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アルバム全曲レビュー #5 COCONUT/NiziU Part2

 この記事では、NiziUの2ndフルアルバム『COCONUT』のユニット曲を含めた後半7曲について、1曲ずつ個人的な感想を交えながら考察していく。前半7曲の考察をまとめたPart1をまだ見ていない方は、そちらを先に読むことをおすすめする。



CLAP CLAP

 アルバム中盤の盛り上がりを締めくくるのは、3rdシングルのタイトル曲として昨年7月にリリースされた『CLAP CLAP』。リリース当時、直近のシングル『ASOBO』から約3か月しか経っておらず、今考えるとかなり短いスパンでのカムバックであった。


 この曲は、女の子らしい可愛らしさや元気さが中心だったそれまでのNiziUの楽曲のイメージとは一味違い、「かっこよさ」が全面に押し出された曲調となっている。したがって、この曲は「ガールクラッシュ」というジャンルに分類できる。

 ガールクラッシュ(ガルクラ)とは、本来は"女性でも惹かれるような魅力を持つ女性"を意味する言葉であり、KPOP界ではそういったかっこいい魅力を持つガールズグループまたは楽曲を指して用いられる言葉である。BLACKPINKやITZYなどが代表的なグループとして知られ、最近下火になってきてはいるものの、ここ数年のガールズグループのトレンドとして君臨し続けているコンセプトだ。

 NiziUの楽曲で言うと『Boom Boom Boom』や『I AM』などがこれに該当するが、タイトル曲では初の試みだった。こういったコンセプトはデビュー後ほとんど見られなかったので、WithUからの評判はかなり良かったように感じる。


 それとは対照的だったのが、ITZYの5thミニアルバムのタイトル曲として同時期にリリースされた『SNEAKERS』。それまでのITZYといえば『WANNABE』や『DALLA DALLA』に代表されるように、力強く疾走感のあるサウンドで「私は私」という自己肯定をテーマとしたコンセプトだった。しかし『SNEAKERS』は一転してラップ中心のポップなサウンドでITZYらしくなく、リリース当時の評判はあまり良くなかった。

 『CLAP CLAP』の方がITZYらしいという意見すら出てくるほどだったが、中毒性のある曲調が功を奏したのか、MVの再生回数やCDの売上枚数などの指標では結局のところ良い成績を残すこととなった。筆者も『SNEAKERS』はITZYのタイトル曲の中ではかなり好みである。


 話が少し逸れてしまったが、『CLAP CLAP』はタイトル通り「ハンドクラップ」をテーマにした楽曲となっていて、手を叩く振り付けや思わず手拍子したくなるようなサウンドがふんだんに盛り込まれている。実際、YouTubeで公開された掛け声動画では、WithUの掛け声のポイントだけでなく手拍子すべき箇所も一緒に示されていた。その点で、この曲は聴く側も参加して一緒に盛り上がれる、ライブにふさわしい楽曲といえる。

 昨年のアリーナツアー「Light it Up」は残念ながら声出しが禁止されており、「クラッパー」と呼ばれるハリセン状のグッズを使って歓声の代わりにしていたようだ。『CLAP CLAP』の曲中も、このクラッパーによるクラップで大いに盛り上がっていた。今年の「ココ夏!フェス」が『COCONUT』を引っ提げたライブなら、昨年の「Light it Up」は『CLAP CLAP』が大きなテーマとして位置付けられたライブだったと言えるだろう。


 ちなみに、この「Light it Up」で披露されたCLAPCLAPは音源とは少し異なり、ブリッジの終わりにダンスブレイクが追加されたバージョンだった。メインダンサー・リオのソロパートや、ダンサーを含めた大人数でのパートは圧巻である。このバージョンは昨年京セラドームで行われたKPOP授賞式・2022 MAMA AWARDSでも披露され、大きな話題となった。


 あるメンバーが曲中に記録した最高音と最低音の間隔を、私はしばしば「音域」と呼んで表現している。この曲におけるメンバーそれぞれの音域はNiziUの楽曲の中ではおおむね平均的なのだが、一人だけ高音側に偏っているメンバーがいる。そのメンバーとは、多くの人の予想と一致するであろう、ニナである。

 それもそのはず、この曲にはニナの圧巻の高音パートが2か所存在する。まずはブリッジの部分。ラスサビ直前の「連鎖させて」では地声でF#5を出しており、『Super Summer』で記録していたそれまでの地声最高音に並ぶ高さとなっている。のちに『COCONUT』でもこの高さを地声で記録することになる。

 この高音を出してからのE5のロングトーンへと続くのだが、このパートはかなり難易度が高く、ある程度の肺活量や技術がないと真似できないだろう。改めてニナの歌唱技術の高さには驚かされる。


 さらに驚きなのが、2つ目の高音パート。ラスサビでは全体的にニナが裏でアドリブ(フェイク)を担当していて、特に「いつもの君も」直後のフェイクがかなり高く、最高でG5という、驚異的な高さを記録している。これによりニナの地声最高音はG5に塗り替えられ、後述する『Love&Like』でタイの高さは記録したものの、現在もG5が最高となっている。

 女性歌手の曲でも、地声でここまでの高音はめったに見られない。強いて例を挙げるとすれば、TWICEの3rdフルアルバム収録曲『ESPRESSO』では、ラスサビ直前にナヨンが最高G5のフェイクを披露している。

 今までのNiziUの曲と比較するとニナのパートの分量はあまり多くなく、サビでもほとんど登場しないが、これら高音パートの存在によりいつも以上にニナの存在感は大きく感じられる。


 ここで、普段筆者があまり触れない「曲の長さ」について考察してみる。この曲の長さは全体で2分45秒であり、NiziUの楽曲では『Baby I'm a star』に次ぐ短さとなっている。こういった3分を割るような短さの曲が、近年KPOPに限らず、JPOPでもトレンドになってきている。NewJeansのヒット曲『Super Shy』『ETA』はいずれも2分30秒ほどしかなく、TWICEの最新ミニアルバム『READY TO BE』では収録曲6曲のうち4曲が2分台という短さだ。

 では、このトレンドの背景には何があるのだろうか。いろいろな記事を眺めてみると、どうやらストリーミングの普及が一番の要因らしい。今やストリーミングによって次から次へと色々な曲を聴ける時代なので、最初の数十秒でどれだけリスナーの心を掴めるかが、その曲の再生回数を大きく左右する。このような背景から、イントロや間奏がカットされがちになり、結果として曲全体の長さが短くなってきているそうだ。

 ただ、個人的には、このような傾向はあまり歓迎できない。ITZYの『SHOOT!』などのようにアルバムのアクセントとして1曲くらい短いものを挿入するのは賛成だが、すべての曲が短くなっていき2分台がスタンダードのような状況になってしまったら、1曲の聴きごたえがなくなっていくのではないかと危惧している。イントロ、間奏、アウトロなどといった楽曲の基本的な構成はあまり見失わないでほしいところである。


Raindrops

 ここからは、ユニット曲も含め全て新曲が並んでいる。9曲目に入るのが、雨の日に家でゆっくり過ごす情景が浮かんでくる『Raindrops』。比較的落ち着いた雰囲気のバラード曲で、このアルバムでは『Paradise』と同じような箸休め的な役割を担っている。

 メンバーがこのアルバムのお気に入りの収録曲を答えるインタビューで、『COCONUT』や『All right』などが挙がる中、マコだけはこの『Raindrops』を選んでいた覚えがある。余談だが、リオとミイヒはこの場面で『LOOK AT ME』と答えており、普段からJPOP好きなのが垣間見える2人らしい回答だなぁと感じた。


 この曲で注目なのが、ラッパーであるマユカとリマのボーカルだ。『Paradise』同様にこの曲もラップパートがないので、この2人のレアな歌声を聴くことができる。Samplerではマユカのサビらしき部分が切り抜かれていて、歓喜した記憶がある。

 2人ともサビの出だしを担当しているほか、マユカは珍しく歌い出しも任されている。マユカが1番Aメロの歌い出しを担当するのは、今のところ『Sweet Bomb!』『PRISM』と合わせて3曲となっており、歌い出し常連のリマ、リオあたりと比較するとかなり少ない。

 マユカがサビに出てくるのもかなり珍しい!…と言いたいところだが、実は最近になってそこまで珍しくなくなってきた。先程の解説では触れなかったが、『CLAP CLAP』では1番のサビがマユカメインのパートとなっている。『ASOBO』では2番のサビの直前までマユカのパートであり、そのままセンターで踊り続けるので、こちらもマユカがメインであると言ってよい。

 前回の『U』の解説では『Poppin' Shakin'』でのマユカのサビに触れ「もっとこういう歌割りが見たい」と懇願していた記憶があるが、あっさりその願いは叶うこととなった。とはいえメインボーカルでないメンバーのサビは意外性があって大好物なので、これからもJYPに期待したいところである。


 この曲のプロデュースはTrippyことキム・テジュン氏が行っている。彼はこれまでに『Super Summer』や『Take a picture』『CLAP CLAP』など多くのNiziUの楽曲に関わっており、スキズやTWICEなどJYPの他のアーティストを担当することも多いようだ。

 そこで彼が作った曲を聴き比べてみると、サビの構成がおおむね共通していることが分かった。具体的に言うと、短いフレーズの繰り返しでサビが出来ている。この曲と『Super Summer』とを比較するとわかりやすいが、まずサビ頭の4小節で同じフレーズが2回繰り返され、次の2小節は違うメロディが来て、最後の2小節で元のフレーズに戻る。こういったサビの構成が、特にこの2曲では完全に一致している。

 短いフレーズの繰り返しはJPOPというよりは洋楽に見られるものであり、作曲者のキム氏はそういったジャンルが得意なのかもしれない。さらに付け加えると、"ポストコーラス(サビ後半)が存在し、しばしば曲の冒頭に登場する"という特徴も彼の曲に共通している。このように楽曲を注意深く聴いてみると、そのプロデューサーが使いがちなメロディの構成やコード進行などが見えてきて、面白い。


Love & Like

 ラストを飾るこの曲は色々な意味で衝撃的であり、初めてこのアルバムを通して聴いた方には最もインパクトを与える曲であろう。前作『U』では最後の二曲は『9 colors』からの『Need U』という流れだったため今回も比較的落ち着いた曲が続くのかと思われたが、その予想は完全に裏切られた。最後の最後にボルテージが最高潮に上がる曲が待っていたのだ。

 この曲はなぜテンションが上がるのか、どこが衝撃的なのか、色々な面から考察していきたい。


 まず注目すべきなのはその曲調。今までのNiziUの楽曲に無かったようなミュージカル風の楽曲となっていて、オーケストラ風(ブラスバンド風?)のアレンジが施されており、曲中で目まぐるしく展開が変わっていく。このような曲調は、特に欧米の人にウケるのではないかと個人的に感じている。

 特にAメロとサビの部分では、次々と音を変えて進んでいく疾走感のあるベースが印象的である。この奏法を専門的には「ランニングベース」と呼ぶらしい。さらに曲の最後では、ニナの歌声とともにたくさんの楽器が出てきて、盛り上がって終了となる。このような壮大なフィナーレも、ミュージカル特有の終わり方なのではないだろうか。


 続いて、メンバーそれぞれのボーカルに注目してみる。まずはリマユカのラップ。この曲には随所に2人のラップが散りばめられている。テンポが速めの曲なのでラップもかなり早口なのだが、難なくこなしてしまうところは流石NiziUのメインラッパーである。リマのパートは英語が多め、マユカのパートは日本語が多めというようにそれぞれのスタイル合った箇所を担当しているのもかなり良い。

 メインボーカル達の出す高音もこの曲の大きなポイントとなる。リクはラスサビの直前でG5を出しており、それまでの彼女の地声最高音を更新している。ニナはブリッジの「Your hands…」のところで同じくG5の高音を出しており、先程述べたように『CLAP CLAP』でのフェイクに並んで歴代最高の高さとなっている。今述べた高音パートは全てブリッジに含まれるので、ラスサビに向けて怒涛の高音ラッシュが起きていることが分かる。


 ミイヒはそこまでの高音は出していないが、この曲を通して表現力の高さは十分伝わってくる。1サビとラスサビ直後の「Lo-lo-lo-lo-love」を担当しているが、ここを初めて聞いたとき、ここがミイヒのパートとは分からなかった。それくらい普段の彼女とは違った声色になっている。昨年の『I AM』の解説でも述べたように、曲の雰囲気に合わせて声色を変える能力がミイヒにはあり、この『Love & Like』でもその表現力が存分に生かされているといえるだろう。

 メインボーカルではないがマユカにも注目すべきパートがあったので触れておきたい。先述のラップに加えてブリッジの「Swinging up and down…」のところも彼女のパートなのだが、なんとここでE5の高音を地声で出している。メインボーカルのマコでも地声でここまでの高さは未だに記録していない。私も最初に聴いたときは疑ったが、どうやらマユカのパートで間違いなさそうだ。それまでの最高だったC#5を大きく上回る、文句なしの歴代最高音である。

 ボーカル面で言えば間違いなく今までのNiziUの曲の中で最も難易度が高いが、その難しさは作曲者本人がお蔵入りを覚悟するレベルらしい。ダンスやビジュアルなど一口にアイドルと言っても得意分野は様々だが、NiziUはボーカルが一番の強みなのではないかとつくづく感じている。


 最後に、筆者がこの曲を聴いて気付いたこととして皆さんに共有しておきたいのが、サビのメロディが「沖縄音階(琉球音階)」になっているということだ。この曲はホ長調であり、サビでは音階の2番目の音(F#)と6番目の音(C#)が出てこないので、作曲者が意図したかは不明だが、沖縄音階のルールに従ったメロディになっていることがわかる。

 サビに限って言えば、リズムやアレンジを少しいじるだけで、この曲は一気に沖縄風の音楽になるポテンシャルを秘めている。そう考えると、音階について議論するのもとても興味深く感じないだろうか。ヨナ抜き音階風のメロディはよく出てくるが沖縄風はめったに見られないので、ここで一旦音階の話題を取り上げてみた。


LOVE YOURSELF

 ここから4曲はNiziUにとって初の試みとなったユニット曲が続く。初回生産限定盤Bにのみ収録されているが、サブスクも解禁されたことだし、せっかくなのでこれらの考察も書くことにする。

 ユニット曲と言えばKPOPではTWICEやStrayKids、IZ*ONE、TREASUREなど人数が多めのグループのアルバム曲としてたまに制作される。宇宙少女などのようにユニットでデビューする事例も存在する。TWICEはデビュー7年目である一昨年に初めてユニット曲がリリースされたので、NiziUのユニット曲が聴けるのはまだまだ先のことだと勝手に思っていたが、予想に反してかなり早めのリリースとなった。

 ユニット曲を作るメリットとして一番大きいのが、やはり1人当たりのパートの割合が相対的に大きくなるということだろう。全員曲ではあまり出てこないメンバーの歌声をたっぷり聴くことができる。さらに、全員ではできないような偏ったコンセプトでも、メンバーを絞ることで可能になるというメリットがある。これから解説する全てのユニット曲で、これらのメリットが存分に生かされている。


 1曲目はマコ、アヤカ、ミイヒによる『LOVE YOURSELF』。3人のイメージに合った明るい曲調でありながら、どこか中毒性もある不思議な曲である。期待通りアヤカのパートが多く、全てのサビでメインを担当しているほか、2番の冒頭ではラップにも挑戦している。

 今更だが今回収録されているユニット曲は全て歌唱メンバーが作詞に参加しているので、歌詞にも注目してみる。この曲は"ありのままの自分で大丈夫"というのが大きなテーマらしく、リスナーを優しく励ましてくれるような歌詞が散見される。この点で言うと『Step and a step』と通じるものがある。ちなみにラップの「広がるrunway 進むのmy way」はマコの発案らしく、いつかのライブ配信で得意気に語っていた。


 実はこの曲は『LOOK AT ME』と同じくKENTZさんが作曲とアレンジを担当しているのだが、これら2曲の間には共通点がたくさん存在する。

 この『LOVE YOURSELF』では曲全体を通してざらついたシンセサイザーのような音色が聞こえるが、このアレンジによりシティポップ感のある楽曲に仕上がっている。前述のように『LOOK AT ME』もシティポップ風の楽曲であり、まず曲の雰囲気が似ているというのが一つ目だ。

 次に細かいところで言うと、メロディに酷似している部分がある。サビの「掴みに行くの」「たどり着いたよ」の部分で レ♭→ド→シ♭→ラ♭ というふうに下がっていくメロディが出てくるのだが、『LOOK AT ME』の「進めていきたい」のメロディと完全に一致する。本来音階に無い音を含むので決してよくあるパターンではないのだが、何故か一致している。しかもこの2曲は音階が変ホ長調で共通しており、ともにマコのパートということもあって、類似性をさらに高めている。付け加えるとBメロのコード進行がクリシェ進行という共通点もあるが、こちらは割とよくあるパターンである。

 同じアルバムにここまで部分的にそっくりな2曲が収録されるのは、なかなか珍しいことである。作曲者であるKENTZさんが狙って似せたのか、それとも彼の作曲のクセが出てしまったのか…色々と推測はできるが、真相は本人に聞いてみないと分からない。ただ一つ言えることは、どちらも神曲だということだ。


secret

 続いて2曲目はリオ、マヤ、リクによる『secret』。全員20代のお姉さんメンバーが集まったユニットということで、大人の女性らしい妖艶な魅力が詰まった楽曲になっている。私事だが筆者と同い年の3人組ということで、個人的に思い入れのあるメンツでもある。

 先程の『LOVE YOURSELF』では作詞クレジットに3人に加えてプロの作詞家の記載があったが、こちらはリオマヤリクのみとなっているため、3人で全て作詞したと考えて良いだろう。あまり作詞のイメージのない3人だが、英語を交えた本格的な歌詞を書けるとは、驚きである。「You and my secret」など意味的に怪しい部分もあるが、それもまた味があって良い。


 やはりボーカル面ではリクがおおむねリードするという形になっていて、ラスサビの背後では最高G#5にもなる高音フェイクを担当している。このG#5は現在のところ、地声ではNiziUの全曲を通して最も高い音となっている。リクの歌割りで面白いのが、Bメロのサビ直前の部分とサビ冒頭をどちらも担当しているという点だ。ソロ曲ではなく複数人ボーカルが存在する楽曲において、サビに入るところでボーカルが切り替わらないという現象は少なくとも筆者は見たことがなく、この部分だけ聴くとリクのソロ曲のようである(伝われ)。

 リオとマヤのボーカルも負けてはいない。リオは随所で合いの手を入れつつ、2番の冒頭でラップをしつつといった感じで進行するが、ブリッジではほぼ全てを任され、ラスサビの後半ではメインで歌唱している。「募る気持ち」のところで最高F5の音をミックスボイス気味に出していて、それまでの彼女の最高音だったポピシェキでのC#を大幅に更新した。ファルセットでもここまでの高さは今までなかったので、いきなりの高音ミックスボイスに驚かされた。リオは以前から歌声がリクに似ていることが指摘されていることも踏まえると、か細くならずに高音を出せる才能があるのではないかと思えてくる。

 ちなみにこの曲のリオの最低音は「気づいてbaby I want you to be mine」で記録したF3である。したがってリオの音域はF3からF5までのちょうど2オクターブとなるが、これは『Baby I'm a star』でのマヤとミイヒに匹敵するほど広い。


 マヤは音域では他の2人に劣るものの、この曲のコンセプトであるセクシーさを最もよく歌声で表現できているメンバーだと感じている。うまく表現できないが、Bメロの「Because I」やサビの「この瞬間 君が」に代表されるような"悲しそうな"歌い方がこの曲の雰囲気にマッチしていて、何度聴いても聴き惚れてしまう。マヤのための曲と言っていいほどマヤの表現力が存分に生かされた楽曲だ。

 パートの分量もリクと同じくらい多く、全てのサビに登場する。マヤは『Take a picture』や『Chopstick』など多くの楽曲でサビを任されてきた実績があり、ましてや今回はユニット曲なのでマヤのサビが多いのは予想通りである。願わくば、『Twinkle Twinkle』のように全員曲でも彼女が全てのサビに出てくるような曲をまた聴いてみたい。


JUMP

 残ったマユカ、リマ、ニナによるユニット曲『JUMP』はラッパー2人とメインボーカル1人という面白い組み合わせであり、この3人を混ぜるとどんな化学反応が起きるのか、実は筆者が一番楽しみにしていた曲でもある。

 先程TWICEにもユニット曲が存在することを述べたが、そのユニット曲の一つにナヨン、モモ、チェヨンによる『HELLO』がある。お気付きの通り、ラッパー2、メインボーカル1という全く同じ組み合わせである(モモをラッパーとするかの議論はここでは省く)。

 この曲ではメインボーカルであるナヨンの激レアなラップが聴けるので、『JUMP』でもニナのラップが聴けるのではないかとリリース前に期待が膨らみすぎていたが、その期待を超えるほどゴリゴリに入っていたので大歓喜した。ニナのラップは『Sweet Bomb!』のAメロ以来、実に2年半ぶりとなる。流石メインボーカル、音程の乗せ方やリズムの取り方が上手いのか分からないが、聴いていてとても心地の良いラップである。


 ここで一旦3人が書いた歌詞に注目してみる。リマニナの英語力を生かす形で、全編英語詞の楽曲となった。既存シングル曲の英語バージョンはこれまでにいくつかリリースされているが、オリジナルで英語詞の曲はNiziU初の試みとなる。TWICEの『The Feels』やITZYの『Boys Like You』などのように欧米を意識した英語曲が今後リリースされる可能性はある。

 繰り返しの部分が多いとは言え、合計で3000語弱という長い歌詞を書くのはかなり大変な作業だっただろう。おそらくリマが中心となって書いたと推測されるが、虹プロを見ているからこそ、限られた時間の中で詞を書く過酷さは容易に想像できる。


 ほとんどラップで構成された曲ということもあって、所々英語で韻を踏んでいる箇所がある。一例として歌い出しの部分を示す。

Up and down up and down eyes on 
Imma glow up turn the lights off
Show me now show me now that's all 
What you gonna do when the nights on

『JUMP』より

 ここだけを切り取っても「eyes on」「lights off」「that's all」「nights on」の4か所で韻を踏んでいる。これに初めて気付いたとき、思わず鳥肌が立つくらいの衝撃を覚えた。他にもサビの部分では「jump」と「up」はもちろんだが、「young」でも韻を踏んでいると考えられ、細かいところまでよく練られた歌詞になっている。こういったラップ調の曲は想像以上に韻を踏んでいる場合が多く、歌詞を見て探してみるのも楽しみの一つである(個人の感想)。


 全編英語詞ということで、歌詞の意味も気になるところである。翻訳サイトを駆使して解読した結果、おおまかな内容は理解できた。

"最強の私たちがあなたを夢中にさせるから、すべて忘れてついて来て"
"夜はまだ長いから、狂ったようにジャンプするだけ"

 短くまとめると、大体こんな感じになる。ステージに立つ3人の姿が目に浮かんでくるような内容だ。改めて歌詞を注意深く読むことで、かなり自信に満ち溢れた挑発的な言葉が並んでいることが分かった。


 英語ネイティブのリマとニナに混ざって英語詞の曲を歌うことになったマユカだが、驚くほど溶け込んでいる。NiziUを知らない人がこの曲を聴いたら全員ネイティブだと勘違いしてしまうほど違和感がない。確か『Poppin' Shakin' English ver.』がリリースされた際にもマユカの英語の発音の良さが話題になっていたが、彼女は耳で聞いた音をそのまま口で再現する能力に長けているのかもしれない。


 続いて、この曲の構成がかなり特殊なので取り上げたい。一般的なポピュラー音楽は1番、2番、ブリッジ&大サビ(ラスサビ)という構成になっているので、曲中に3回サビが出てくる。いきなりサビから始まるパターンも一定数存在し、このように曲の冒頭に来るサビを頭サビという。頭サビがある場合その曲中のサビの回数は基本的に4回となる。

 以上を踏まえてこの曲を聴いてみると、ある異変に気付く。サビが4回あるにもかかわらず、頭サビが存在しないのだ。では、この曲の構成はどう解釈したら良いのだろうか。

 "サビ4回" かつ "サビで始まらない"曲の数少ない例として、いきものがかりの『風が吹いている』とGD X TAEYANGの『GOOD BOY』が挙げられる。これらを聴いてみると、曲の最初のBメロらしきパートの次にサビという流れになっている。そのサビが終了すると、1番、2番…というように一般的な構成に従って曲が進行する。つまり、1番目のサビが頭サビと同じ役割を果たしていると解釈できるのだ。

 この事例から類推するに、この『JUMP』においても1番目のサビを頭サビとみなし、それより前に付属しているパートはすべて頭サビのための壮大な伏線とみなせるのではないだろうか。1番目のサビまでが大きなプロローグで、「Been workin for this all week」でやっと1番のAメロが始まるというのが私の解釈である。


 余談だが、ここまでのユニット曲3曲はすべて長さが3分19秒で一致している。同じアルバム内で3曲、しかもユニット曲という同じカテゴリの曲が秒の単位まで一致するのは、偶然とは考えにくい。平等さを考慮したのか、それとも大人の事情があったのか、真相は定かではない。


Take it

 遂に最後の1曲まで来た。『Take it』は昨年の全国ツアー「Light it Up」最終公演で初披露され、その後ドームツアー「Burn it Up」でも披露されたマユカとリマによるユニット曲だ。初披露から1年弱が経ち、今回満を持して『COCONUT』でWithU待望の音源化が叶った。

 作詞はもちろんマユカとリマの2人が担当した。時系列的には『JUMP』の1年ほど前になるが、作詞を提案された際、リマは虹プロ以来作詞に自信がなくなっていて、最初は断ったそうだ。しかしマユカが隣で励ましてくれたため、書くことを決意したという。そんな温かいエピソードが隠れた曲でもある。


 『JUMP』と同じようにサビで英語のフレーズを連呼するEDM感の強い楽曲だが、こちらの方が日本語詞も多めで、ラップではなくメロディがついたパートもしっかり確保されている。特にマユカは「My gallery 見返して…」のような高すぎず低すぎないパートが、彼女の低めの声によく合っている。ファルセットだが最高音E5も記録している。

 リマの英語ラップの流暢さは流石としか言いようがないが、ボーカル面でも聴きどころがある。ブリッジの「Uhhh」ではF#3の低音を出していて、『Paradise』のAメロと並んで現在でもリマ史上最低の音である。


 この曲で最もボルテージが上がるところと言えば、ラスサビだろう。気づいた方も多いと思うが、ラスサビといってもそれまでの1番2番のサビとは雰囲気ががらりと変わった、まるで別の曲のサビような部分が最後に待っている。ブリッジのマユカの「Stop」からリズムが一変し、その流れを引き継いだままイカツいシンセサイザーが入ってきてクライマックスを迎え、気付いたら曲が終了している。

 ラスサビだけアレンジを一変させるこういった手法は、実はKPOP界隈では一定数存在するパターンである。特に有名なのが、YGエンタテインメント所属アイドルの楽曲たちだ。そもそもの話、YGはHIPHOP色の強い事務所なので所属アイドルの楽曲もドロップを伴ったEDM系のものが多く、3回も同じドロップを繰り返すのは少しくどいので、最後だけアレンジを変えるという慣習が定着したのだと思われる(完全に筆者の推測であるが)。

 BLACKPINKの『FOREVER YOUNG』『Pretty Savage』『Yeah Yeah Yeah』、TREASUREの『BOY』『JIKJIN』『BONA BONA』など挙げればきりがない。アレンジが変わり一気に盛り上がるYG特有のこのラスサビを、俗にパーティータイムという。



 リリースからかなり時間は経ってしまったが、『U』に引き続きNiziUのフルアルバム『COCONUT』について、1曲ずつ自分の思うところを言語化できたので一安心している。合計3万字に迫る勢いでだらだらと、相変わらず拙い文章でここまで書いてきたが、前回よりは客観的な事実を多めにして、正確な情報を意識して書けたのではないかと感じている。

 『U』の考察の締めくくりとしてJPOPとKPOPが混在したNiziU独自のジャンルという表現を使ったが、『COCONUT』ではそのジャンルがさらに開拓されてきているように感じられた。韓国デビューも成功に終わり世界から注目され始めているNiziUが、次はどんなアルバムで帰ってくるのか、今から楽しみで仕方がない。


 ※毎度のことですが、私の音楽理論の知識は独学であり不正確な部分もあるかと思います。反論や訂正などございましたら遠慮なくご連絡ください。

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