だったらレビューで★5をつけな
私がこの世で1番好きな映画は、即答で、揺るぎなく、「シング・ストリート 未来へのうた」だ。
きっかけは「Once〜ダブリンの街角で〜」でジョン・カーニー監督を知ったところから始まった。6年ほど前だ。
当時目黒にある専門学校に通っていた私は目黒シネマによく行っていた。
入場料のみで映画を2本観れるのがお気に入りだった。選ぶ映画もセンスがいい。
「Once」の予告が流れたときの事を今でもよく覚えている。主人公2人が初めてデュエットするシーン、「Falling Slowly」のイントロで、痺れるほど心を持っていかれたから。
予告でこんなに感動するなんて。観に行った結果、始まりから終わりまで引き込まれて、感動が止まらなかった。観終わったあとは、なんとかホルモンとか、ドーパミンだとか、多分脳内から何かしら出てるなという感覚。ボーッとして、何も考えられなくて、でも確かに映画の世界に浸っていた。
ミュージカル映画とは違う、「音楽を通じたストーリーの映画」を観たのは恐らくあの時が初めてだったと思う。そしてそれは、ものすごく私の好みのものだった。
口コミとか、広告とか、誰の意見にも左右されずに、「私はこの映画が大好きだ」と力強く思ったのだ。
2本立て上映のもう1本は同じくジョン・カーニー監督の「はじまりのうた」だった。
ジョン・カーニーの魅力を世に知らしめたのはこの映画だと思う。「Once」と比べると世界観も映画の撮り方も一般的というか、よくあるヒューマンドラマ的な撮り方なのだが、そういうものこそ実力が現れるのだと思う。
ストーリーも良ければ、間違いなく曲がいい。曲の歌詞とか、メロディとかもそうなんだけど、ギターの下手くそな主人公の娘がレコーディングに突然ぶち込まれて弾くシーンとか、音楽の完成度とは別で胸に響く。
ジョンカーニーは、音楽を映画の中に織り混ぜることが圧倒的に上手いんだ。その為に生まれてきたくらいに。
私はその日から、ジョンカーニーのファンになった。
それから少し経ったあと、「シング・ストリート」の公開を知り、なんの迷いも無く友達を誘って観に行った。
観終えた私は、心が満たされたような、いや、むしろ空っぽになったような、言葉で表せない満足感と幸福感に満たされた。
全ての瞬間が好きだった。こんなに心を鷲掴みにされた映画は今まで無かった。
1人1人のキャラクターが愛しい。主人公コナーの親しみやすさと赤い頬っぺたの可愛さ。ラフィーナの美貌とプライド、強さ。そしてエイモンのキャラの強さよ、ウサギ好き、マザコン、楽器オタク。ひとりひとりを説明していたらキリがない。
衣装やメイク、ビジュアルへのこだわりと、80年代のダブリンという絶妙な田舎感と主人公たちのダサさ、成長していく彼ら。コナーとラフィーナの恋模様も、未熟で可愛くてたまらない。
親への絶望。グレ切れない子供たち。お兄ちゃんの心境、兄弟愛。これにはいちいち泣かされた。
そして全ての音楽たち。全楽曲が名作だ。一曲一曲話したいけど、この記事が終わらなくなるからやめよう。
明るい曲も悲しい曲も、泣くところじゃないのに胸が熱くなって涙が出た。吹奏楽部出身だからだろうか、仲間でひとつになる!みたいなのにめっぽう弱いらしい。
そして私は、生まれて初めてFilmarksレビューに★5をつけたのだった。
★が10個あったなら★10だったし、★が5個しかなくても本当は100個くらいつけたいところだ。「シング・ストリート」を私の中の1番の映画にした。
もしもっとステキな映画が現れたとしても、1位タイにする。あなたの1位の座は誰にも譲らないよ。その時、そう決めたのだ。
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ある日友達と、友達の彼氏と、その友達(A君)と私と4人でご飯を食べたことがあった。友達の彼氏とA君は私と初対面だった。
あまり喋らないタイプのA君に、「A君は趣味とかあるの?」と友達が聞くと「うーん…映画とかよく観るよ」と言い出したので「お!honoも映画好きだよね!」と、映画の話になった。
お互いのFilmarksをアカウントをなんとなく見せ合ったあと、「私はシング・ストリートがこの世の映画で1番好き」と言ったら、彼は食い気味に「俺も!!!!」とのこと。
クール系な彼と一瞬盛り上がり、ハイタッチをした。この映画を1番と言う人間を見つけて喜んだ私はシング・ストリート愛を存分に語った後、「Filmarksレビューで★5にしてる!そのくらい揺るぎなく好き!A君は?!」と聞くと、
「俺は4.5にしてる!人生何があるかわかんないからさ。」
顔は笑顔を作ったまま、心の中で「は?」と思ってしまった。
いや、良いんだけど。良いんだけどさ。Filmarksのレビューなんて、別に、良いんだけどさ。
私がこの世で1番にしている映画を、俺も1番と言いながら★4.5だと??人生何があるかわかんないからさ??いや、そうかもしれないけど。そういうものだけど。
私の1番と、彼の1番の熱量が違い過ぎて一気に覚めてしまい、なんとなくその話は終わった。
レビューなんて心底どうだっていいのに、どうでもいいレビューよりも「シング・ストリート」への愛が勝ってしまった。
その後A君には2人でご飯に行こうと誘われた。友達の彼氏の友達だし行かないと気まずいかな…と思って行くと、出会って10日くらいしか経ってないのに「誕生日近いよね?」とプレゼントをもらった。(誕生日の話1回出たくらいだったのによく覚えてたなと思ったし、割とちゃんとした物をくれてちょっと恐かった)
当時A君には彼女がいた。しかもA君と結婚したいと言っている彼女が。
彼女がいる事を私も知っているとわかっていながら、彼女を置き去りに私をご飯に誘って、誕生日プレゼントを渡し、あろうことか「彼女と一緒にいてもそんなに楽しくないんだよね」と言い出すA君。呆れた。
1番好きな映画に★4.5をつける男とはこれか、と。(絶対関係ない)
人生何があるかわかんないからさ、ってこういうことか、と。(絶対関係ない)
とにかく、彼女がいるのに他の女をご飯に誘うところも、他の女に誕生日プレゼントを渡すところも、「シング・ストリート」のレビューに★4.5をつけるところも、悪いけどまあ気に入らなかった。
というか冷静に、今カノの悪口を言うやつと付き合いたい女なんていないだろう。
結局その後も誘われたがさっさとお断りした。「シング・ストリート」を1番好きだと言う人と出会えたのに、くだらない男だった。悲しい。
この世で1番好きな映画を分かち合える人といつか出会いたい。願わくば、レビューは迷いなく★5を付けている人であって欲しい。
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