デタッチメントー他者からの解脱があなたを少しだけ生きやすくするかもしれない―
1.はじめに
皆さんは人間関係に、具体的には他人との距離感に悩んだことはないだろうか。
私は今までの人生で他人との距離感に惑ってばかりであった。
「誰とでも仲良くしたい」
「明るい自分でいたい」
「誰にでも寄り添う優しい人間でありたい」
これらの思いは時としてあなたの行動を制約し、相手の顔色をうかがわせる。行動が他者本位になり、自分自身を後回しにする。
これが「優しい」あなたの美徳たるところであるが、時として無性に辛くなる時があるのではないかと推察する。
いやむしろ、あなたも人間であるからして後回しになることや我慢することが苦痛に感じるのが自然の摂理である。
「どうして自分ばかり」
「なんであの人は(想定外の)ひどいことをするのか」
そういった感情からつらい思いをしている人も少なくないではないか。
※
勿論、自分に余裕があれば相手と近い距離を保ったまま滅私奉公、仮面を被り続けることができるだろうが、人生何があるかわからない。
仕事や家庭、友人…何があなたを追い詰めるかわからないし、そのすべてがあなたに牙を剥くかもしれない。
その際に、あなたは耐えきれずに壊れたり、放り投げたりするかもしれない。
いずれにしても今まで築いていたその人間関係が逆にあなたを追い詰めることになるであろう。
2.現状分析
そもそもなぜあなたがそんなに他者との関係で揺すぶられるのか。それはあなた自身の自己肯定感が「他者に寄り添える自分」に支えられているからである。
結局のところ、「他者に共感できる自分であらねばならない」という義務感が一番あなたを追い詰めている。
あり大抵にいえば、他者との距離が近すぎるのだ。
他人に寄り添いすぎているが故、自他の境界線が曖昧になり、ちょっとした行動に心が揺さぶられてしまう。
結果自分自身が不安定になり、優しい人間であろうとしながら、そうはいられないというジレンマがさらにあなた自身を追い詰めるのである。
ここで一度立ち止まり、あなたの感情を揺さぶる課題について”外的要因と引きはがして検討すること”により、自他同一視という課題の解決を図っていく。
3.課題解決
自分と他人の境界線があいまいになるー具体的には「~すべきだ」「こうあるべきだ」という制御の範疇が自分の周囲にまで及ぶような思考回路を展開している場合、折々に立ち止まり認知の歪みを正す必要がある。
あなたの考えは「正し」くはあるが、他人の思考・行動はあなたのものではない。完全なる共有・共感は不可能であるからして、分かち合うこと、わかり合うことは極論不可能なのである。
この考え方は「デタッチメント」という心理学用語に通ずるところがある。その辞書的な意味は以下のとおりである。
1 (…からの)分離,脱離,剥離(はくり);孤立((from ...)
2 (世俗や他人からの)超然,無関心((from ...)
3 私心[偏見]のないこと,無私,公平
(『小学館 ランダムハウス英和大辞典』より一部抜粋)
この他、
「愛着からの解放」
「感情から距離を置くこと」
という意味があり、一部の宗教では目指すべき悟りの境地とされている。
では具体的に、どのように「デタッチメント」の境地に至ればよいのか。
その一手段として、マッキンゼーの「ロジカルシンキング」を紹介したい。その手法については要約すると以下のとおりである(加藤 2017)(大嶋 2018)。
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1思考回路の訓練①―自他の境界を確認する習慣をつける―
・他人は自分とは違う人間であるからして、他人の感情も、他人の行動も制御は不可能である。
・自他の行動と感情は意図して切り離して考え、制御不能な他人の言行については考えてもどうにもならないと切り分ける。
・どうにもならないことに悩むことが人間の幸福度指数を下げていることを理解する。
・他者の感情を考えるのではなく、①課題の原因分析をした上で、②課題解決のために「自分はどう理論立てて動いていくか」細分化し、順序立てて考え、一つずつ実行に移していく。
・・・例えば、社会人であれば「家を出る」「自席に座る」等、出勤して一番にチェックリストを作成し、自分の行動の「できた」を積み上げることが効果的だ。自己肯定感が高まる他、他人の行動に過剰に目が向かなくなる効果がある。
→自己の行動を精査し、行動に移していくことで漠然とした不安を回避し、自己肯定感を高めることができる。
2思考回路の訓練②-自分の感情を斬り捨てる習慣をつける―
・まず大前提として、他者との折衝の中で感情が発露するのは自然現象であり、決して悪いことではない。
・感情が揺すぶられた際には、それを目一杯味わい、その感情を肯定する。 (腹立たしい時にはめいっぱい腹立たしい感情を受け入れ、また悲しい時にはめいっぱい悲しむ)
・そして情緒の波が落ち着いたら、感情は一度切り捨て、感情を揺さぶった具体的な原因を究明する。
・原因が見つかった際には解決のための課題を設定する。
・そして課題解決のための行動を大枠→中枠→細分化して設定。チェックリストとして書き出し、行動に着手していく。
・これにより、漠然とした不安が「見える化」し、課題解決のための達成度も「見える化」する
→明確な行動の指針が立つことで、自身の情緒的な幸福度を増加させることができる。
3.人間関係の再構築-感情でつながる関係から目標でつながる関係に―
・人間関係については、感情でつながる人間関係は心が揺れ動くと同時に簡単に崩壊することを心に留めておく。
・感情ではなく、共通の目的を設定し、言語化することによってつながる関係を構築する。
・評価基準についても行動に起き、相手との感情の折衝に左右されないように心がける。
(ex).目標:一緒の時間を過ごすこと→行動:週に×日ご飯を一緒に食べる
・ここで、重要なのが相手の行動について自分では制御不能であるという前提を忘れないことだ。
→何か自分の心が揺さぶられたとしても「つまるところそれは他人の問題であるからして、考えても無駄である」という1の考え方で脳内の整理と切り分けを行う。
→互いの行動の評価を端的に行い、目標達成度を共有することでより強固な結びつきを深めることができる。
※
以上、「デタッチメント」に至る一手段としての「ロジカルシンキング」を紹介してきた。ここでキーワードとなるのが、自他の切り分け、自分自身の感情の切り分けという「細分化」である。
「優しくあろう」とすること自体は良いことであるが、それに終始するあまり、自他同一視し、見通しの立たない漠然とした不安を煽ってしまう。
それがあなたの生きづらさの一因となっているのである。
勿論「相手のため」「組織のため」優しくあることは大切であるが、「相手をよくするため」「組織をよくするため」にあなたの行動が及ぶ範疇は限定的である。
近い距離で寄り添いながらも、折々に一歩引いて状況を分析し、他人の問題には「踏み込みすぎないこと」を意識してほしい。
また、感情が揺さぶられた際には状況を分析し、他人の問題部分については切り分ける。自分の行動の変革としては、相手との付き合い方について再考するのが効果的だ。
自己の制御が及ばない人間を相手にするからこそ、「相手を変える」のではなく「自分が変わる」、
さらに言うと「自分自身の変えられない部分については、関係を見直し切り分けする」場合によっては「関係すら解脱」することにより「愛着からの解放」がなされ、自分らしい生き方を図ることができるだろう。
※
他者との関係でつらいことがあった時、心が揺さぶられ苦しい時、
心の中で次のようにつぶやいてほしい。
「まぁ、それは私の人生に何の関係もないことだから」
「他人の行動は制御不能。例え相手がどんな人間であっても私には1mmも関係はない」
「好きにすれば?私には関係ないし」
このキーワードは強制的にあなたと他者の融合を剥離させることができる。
対人関係でつらい時、あなたは他人に寄り添いすぎているのだ。
一度距離を置いて考え、自分の行動を主眼に課題解決策を考えるのも悪くない。
あなたの人生の主役は他でもないあなた自身であり、解決すべき課題は自分の行動で変えていかねばならないのだから。
4.おわりに
以上、デタッチメントにおける自他の切り分けについて、ロジカルシンキングという手法を元に解説してきた。
課題は細分化してとらえ、解決は自己の行動により図ること
他人の行動や感情等の、コントロール不能な領域は切り捨てること
対人関係の基盤は目標に置き、感情に依存しないこと
確かに「デタッチメント」を図る上で、何事にも過度に他人事のように接してしまうと、「冷たい人間」というレッテルを貼られる恐れはある。
しかしそれも他人の感情の問題で、あなたの問題ではない。
むしろあなたの一番の問題は如何に自他の切り分けを適切に行って、自分を守っていくかではないか。
自分を守ることができなければ、他人に優しくあることなど不可能である。
この理論が必ずしもあなたの対人関係の悩みを解決するとは限らない。
しかし、思考の訓練としての「自他の切り分け」と「デタッチメント」という目指すべき指針の提示が、少しでもあなたの抱える生きづらさの解消に役立てば幸いである。
【参考文献】
・加藤俊徳『「めんどくさい」がなくなる脳』2017 SBクリエイティブ㈱
・大嶋祥誉『マッキンゼーで学んだ感情のコントロール技術』 2018 青春出版社
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