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2022年8月 読書記録 

 8月も、梅雨時のような湿度の高い日が続きましたね。それに加えて、あれこれ気ぜわしい時期なので、サクッと読める短編集や短めの作品を選びました。
 人と同じく、本もまた次々に縁でつながっていくものなのだと感じます。森鷗外→江戸期の文学→中村真一郎、村上春樹→ドストエフスキー、カポーティ、フィッツジェラルドというように読書の幅が広がり、半年前には想像もしなかった読書記録になりました。


ドストエフスキー『白夜/おかしな人間の夢』

 ドストエフスキーの短編集です。村上春樹さんの短編小説に「白夜」がかえるくんの愛読書だとあったので、興味をひかれて読んでみました。ドストエフスキーの小説とは思えない、素直で優しい雰囲気の作品。若い頃は、こんな小説を書いていたのか…。『カラマーゾフの兄弟』で挫折した方にもおすすめの短編です(登場人物たちが躁状態で飛び跳ねている印象もありますが、それでめげていては、ドスト作品は読めません)。

 また、「キリストの樅ノ木祭りに召された少年」は、『クリスマス・キャロル』をはじめとするディケンズの小説の影響を感じる作品でした(影響というか、ほぼディケンズそのまんま)。ドストエフスキーがディケンズを愛読していたという話を実感できました。ドストエフスキーといえば、悪人やウザい人を書くのがうまい作家というイメージですが、ヒューマニズムへの思いも強かったようです。
 


ポール・オースター『ガラスの街』

 探偵小説の形式を借りた自分探し小説なのですが、その部分より、主人公が追う男が語る言語論、宗教論が面白い。トンデモ理論で、しかもその理論を実証するために犯罪までやらかしているのに、作品に非現実的な雰囲気が漂っているので、気分良く楽しめました。村上春樹さんの盟友? 柴田元幸さんが翻訳していますが、王道の英米文学よりも、メタっぽい作品が好きな人におすすめ。


トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』

 村上春樹さんが訳したカポーティの短編集です。 
 アメリカのロマンティック・コメディ映画が苦手なので、「ティファニーで朝食を」は原作も含めて敬遠していたのですが、映画と原作はかなり違うようです。成熟を拒む生き方の美しさだけでなく、はかなさや翳りも描かれていました。それ以外の短編も良かったし、村上さんの翻訳も小説の雰囲気に合っていました。これまで読んだ短編集の中でも、最も感動したものの一つです。
 村上さんの短編、中でも超現実的要素がない短編がお好きな方には特におすすめ。
 フィリップ・シーモア・ホフマンが主演した《カポーティ》をもう一度観たくなりました。


 中村真一郎『この百年の小説 人生と文学と』

 『頼山陽とその時代』で中村さんの批評眼の鋭さに感動したので、近代小説の評論を読んでみました。明治期〜1960年代頃までの小説を、青春・心理・家族・社会などのトピックごとに読み解いた作品です。紹介されているのは大部分未読の小説でしたが、項目ごとに有名作が入っているので、それとの比較で、未読でも作品の輪郭が何となくわかる仕組みになっています(例えば青春には『三四郎』や森鷗外の『青年』、石原慎太郎さんの『太陽の季節』が入っていました)。
 戦後の小説は、安吾・織田作・太宰の後は大江健三郎さんまでほぼ空白地帯なので、読書欲を刺激されました。


F・スコット・フィッツジェラルド『若者はみな悲しい』

 村上春樹さんの小説との関連で『グレート・ギャツビー』を再読したので、同時期に書かれた短編集も読んでみました(ギャツビーについては、後日書く予定です)。ギャツビーと似た背景を持ちながら、彼とは別の人生を歩んだ男たちの物語が多かったです。併せて読むことで、禁酒法時代のアメリカについての理解も深まりました。
 ギャツビーはいい奴だけど、性格的にも年齢的にも、そして何より男ではないので、何かを渇望してやまない男の物語に没入するのは少々キツいーーそんな風に感じてしまうのですが、短編なら、彼らの夢やかなしみに寄り添いやすいです。フィッツジェラルドが華やかな世界と同化していたわけではなく、冷めた目も持っていたこともわかりました。
 短編集としては、新潮文庫版の方が秀作揃いだと思いますが、この光文社版は、ギャツビーへの理解が深まるという点で、村上春樹さんのファンにおすすめしたいです。


 短編集は、合間の時間に読めるのがいいですね。今後も積極的に読んでいきたいです。
 


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