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天地伝

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逢魔伝シリーズ第二弾です。 天狗のタイマと、鬼の八枯れ(やつがれ)が、あの世から、明治大正時代へ転生。 現代の妖怪架空伝記です。 シリーズものですが、独立して楽しんでいただけます。
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【企画】参加していただきありがとうございました。

【企画】参加していただきありがとうございました。

→企画ページはこちら。

先日まで、開催しておりました、「小説の挿絵募集します。」企画、第一弾終了いたしました。

たくさんの方のご参加、また、多くの作品をお寄せいただき、誠にありがとうございました。

第二弾の企画も、そのうち立てられたらいいなあ、と思っています。
『逢魔伝』通じて、たくさんの方に出会えて、今回、noteで連載して良かったと思いました。
ゆっくりペースではございますが、引き続き、

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天地伝(てんちでん) あとがき

天地伝(てんちでん) あとがき

 BGMイメージ↑

 ここまで、長い長い物語をお読みいただき、ありがとうございました。
『逢魔伝』に引き続き、シリーズものとして連載させていただき、なんと企画立てたおかげで、素敵なイラストまでお寄せいただき、感謝、感激、雨あられでございます。

 『天地伝』は、どうしても物語伝奇性の強さから、登場人物達の心情を細やかに追い続けると、ついつい、作者自ら泣いてしまう物語でした。
 「タイマ」が居なく

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天地伝(てんちでん) 最終話

天地伝(てんちでん) 最終話

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    七

 恭一郎がいなくなったと、聞いた時、そんな瞬間はもうとっくに過ぎた。そう思った。
 あれは、いまも確かに生きている。生きているのに。白髪をかきあげて、快活に笑い、「八枯れ」と呼ぶ、恭一郎のその声に、振り返る訳にはいかない。では、生きているのか?と、問われてわしはおそらく、うなずくことができないのだ。
 タイマは死んだ。生あるものは、必ず死ぬ。

 だが、なぜ恭一郎

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天地伝(てんちでん) 4-6

天地伝(てんちでん) 4-6

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    六

 舗装されていない山道を歩きながら、狸は丸く細い尻尾を振って、わしを振り返った。鬚をひくつかせ、脅えているような表情を浮かべる狸に苛立ち、「何じゃ」と、低くうめいた。
 狸は、一度大きく体を震わせてから「失礼を」と、消え入るような声で謝った。わしは、呆れたため息をついて「それで?なぜ貴様が噛んでるんだ」と、話の続きをうながした。
 「不肖ながら東堂さま、ご主人の

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天地伝(てんちでん) 4-5

天地伝(てんちでん) 4-5

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    五

 海上に上がってすぐ、遠くに広がる赤い帯が、目に入る。
 足元に転がる風呂敷包みは、逃げ出した者のそれだろう。ほとんどが黒く焦げ、炎がくすぶっている。ぱちぱち、しゅー、と焼ける荷物を睨みながら、舌打ちをした。
 揺れの後、台所でくすぶっていた火が燃え移ったのだろう。
 家屋を燃した火の粉が、風に乗って空を舞い、家財を持って逃げ惑う、人間どもの荷を焼いて、赤い帯は

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天地伝(てんちでん) 4-4

天地伝(てんちでん) 4-4

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    四

 闇の谷が、なぜ怖かったのか。簡単な話だ。暗いからだ。そして、臭い。だが、わしは死肉を喰って生きながらえた。暗くて臭い場所で、臭いものを喰って、生きてきた。
 それなら怖いものなどないはずだ。だから何度も口にする。
 「最強の鬼。最強の鬼じゃ」その通りだ。わしは最強じゃ。それを疑うものがどこにいる?わし自身でさえ、疑う余地のない事実をまとっていてなお、なぜ人はそ

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天地伝(てんちでん) 4-3

天地伝(てんちでん) 4-3

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    三

 登紀子の努力の甲斐もむなしく、ついに、一九二三年八月三十一日の夜を迎えた。
 その日は、やけに湿度が高く、空は重たくたれこめているようだった。風が出て来たのか、烈風がことごとく吹きあたり、古い門がぶつかりあっては、がんがん、とうるさく鳴いていた。わしは縁側で丸くなったまま、ぴりぴりと、鬚に浸透するしびれを感じて、目を開けた。
 「来たな」
 小さくつぶやき、起き

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天地伝(てんちでん) 4-2

天地伝(てんちでん) 4-2

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    二

 「でも、失礼な話よね」
 登紀子は、わしの背の上でつまらなそうに、つぶやいた。夜のつめたい風に吹かれる赤茶色の髪の毛は、きめが細かく、外灯の火に照らされてきらきらと、かがやく。蜘蛛の糸のようだった。わしは、白い息を吐き出しながら「何がじゃ」と、言って鼻を鳴らした。
 「こちとら、必死にかけずり回ってるってのに、何で疑われなくちゃいけないのよ。まともに考えたら、女

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天地伝(てんちでん) 4-1

天地伝(てんちでん) 4-1

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目次

第一章

第二章

第三章

第四章

1
2
3
4
5
6
7

あとがき

   第四章

    一

 刀を脇にさした、男たちの足音が近づいてきた。
わしと、登紀子は門前にひかえ、草むらの中に身を潜め、奴らが過ぎゆくのを待つ。「確かに、こっちの方へ来たと思ったんだが」「いずれにせよ、早く捕まえねえと」「今のうちに、やっちまわなあ」「そうだ。殺される」ひそひそと

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怒涛の第三章一気アップでした……。
ひとまず、タイマの物語はここで終わり。
最終章は、登紀子と八枯れの物語を描き出し、終了します。
最後まで、おつきあいいただけると、幸いです。
(画像はかにさんの八枯れと赤也ですが、人間版のタイマ(恭一郎)にも見える。笑)

天地伝(てんちでん) 3-16

天地伝(てんちでん) 3-16

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    十六

 「これは、まだ開けていないの。直接、八枯れに渡そうと思ったから」
 そう言って、手渡してきたのは、白い封筒だった。わしは、怪訝な表情を浮かべて「何じゃ」と、力なくつぶやいた。
 「お父さんから、あずかっていた手紙よ。文字くらい、読めるでしょう」
 「ああ、そうか」
 封筒を口にくわえて、畳の上に置いた。なぜか、いまはそれを読む気になれないでいた。否、手紙など開

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天地伝(てんちでん) 3-15

天地伝(てんちでん) 3-15

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    十五

 夕餉もすませ、京也が帰るとようやっと落ち着いたと、くつろいでいたときだった。慌ただしい足音が近づいてきた。襖を開けた由紀の顔は、狼狽し、青白くなっていた。
 タイマの体調が急変したと言う知らせを聞いて、わしと登紀子は言葉を無くした。医者を呼ぶ、と言って聞かない由紀を、登紀子に任せて、わしは部屋へと急いだ。
 座敷に上がると同時に、熱に浮かされた黄色い双眸と、目

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天地伝(てんちでん) 3-14

天地伝(てんちでん) 3-14

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    十四

 「つまり、もうすぐ大きな地震がくるってだけだろう?何を、そんなに慌てているのか、わからん」
 京也の話を聞き終わってすぐに、論点のずれた言い合いを続けていた登紀子や京也に向かって、わしは面倒くさそうに、それだけを言った。座敷にいた全員が、わしの顔を見つめて、黙りこむ。
 タイマは相変わらず、苦笑を浮かべて、成り行きを見守っているようだった。それにも腹が立ったが

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天地伝(てんちでん) 3-13

天地伝(てんちでん) 3-13

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    十三

 突然、頭を叩かれた。目を開けると不機嫌そうな、登紀子の顔があった。
 「どうして、そんなところで寝ているのだろう。私が、もしひどい悪党で、問答無用で、お前の皮をはぐような人間だったら、とっくに殺されているわよ」
 「その前にわしが貴様を喰ってやる」
 「札一枚で、動けなくなるお前にできるのかしら」
 「寝起き早々つっかかってくるな。何が気に喰わんのだ」
 「全

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