
「編集とは、下山まで含めた道案内」。編集者 中川晃輔さんが大切にしている【編集の視点】。
「編集」。
その言葉を聞いたとき、人はどのようなイメージを抱くだろう。
たとえば、Youtube動画の編集。
あるいは、雑誌や書籍の編集。
最近では、場所を編集するという表現も見かける。
人によって、さまざまな捉え方ができる「編集」の世界。
私は、この「編集」の世界にふれ、物の見方を増やしたい。
そういった思いで、静岡県 南伊豆町にある宿「ローカル×ローカル」が企画する、編集プログラムに参加している。
プログラムでは、南伊豆に3ヶ月滞在し、地元の人たちと交流しながら、元編集者のイッテツさんからインタビューや文章の基礎を学ぶ。

その他にも、宿を使ったイベント企画に挑戦したり、ゲスト講師から編集の視点を学ぶことができたり。
地方=ゆったりスローライフなんてほど遠く。脳みそがパンクしそうになりながら、忙しない日々を送っている。

今回は編集講座に登壇してくれた一人目のゲスト 中川晃輔さんから学んだことをシェアしたい。




最近の中川さんは、まちのキャッチコピーを考えたり、波佐見焼の産地である、長崎県波佐見町に滞在するインターンシップの企画や運営も担っているそう。関わる領域は、幅広い。
そんな中川さんにとって、「編集」とは一体どのようなことなのだろう。
初めて会った中川さんは、zoomの画面越しでも、物静かな空気感が伝わってくる人だった。ゆったりとした静かな口調で「よろしくお願いします」と挨拶してくれた。

記事作りは、山登りに似ている?
中川さんは、仕事柄いろんな人にインタビューをする。どんなことを意識しているのだろう?
人って、記事を読むにしても、映像を観るにしても、これまでとはちょっと違う景色に出会える。そんなコンテンツを味わいたいと思うんです。
中川さんはそれを、山登りにたとえた。
どんなルートで読み手を案内すれば、インタビューさせてもらった人の景色(世界)を見せることができるか。それが僕にとっての編集という仕事に近いのかな。

みんな山頂からの良い景色を眺めたい。とはいえ、最短ルートで山頂まで登っていくのがいいかっていうと、僕は違うなと思っていて。登っていく過程で遭遇する、難所を超えることで、心に残る景色が見れると思うんです。
そういえば、日本仕事百貨の求人記事は、ちょっと山登りに近いというか “旅に行くような感覚” になる。
例えば、中川さんが書いた求人を一部抜粋する。
<中略>
向かったのは、芦屋釜の里。北九州市の小倉駅から車で40分、JR博多駅からは1時間10分ほどかかる。
名前からして人里離れたところにありそうだけど、周囲には住宅街が広がっていて、暮らしやすそうな雰囲気。海も近い。
施設のなかには芦屋釜に関する資料や作品が展示されているほか、工房があり、鋳物師(いもじ)のひとりである樋口さんは、日々ここで作品をつくっている。
こんなふうに、中川さんの隣を歩いているような気になる。
日本仕事百貨の求人記事は、4000文字を超える。
一般的な求人サイトに比べると、情報量が多く、最後まで読み進めないと「給与 / 待遇面」には辿り着かない。だが、その内容は濃密だ。
例えば、社長に会社を立ち上げた時(苦労したこと、失敗したこと)のお話を伺ったり、上司になる人に「こんな人は合わないと思う」みたいなことや、入社1年目の人にどんな生活を送っているかなど。かなり赤裸々に書いてある。
これは媒体の特性上、求人サイトだからだとは思うんです。読み手(求人を探す側)にとって、仕事を選ぶって大きな選択だし、会社側も合わない人が来たら困りますよね。
なので、僕も簡単に書けないというか。ちゃんと聞いて、僕が感じたこと、見た風景を読む人に紹介しないといけない。一概に読みやすくて、さらっと読めちゃうものがいいとは、僕は言えないなと思っています。
中川さんは、どの工程でも「インタビュー相手」、「読み手」を想像しながら進めている気がした。
その根っこがあるから、きっと中川さんは、まちづくりのキャッチコピーも考えられるし、ワークショップの運営も任されるのかもしれない。
下山まで含めて「編集」
中川さんの“下山まで含めて編集”という言葉が、一番印象に残っている。
山登りの道案内をして、山頂についた結果、「良い景色が見れてよかったね」で終わらないというか・・・。下山する過程で、インタビューした人と新しく何かを始めてみたり、その次はどうするのかを考えて記事を書いたり、話を聞いたり。そういうプロセスまでを含めて、編集だと思っています。
目の前の人と、一緒に何ができるか、その先まで想像する。
どう編集するか=どう関わるか、なのかもしれない。
そんなメッセージが、 “下山まで含めて編集” という言葉には込められている気がした。
下山の道は、いくつもある。
私はこれまでの自分を思い返した。
昔、友人とアロマのワークショップを開催したものの、一度きりで終えてしまったことがある。
中川さんの言葉を借りると、山頂での景色を眺めた後、別々の道で下山した。

思い返すと、今でも少しモヤモヤが残っている。
今、やり直すならどうしただろう?
たとえば、ワークショップ開催後、参加者のその後の体調の変化をサポートしたり、来れなかった人向けに2回目を開催したり。
1つの企画でも、その先の下山まで考える方法は、何通りもあったのかもしれない。
今の自分には「編集とはこういうことだ」と言葉で表現するのは、むずかしい。
それでも中川さんから伺った、「編集とは、下山まで含めた道案内」という考え方。
この先も、心の中に持ち続けていたい。