
「その土地ならではの、スパイスを」。たらくさ株式会社 原山幸恵さんの「編集」という味付け。
「編集」。
その言葉を聞いたとき、人はどのようなイメージを抱くだろう。
たとえば、Youtube動画の編集。
あるいは、雑誌や書籍の編集。
最近では、場所を編集するという表現も見かける。
人によって、さまざまな捉え方ができる「編集」の世界。
私は、この「編集」の世界に触れ、物の見方を増やしたい。
そういった思いで、静岡県 南伊豆町にある宿「ローカル×ローカル」が企画する、編集プログラムに参加している。
プログラムでは、南伊豆に3ヶ月滞在し、地元の人たちと交流しながら、元編集者のイッテツさんからインタビューや文章の基礎を学ぶ。

その他にも、宿でイベント企画に挑戦したり、ゲスト講師から編集の視点を学ぶことができたり。前回のゲストは、日本仕事百貨の中川晃輔さんだった。
今回は、2人目のゲスト たらくさ株式会社の編集者 原山幸恵さんから学んだことをシェアしたい。

たらくさ株式会社は、東京を含む各地域の観光促進やまちづくりの企画・制作・実施・運用を担う編集チーム。仕事は北から南まで多岐に渡る。
ここでは、一例をご紹介。
■広島県福山市
福山市の日々の「食べる」「暮らす」「働く」にフォーカスしたWebマガジン「deep line trip Japan」。たらくさは、媒体企画からブランドデザイン、取材撮影、メディア運用まで手がけた。

たとえば、地域のおばあちゃんの料理レシピを発信する、『grandma's life recipes』もそのひとつ。
世界を旅する台所研究家 中村優さんが、瀬戸内のおばあちゃんたちのもとを尋ね、レシピを記録。その土地の暮らしの豊かさが伝わってくる!
■東京 代々木公園
「とにかく公園が好き!」という人たちが集まる、誰でも参加可能なイベント「Picnic in Tokyo」を企画。

■岩手県二戸(にのへ)市
二戸市の自然、人、食の豊さをWeb制作、媒体デザイン、映像、体験プログラムなど、さまざまな形で表現。学びある旅を提案するプロジェクト「ほんものにっぽんにのへ」のディレクションを手がけた。


二戸市の観光イメージムービー「ほんものにっぽんにのへ」。第3回日本国際観光映像祭にて国際部門Cultural Tourismにて優秀賞を受賞。
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たらくさの仕事は、東京を含む各地域での観光促進やまちづくりにまつわる企画や制作などを、映像やイベントまで落とし込む。他にもいろんなプロジェクトがあるが、ここでは書ききれない。
こんなふうに、多岐に渡り活動をする原山さんにとっての「編集」って、一体どのようなものだろう。
「今日はよろしくお願いします。光栄ですー。南伊豆楽しんでますかー」。
zoom越しの原山さんは、そう言って私の近況も気にかけてくれた。ハツラツとした話し方が印象的で、なんだかとても仕事ができそうな、頼れるお姉さんの雰囲気があった。

編集とは、相手を想像して味付けを考えること
いきなり本題に入った。
どうやったら、原山さんみたいな編集者になれるんだろう?
そもそも編集者って、一級建築士みたいな国家資格がありません。つまり、誰でも簡単に名乗れてしまいます。なので、最近いろんな人が「編集者」って名乗っている気がして・・・。ちょっと言葉が使いまわされているなって、私は危惧しています。
少し私はたじろぐ。たしかに、ちょっと甘かったのかもしれない。「だけどー」。そう言って原山さんは、こう続けた。
だけど、「編集の視点」は誰でも持てるというか、今日はそういう話だと思うんですよね。
編集の視点。
どういうことだろう? 原山さんは、料理でたとえてくれた。
たとえば魚を調理するとき。塩を振るだけでも、食べることができますよね。それだけで十分な時もあります。でも、素材を活かしつつ、ハーブやスパイスで味付けをする選択肢もある。
どうやったら、その素材が引き立つか、想像する。このプロセスに、編集の視点が含まれていると思っています。
誌面を作るときも、考えかたは同じだと原山さん。
たぶん聞いた話をそのまま文字にしても、読みづらいし、伝わらない。
・目を惹くには、どんな写真がいいだろう?
・文字量は?
・タイトルはどうする?
・それより、映像なのか?
どうやったら相手に伝わるか、思考を巡らせます。
たとえば、山口県阿武町の名産「無角和牛」の魅力を発信するフリーペーパー「無角和牛通信vol2」を作ったとき。表紙に載せるお肉の焼き加減を何度も見ながら、カメラマンとベストな赤みを探したこともあったのだとか。
誰かを思いやった先に、つくれるものがある。
いいものをつくるためには、さまざまな角度から考える必要があります。やり直しの繰り返しです。それでも納期は決まっているから、期日までに完成しなければならない。やっているときは、辛いことも多いです。
でも、いざ完成したとき、それを見てくれる人がいる。応援してくれる人がいる。喜んでくれる人がいる。その時に、「あぁ、この瞬間に立ち会えてよかった」と心の底から思うんです。
相手が喜んでくれる顔を想像しながら、一番おいしくなるレシピ(届けかた)を考える。それが、原山さんにとっての「編集」なのかもしれない。
これって、私が書いているエッセイや、南伊豆新聞の記事作りに通じるかも。
いかに、読み手のことを考えた構成になっているか。言葉選びは適切か。取材した人は、喜んでくれるだろうか。

インタビュー原稿を書いていると、私はときどき誰に向かって書いているのか、わからなくなることがある。構成が定まらず、それを指摘されることも多い。
だけど、インタビューに応えてくれた人が、私のために時間をつくってくれたこと。その先に読んでくれる人がいることを、想像できる自分でいたい。
最後に原山さんから、こんなドキッとする言葉をもらった。
編集という視点がある人は、小さな気遣いができる人が多いですね。たとえば、相手のお水が空いた時にさらっと、「お水いりますか?」って聞ける、みたいな。そういうのって、紙面とか言葉選びとかにも出てきちゃう気がします。ふふふ。
小さな気遣い。私にできているのかな。少し考え込む。
だけど、やっぱり原山さんの言うとおり、日常の中に、編集の視点はある。
それに、どう気づくか、どう反応するか、なんだと思う。
原山さんの仕事や振る舞いは、誰かを思いやった結果として生まれていくものなんだと思った。