見出し画像

「編集とは、下山まで含めた道案内」。編集者 中川晃輔さんが大切にしている【編集の視点】。

「編集」。

その言葉を聞いたとき、人はどのようなイメージを抱くだろう。

たとえば、Youtube動画の編集

あるいは、雑誌や書籍の編集

最近では、場所を編集するという表現も見かける。

人によって、さまざまな捉え方ができる「編集」の世界。

私は、この「編集」の世界にふれ、物の見方を増やしたい。

そういった思いで、静岡県 南伊豆町にある宿「ローカル×ローカル」が企画する、編集プログラムに参加している。

プログラムでは、南伊豆に3ヶ月滞在し、地元の人たちと交流しながら、元編集者のイッテツさんからインタビューや文章の基礎を学ぶ。

南伊豆の魅力を発信するローカルメディア「南伊豆新聞」で発信も行う

その他にも、宿を使ったイベント企画に挑戦したり、ゲスト講師から編集の視点を学ぶことができたり。

地方=ゆったりスローライフなんてほど遠く。脳みそがパンクしそうになりながら、忙しない日々を送っている。

今回は編集講座に登壇してくれた一人目のゲスト 中川晃輔さんから学んだことをシェアしたい。

プロフィール:中川 晃輔さん。千葉県柏市出身。生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」の編集者。2021年に長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町へ移住し、その町のひと・こと・ものを紹介する情報ポータルサイト「くじらの髭」や、有田町のおもしろい未来をつくるWebマガジン「灯すラボ」などのインタビュー記事も担当。「日本仕事百貨」の仕事も続けながら、さまざまな媒体の編集者、ライターとして活動。

日本仕事百貨

さまざまな生き方や働き方を紹介する求人サイト。給与や勤務地などの条件や、良いところだけでなく、職場を訪ねて取材して、仕事のあるがまま、大変なところや葛藤も伝えている。

くじらの髭

東彼杵町のひと・こと・ものを紹介する情報ポータルサイト

灯すラボ

有田町のおもしろい未来をつくるWebマガジン「灯すラボ」

最近の中川さんは、まちのキャッチコピーを考えたり、波佐見焼の産地である、長崎県波佐見町に滞在するインターンシップの企画や運営も担っているそう。関わる領域は、幅広い。

そんな中川さんにとって、「編集」とは一体どのようなことなのだろう。

初めて会った中川さんは、zoomの画面越しでも、物静かな空気感が伝わってくる人だった。ゆったりとした静かな口調で「よろしくお願いします」と挨拶してくれた。

東彼杵町から来てくれた中川さん。

記事作りは、山登りに似ている?

中川さんは、仕事柄いろんな人にインタビューをする。どんなことを意識しているのだろう?

人って、記事を読むにしても、映像を観るにしても、これまでとはちょっと違う景色に出会える。そんなコンテンツを味わいたいと思うんです。

中川さんはそれを、山登りにたとえた。

どんなルートで読み手を案内すれば、インタビューさせてもらった人の景色(世界)を見せることができるか。それが僕にとっての編集という仕事に近いのかな。

みんな山頂からの良い景色を眺めたい。とはいえ、最短ルートで山頂まで登っていくのがいいかっていうと、僕は違うなと思っていて。登っていく過程で遭遇する、難所を超えることで、心に残る景色が見れると思うんです。

そういえば、日本仕事百貨の求人記事は、ちょっと山登りに近いというか “旅に行くような感覚” になる。

例えば、中川さんが書いた求人を一部抜粋する。

<中略>
向かったのは、芦屋釜の里。北九州市の小倉駅から車で40分、JR博多駅からは1時間10分ほどかかる。
名前からして人里離れたところにありそうだけど、周囲には住宅街が広がっていて、暮らしやすそうな雰囲気。海も近い。
施設のなかには芦屋釜に関する資料や作品が展示されているほか、工房があり、鋳物師(いもじ)のひとりである樋口さんは、日々ここで作品をつくっている。

日本仕事百貨「12年間収入を得ながら 過去と今をつなぐ 鋳物師になる」より

こんなふうに、中川さんの隣を歩いているような気になる。

日本仕事百貨の求人記事は、4000文字を超える。

一般的な求人サイトに比べると、情報量が多く、最後まで読み進めないと「給与 / 待遇面」には辿り着かない。だが、その内容は濃密だ。

例えば、社長に会社を立ち上げた時(苦労したこと、失敗したこと)のお話を伺ったり、上司になる人に「こんな人は合わないと思う」みたいなことや、入社1年目の人にどんな生活を送っているかなど。かなり赤裸々に書いてある。

これは媒体の特性上、求人サイトだからだとは思うんです。読み手(求人を探す側)にとって、仕事を選ぶって大きな選択だし、会社側も合わない人が来たら困りますよね。

なので、僕も簡単に書けないというか。ちゃんと聞いて、僕が感じたこと、見た風景を読む人に紹介しないといけない。一概に読みやすくて、さらっと読めちゃうものがいいとは、僕は言えないなと思っています。

中川さんは、どの工程でも「インタビュー相手」、「読み手」を想像しながら進めている気がした。

その根っこがあるから、きっと中川さんは、まちづくりのキャッチコピーも考えられるし、ワークショップの運営も任されるのかもしれない。

下山まで含めて「編集」

中川さんの“下山まで含めて編集”という言葉が、一番印象に残っている。

山登りの道案内をして、山頂についた結果、「良い景色が見れてよかったね」で終わらないというか・・・。下山する過程で、インタビューした人と新しく何かを始めてみたり、その次はどうするのかを考えて記事を書いたり、話を聞いたり。そういうプロセスまでを含めて、編集だと思っています。

目の前の人と、一緒に何ができるか、その先まで想像する。

どう編集するか=どう関わるか、なのかもしれない。

そんなメッセージが、 “下山まで含めて編集” という言葉には込められている気がした。

下山の道は、いくつもある。

私はこれまでの自分を思い返した。

昔、友人とアロマのワークショップを開催したものの、一度きりで終えてしまったことがある。

中川さんの言葉を借りると、山頂での景色を眺めた後、別々の道で下山した。

思い返すと、今でも少しモヤモヤが残っている。

今、やり直すならどうしただろう?

たとえば、ワークショップ開催後、参加者のその後の体調の変化をサポートしたり、来れなかった人向けに2回目を開催したり。

1つの企画でも、その先の下山まで考える方法は、何通りもあったのかもしれない。

今の自分には「編集とはこういうことだ」と言葉で表現するのは、むずかしい。

それでも中川さんから伺った、「編集とは、下山まで含めた道案内」という考え方。

この先も、心の中に持ち続けていたい。


この記事が参加している募集

編集の仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?