マガジンのカバー画像

iNa_短編小説まとめ

20
自分自身で書いたnoteの短編小説のまとめです。色々試しながら書いているので、文体とか内容とかトーンとかバラバラです。色々読んで見ていただけたら嬉しいです🐄🐄🐄
運営しているクリエイター

#短編小説

self service

self service

 昨日は雨が降っていたような気がする。昨日だったような気もすれば一昨日だったような気もしてくる。それとも今日なのかもしれない。底の見えない深い沼のような濃い緑色の遮光カーテンに閉じられて外の様子はわからない。あのカーテンを開ければ済むことだけれどそのためだけに腰は持ち上がらない。検索してサッと調べればすぐにわかることなのに別にそこまで知りたいわけでもないから、天気予報とは別に今日は誰がどんなことを

もっとみる
瞼に透ける

瞼に透ける

 両肩に勢いよく手がのっかってくる。左にすこし重さは振れてチャリが傾きそうになった。なんて考えれないぐらいに一瞬のことで、すぐに腰に衝撃が走ったかと思えばよろめきながらも車輪は前に進んだ。そんななんでもない瞬間が、なんでか忘れられない。あれだけくっさいと罵っていたのに潮の香りが気にならなくなったのは、毎日のことで鼻が馴染んだからだったか、後ろからなびいてくる髪の毛のせいだったか。

 ベランダに粗

もっとみる
かげふみ

かげふみ

靴の入り口がへこんでいるのは、親とか教師とか女とかに何度も何度も指摘されても、いつの年になっても直せない癖だった。どんなに高い靴を買ったとしても、履く時に踏んづけてしまう。毎日履くたんびにそうするものだから、次第にへこんでいく。おまけに歩く時に踵を擦って歩くからなのか、靴底はすり減って、靴下はなぜかつま先ではなく踵に穴が空いた。

今年の冬はやけに晴れの日が多い。雨が降ってないのかどうか、正確

もっとみる
閉じるボタンとタピオカレディ - such a person -

閉じるボタンとタピオカレディ - such a person -

一人目

こんな人がいた。
エレベーターに乗り込むなり、すぐさま閉じるボタンを押してくる人。目を合わせようとはせず、こちらの視線に気づくとわかりやすく嫌そうな顔をする女性だった。ちょっと、っと少し苛立ちを込めてもらすと謝罪ではなく「間違えた」と渇いた声でつぶやいた。
今回が初めてではなかった。彼女の閉じるボタンには今日だけでも三回挟まれそうになっている。意図的なのか無意識なクセによるものなの

もっとみる
やまない雨

やまない雨

地下鉄のホームは温くて湿っぽかった。

なかなか開かない線路沿いの扉の前で立ち尽くしている人々は、なかなか開けない梅雨を待ち望んでいるかのように雨の雫がついた傘を手にぶらさげている。ある人は先端を地につけて飲み会帰りのような出で立ちで脂肪や塩分やアルコールの溜まった体重を支えていて、ある人は何かいいことでもあったのかウキウキしたカップルの手繋ぎみたいに傘を振って雨粒を飛び散らせている。

もっとみる
eclipse

eclipse

 きっと意味のないところで鳥は鳴かない。
 そう教えてくれた人の想い出はぼんやりと、竹と樹々で陽の光を阻んで薄っすらとした公園の記憶と共にある。ただそれが幾つの時だったのかは思い出せやしないし、ましてやそんな公園があったのかすら疑わしいくらい、今ではアスファルトに靴を擦り減らし陽を遮るのは鉄筋コンクリートのビル群という大都会を歩く日々。鳥の声は聞こえるようで聞こえず、排気ガスの音が減ったとはいえ、

もっとみる