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第15回 『檸檬』 梶井基次郎著

 こんばんは、JUNBUN太郎です!

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 今夜も「読書はコスパ最高のコスプレです」のお時間がやってきました。本は自分以外の人間になりきる最も安あがりな道具。この番組では、リスナーのみなさんから寄せられる、読書体験ならぬコスプレ体験を、毎週ひとつご紹介していきます。
 ではさっそくリスナーからのお便りをご紹介しましょう。
 ラジオネーム、レモンスカッシュさん。

 JUNBUN太郎さん、こんばんは。
 やっちゃいけないって思えば思うほど、やってしまうってこと、ありませんか?
 近所の本屋に貼り紙がしてあったんです。
 ──万引きは犯罪です。ダメ、絶対。──
 万引きしてはいけない。わかってる。それが犯罪であることもわかってる。でも、絶対にダメだなんて言われると、逆に反発したい気持ちが徐々につのってきて、やっちゃいけないよ、絶対にダメだよ、そう自分に言い聞かせようとすればするほど、わたしの手は本棚へと伸びていきました。そうして、指に触れた一冊を抜き取ると、そのままバッグに入れていました。

 翌朝、わたしは一睡もできないまま、本屋が開店するのを待って、謝りました。盗んだ文庫本を恐る恐るバッグから取り出すと、店主はレジカウンター越しに恐ろしい目でじっとわたしのことを睨みつけてから、口を開きました。
「473円です」
 わたしは目からあふれてくる涙を拭うこともできずに、財布からお金を出し、頭を下げ、店を後にしました。

 『檸檬』を読んだのは、その帰り道のことです。

 とある青年の1日を描いたショートショート青春小説『檸檬』をまだ読んでないというリスナーの方は、ぜひ読んでから、続きをお楽しみください! 

 

 この小説を読んで、わたしはえたいの知れない不吉な塊に心を捕われていたのだということに気がつきました。昔は好きだったものが、いまはまったく楽しめない。楽しくないと、心はすさむ。すさんだ心でわたしは本を盗んでしまったのだと思います。なんの言い訳にもなりませんが。

 あれ以来、わたしは、出かける時、バッグの中に必ずレモンを忍ばせています。果物のレモンではなく、文庫本のレモンです。
 いまでも本屋に入ると、時折、妙な気持ちになって、手が欲しくもない商品に伸びて行きそうになります。そんな時はバッグの中のレモンのことを思い出し、ひとり想像するんです。本を盗む代わりに、本を置いていったら、店主はいったいどう思うだろう。そのように想像するだけで体中がくすぐったくなってきて、わたしは笑いをこらえながら、店を後にします。もちろん、爆弾を仕掛けることも、盗むこともしないまま、スカッと爽快な気持ちで。
 いまや『檸檬』はわたしにとっての大切な御守りです。

 実は、わたしはこれまでに本を読んだことがほとんどありません。太郎さん、もしよかったら、おすすめの本を教えてもらえないでしょうか?
 それを本屋に買いに行こうと思います。

 レモンスカッシュさん、どうもありがとう!!
 『檸檬』がまさか、万引きの抑止力になるだなんて、梶井先生もビックリでしょうね! そして、もちろん万引きは許されることではないけれど、書店の店主が万引きされた本をあなたに黙って売りつけたという対応にも考えさせられるものがありました。これはぼくの想像だけれど、店主は、謝罪するあなたの顔に反省の色をみてとったのではないでしょうか、そして、本の力を信じたのだと思います。本にはそれを読む人の人生を変えるぐらいの力があると店主は本気で信じているのだと思います。ぼくもそう信じてます!
 おすすめ本……それは、あなたが書店に入ってまっさきに目にとまった本です!! というのもアリだと思いますが、そうですね、例えば、川端康成の『古都』はどうでしょうか? あれも、『檸檬』と同じく京都が舞台ですが、まったく異なる視点で四季折々の美しさを眺めることができますし、ネタバレになるので詳しくは触れませんが、あなたとは異なる、もう一人のあなたに出会えるかもしれませんよ?!

それではまた来週!   

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