嬉しいが、これまで知らなくて、やっぱり恥ずかしい気持ちもあった。

 
 さとうくみ子のスタジオから見て回る。 

 20名ほどのツアー参加者と一緒に、交代で、そのスタジオに入って、作品を見て、青山氏がいろいろと聞いて、それに作家が答えるという時間が過ぎる。

 そこにある作品が、古くは吉田戦車の、不条理ギャグなどと言われた世界を立体化したようにも見えてくる。そして、それは、持ち運びができるように、という工夫があって、実用という要素が入ることによって、作品の魅力を複雑にしているようだった。

 荻野夕奈のスタジオ。これまで描いた作品。今、制作中の絵画が並んでいる。それについて、青山氏がいろいろと聞いて、偶然を生かすことなどを話し、それは、絵画特有のことではないかといった話題になり、とても興味深かった。

 まだ時間もあるようだったので、絵画を作品にしている人にいつも疑問に思っていることを聞いたら、答えてくれた。アートの中でも絵画は歴史も長く、偉大な画家も多い。その中で、自分が描いていく必然性や、あとは影響を受けることについて、だった。最初は、色々と影響も受けたし、歴史のようなものも考えた。だけど、描き続けてきたことによって、そのあたりは、あまり考えなくなり、目の前で描いていることに集中できるようになってきた、といった答えを誠実に話をしてくれた。

 確かに、そこに並んでいる作品は、最新作に近づくほど、画面全体に確信が満ちているように見える。それでも、改めて絵画の不思議さや、歴史の長さによる豊かさのようなことまで考えさせてくれた。

 中野美涼は、とても細かく描き続けていた。スタジオの外から見た時より、そばに寄ってメガネをかけて見れば見るほど、とても細かく描き続けているのがわかる。それは、青山氏の質問によって、その製作期間について、働きながら描き続けている、という状況を前提に、3年、という年月をあげる。

 それはやっぱりすごいことで、それでも、まだ完成していないと思っているらしい。

 そして、細かさを突き止めようとすると、それは、本当に際限がなくて、この方法を選択するようなことに、本人の必然性がないと、ただの苦行になってしまう可能性すらあると改めて思う。

 ただ、細かい手作業を徹底すると、その実物を前にすると、やっぱり何か言葉を失うような瞬間はある。

 早崎真奈美。確かに切り絵なのだけど、ただ完成度を上げていく工芸品ではなく、曖昧な境目としてのオブジェ、として制作している、という。だから、絵画のような、物質のような、微妙な感じを出すようにしているように思えた。

 完成度だけを求めていくのも、大変なことだと思うけれど、そうしたシンプルな方向だけではなくて、他にも意味を込めるというか、そういうのをどうしていくのだろう、みたいなことを思った。

 なんだか、不思議な気持ちにもなる。

 野中美里。色がきれいだった。それは風景なのだけど、いろいろな場所や時間も重ねている、というのに、そういう重層感というよりも、軽みのようなものを感じた。風景画というのは、それこそ、すごく長い歴史があるのに、見ていると、これまでのものとは違って、どうして新しく見えるのだろう。どうして、色が、これだけ出るのだろう。それに、作家が20代のせいだけではなく、作品が若く見えた。

 完成した作品を見ると、すごく一気に書いたように思える。だけど、作家本人に聞くと、すごく時間がかかるし、ペイティングの作業そのものも早くない。そんなことを言っていたのだけど、思いをそのまま形にしたように思えるから、そんなスピード感を勝手に感じているのだろう。

別館

 ここまでは4階という場所で、あちこち回って、それは他のツアー参加者とともに、ただついて回って、アーティストの話を聞いて、どこにいるのかよく分からなくなるから、はぐれると、この場所でも迷子になりそうだった。

 そこから、またエレベーターに乗って、1階に降りて、隣の建物に向かう。
 別館という言葉が聞こえたような気もしたが、とにかく人のあとについていくと、そこは、炎を使って、金属を加工する女性がいた。川名八千代。そこでは、何を製作しているのか、いまいちよく分からなかったけれど、それは、ユニットを組んで作品を作っていて、その成果を後で見て、少しわかることになる。

 その、とても温度が高くて大変そうな場所から、上階に上がる。

 當眞 嗣人。木工というジャンルになると思うのだけど、見たことがないような素材だったり、不思議な手触りだったりもしていて、新鮮だった。さらに、詩人でもあることを知った。そこには、同人誌まで並んでいた。


 そこから、また作業をしている作家のスタジオへいく。
 何をしているのか、最初は分からなかったけれど、話だけでなく、ガイドの青山氏の促しもあったせいか、作業の続きをしてくれた。一度プラモデルの飛行機などを完成させ、その上で、その機体に穴を開けていき、結果として見たことがないような物体になっていく。

 大野公士。いろいろと話をしている作家は、プロフィールを見ると、50歳を超えているのだけど、ここまでスタジオを訪れて話を聞いた作家の人たちと同様に真っ直ぐに相手を見て、その目はかなり澄んでいるように見えて、詳しい事情を知らないから、表面的なことかもしれないけれど、なんだか改めて作品を作るアーティストはすごいし、こういうことが仕事になるのは本当にいいなとも思った。

 それは、とても素朴すぎるし、結局は、できるだけウソなく生きられれば気持ちもいいはずだ、という自分の思い込みに過ぎないのかもしれない。

移動

 これで、この場所のスケジュールは終わりだった。

 これだけで、かなり充実していたけれど、青山氏が、手作業をきちんとしようとする人が多いのでは、という感想を漏らしていたが、現代は、さまざまなものがバーチャルでも可能になっているから、もしかしたら、今後も、手作業というものが保証する何かは、残り続けるのかもしれない。

 それに、作家でもある青山氏が、値段や製作期間なども聞いてくれたおかげで、普段はわからないことまで知ることができた。

 次は、最初に降りたバス停からバスに乗る。午後12時59分発。気がついたら、2時間くらいが過ぎていた。

 これから、歩く場所もある。妻と一緒に体力が不安なので、ちょっと心配だった。
 気温は高いままだった。

KOCA

 バスに乗って、視界が広いところを走って、天気も良くて、などと思って、あとはバスの中の冷房が効きすぎないように調整をして、そのうちに目的のバス停に着く。スタッフの方が、ツアーの方は、ここで降ります、と声をかけてくれる。集団行動、が新鮮だった。

 平和島の駅から、京浜急行で二つ先の駅に向かう。
 各駅停車しか停まらない駅。

 電車が来て、電車に乗って、また「降りまーす」と言ってくれて、降りる。
 その駅・梅屋敷に着いて、午後1時30分。

 一回集合して、ここから1時間、昼食の時間でいったん解散し、次に集まるのは午後2時30分。この駅からすぐそばの「KOCA」という施設に集まることになった。

 昼食後、ここにこうした施設があったのを知らなかったけれど、おしゃれな空気は確実にあった。恥ずかしながら、自分も住んでいる大田区に、こうした意欲的な場所ができたことを全く知らなかった。

 その施設の中で、最初は男性が話を始める。

 壁には、加工途中の鉄板や、紙などが額に収めれている。
 それは、物質と、そこから加工していく途中のものに魅力を感じて、それを作品として展示している、ということだった。

 それは、可能性を提示している、ということのようにも聞こえてきて、この男性と、もう一人の女性でユニットを組んでいて、それが、城南島で暑い中作業をしていた川名だとわかって、そこでやっとつながる。男性は、畑中だった。


 そのあとは、ファッションデザイナーで、アーティストでもある伊藤弘子が、ファッションショーの映像を流しながらも、話をし、そのあとは、コンピュータを使用してデザインをしている現場まで案内もしてくれた。

 こうした場所があるのを知ることができた。それは、これからも機会があれば、見に来られるということでもあった。

 そこには、むき出しの蛍光灯をたくさん集めたような作品があった。東恩納裕一。とっさに名前は思い出せなかったものの、久しぶりに見た。そして、相変わらずかっこいいと思った。


洗足池

 暑さは続いている。

 体力不足の私と妻にとっては、ここからの移動も問題だった。

 梅屋敷から蒲田駅までは歩いて20分ほど。最初は大丈夫かとも思っていたが、ここまでも、色々と見て回ったせいもあって、バスを利用することにして、それを今日の運営をしているスタッフに伝えて、そして、歩き始め、なんだか焦ってバスに乗り、駅から電車に乗って、洗足池の駅に着く。

 池が駅のそばにあって、そこにはスワン型のボートもあって、少しリゾートの空気もあって、もしかしたら初めて降りた駅かもしれない。

 だけど、徒歩で移動のメインの集団とはぐれたのでは、と焦ったり、スタッフの携帯に駅にいることを告げたり、バタバタしていたら、妻の言った通り、その集団は私たちよりも2本ほど遅い電車で現れた。

 ホッとした。

 この駅にはギャラリーが二つある。

 知らなかった。

ギャラリー

 最初は、「空豆」。

 学芸員だった方が、自宅をギャラリーにもするつもりで建設した家。確かに周囲から見たら、異質感がある建物で、魅力的だった。

 3階に上がる。

 菅木志雄の作品がある。

 「もの派」を代表する一人。木材などを、あまり加工せずに、作品としている。

 最初は、素っ気なさに、拒否されているような感じもしていたが、そのうちに、「もの派」の作家の作品が広い場所などに展示されているのを見たりして、潔さのようなものを感じ、考え抜いたあとの選択なのではないか、と感じるようになると、カッコよくも思えてきた。

 床に置いてある。

 かなり昔の作品らしいが、古さも感じない。

 壁にも作品が展示されていて、最小限の介入によって作品になっている。

 とても清潔感があって、作品を生かすための空間になっているとも思い、個人で、こうした場所を運営しているのをすごいと思い、同時に、今日は恥ずかしいことばかりだけど、本当に、ここの存在を知らなかった。

 作品も、空間も気持ちが良かった。

 こうしたアートに情熱を持った個人のおかげで、ようやく文化の底支えがされているのだとは思った。

 次は、また駅に向かって歩き、さらに通り過ぎて、次は「ギャラリー 古今」だった。

 以前から、病院でもある場所で気になっていたけれど、初めて入った。

  そこには、昔のものとして李朝白磁と、現代としてミズテツオの平面作品が隣り合わせになり、それは、かなりしっくりときていて、時間の差のようなものもあまり感じられず、そこに違う種類の作品としての広がりのようなものがあった。

 さらに階上には、半分屋外の場所に、ネオンや石などを使った作品もあり、なんだか、とてもぜいたくなことだと思った。茶室を模した場所には、古い仏像と、菅木志雄の作品も並んでいて、お互いが刺激し合いながらも調和するようで、すごくかっこいい空間になっていた。

 そこから、次は、また池上線に乗る。

 午後5時をすぎていた。

アトリエ

 次は、また電車に乗って、いくつかの駅で降りる。

 そこから、少し歩く。

 今回の企画の小さい看板があるから分かるけれど、でも、それがなければ、本当にごく普通の一軒家だった。

 そこが、中島崇のアトリエで、今回の企画・運営に関わっているらしく、だから、今日のツアーも、こうした人たちの尽力のおかげで、実現したかと思うと、改めてありがたい。

 大田区の空き家の施策によって、かなり格安でこの場所にいて、だから、その分を製作の時間に回せるといった言い方をしていて、やっぱりつくる人なんだと思ったり、もしかしたら、作品を見ているかもしれないのに、こうした現代美術家の人が、地元に住みながら作品をつくり続けていることを知らなかった。

 住居兼アトリエに、かなりの人数で訪れて、それで話をして、そこかしこに制作中のものがあったりして、こういう場所から作品は生まれてくるけれど、当然だけど、生活の中でつくっている感じは、伝わってきた。

 青山氏とも仲がいいようなので、いろいろな話を聞けて、知人宅に訪れたような気持ちにもなれた。

 午後6時をすぎていた。

離脱

 ここから、もう一ヶ所、作家のアトリエに行って、今日のツアーは終了だけど、移動は徒歩であと20分弱になる。

 もう、私と妻の体力は限界のようだったので、残念だけど、ここでリタイアをすることにした。元気な人は、ツアー後に、飲み会をしてビールを飲むようなので、それも楽しそうだけど、これ以上、無理をすると、これから先にかなり影響が出そうだった。

 そのことをスタッフに告げ、御礼もいい、今日のガイドをしてもらった青山氏にも感謝も伝えた。

 電車に乗って、途中で弁当を買って、家に帰って、お風呂も沸かして入浴もした。

 やっぱり疲れはあったけれど、こんなに長い時間、アートに触れたり、アーティストの言葉を聞くことは、とてもまれなことだったし、妻と二人で、楽しかった……という話を、それから2〜3日していた。

 アートは、自分たちにとって必要なことだった。作品をつくっているアーティストは、世の中には欠かせない存在だとも思った。





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