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声から相手の心が読める

顔ではなく声だけの方が相手の感情を推測することが出来るという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

顔の表情は文化の差を超えて感情を表しているとされ,私たちはその変化を認識し相手の感情を汲み取ろうとします(2)。

しかし,顔の表情から相手の感情や嘘を見抜こうとすると,一つひとつの表情を定義づけることが出来ず(3),早い変化に対応することが困難で何を頼りに相手の意図を読み取ればいいのか分かりません(4)。

嘘に関する206件の文献の14,483名のデータを対象に分析したメタ分析では,人間が嘘を見抜ける確率は約54%だと結論付けられており,相手の考えていることや感じていることを外見上の特徴から推測するのは難しいことが分かります(5)。

今回紹介する論文は顔の表情の変化や身振り手振りなどの視覚的な情報ではなく,声や発言の内容などの聴覚的情報に注目することで相手の意を汲み取ることが出来ることを教えてくれます。

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2017年にイエール大学のミシェル・クラウスが相手の感情を推測するには顔の表情などの視覚的な情報ではなく,声などの聴覚的情報が大事なのではないかについて調べるために実験を行いました。

実験の対象となったのは大人100名でした。

実験参加者はランダムに3つのグループに分け,2人が会話をしている動画を見てもらいました。3つのグループの違いは以下の通りです。

<グループ1>
声だけを聴く

<グループ2>
音声なしの映像だけを見る

<グループ3>
音声・映像ありの動画を見る

その後話している人の感情を怒りや不安,嫌悪などの23つの指標に従って評価をしてもらいました。実験参加者の視聴した動画は事前に撮影されたもであり,実際に動画の中で会話をしているモデルの人に対しても自分自身の感情について評価を行ってもらっています。

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実験の結果,会話の声のみを聴いてた場合には映像だけを見ていた場合と音声・映像ありのビデオを見ていた場合と比較して会話している人の感情を正確に推測できていました。

続く実験で,実験の環境を暗闇にすることで話している人の言葉の選択や発言の内容に注目できるような環境を整えて相手の感情を正確に推測できるのかを検討しています。

それらの結果から話している人の言葉の選択や発言の内容に注目することを通して共感能力を高める可能性があると言及されています。この傾向は過去の研究の結果からも出ていて,声から相手の状態を推測できる要素として以下のような具体的があります。

・魅力的な異性を前にすると男性,女性性別に関わらず声のトーンが下がる(6
・自分よりも地位の高い相手と対峙すると声が高くなり,地位が低い相手だと声が低くなる(7

このように声は私たちに相手の内面に関する,有益な情報を教えてくれます。顔の表情などの視覚的なてがかりは大量の情報が得られる一方で,相手の意図を汲み取る際にはノイズになってしまうのです。

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(1)Kraus M. W. (2017). Voiceonly communication enhances empathic accuracy. The American psychologist, 72(7), 644–654.

(2)Ekman, P. (1989). The argument and evidence about universals in facial expressions of emotion. In H. Wagner & A. Manstead (Eds.), Handbook of social psychophysiology (pp. 143–164). John Wiley & Sons.

(3)DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological bulletin, 129(1), 74–118.

(4)Curci A, Lanciano T, Battista F, Guaragno S, Ribatti RM. Accuracy, Confidence, and Experiential Criteria for Lie Detection Through a Videotaped Interview. Frontiers in Psychiatry. 2019;9:748.

(5)Pisanski, K., Oleszkiewicz, A., Plachetka, J., Gmiterek, M., & Reby, D. (2018). Voice pitch modulation in human mate choice. Proceedings of the Royal Society B, 285(1893), 20181634.

(6)Namy, L. L., Nygaard, L. C., & Sauerteig, D. (2002). Gender differences in vocal accommodation: The role of perception. Journal of Language and Social Psychology, 21(4), 422-432.

■人の心は読めるか?──本音と誤解の心理学/ニコラス・エプリー (著), 波多野理彩子 (翻訳)

■デタラメ データ社会の嘘を見抜く/カール・T・バーグストローム (著), ジェヴィン・D・ウエスト (著), 小川 敏子 (翻訳)

■嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実/アルダート ヴレイ (著), 太幡 直也 (監修, 翻訳), 佐藤 拓 (監修, 翻訳), 菊地 史倫 (監修, 翻訳)

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