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松下幸之助と『経営の技法』#98

5/23の金言
 商品を新たに購入いただいたお得意様とは、新しく親戚になったのだと考えたい。

5/23の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 日々扱っている商品は、長く手塩にかけたわが娘のようなものだから、商品をお客様にお買いいただくということは、自分の娘を嫁にやるのと同じことで、そのお得意様とは新しく親戚になったことになる。
 そう考えると、そのお得意様のこと、お納めした商品の具合などが、おのずと気にかかってくる。
 “気に入って使っているか”“故障していないか””ついでにちょっと様子を伺ってみよう“というように、娘の嫁ぎ先に対すると同じような感情が、自然に湧き出てくる。
 そういう思いで日々商売に取り組んでいくならば、お客様とのつながりにも、単なる商売を超えた、より深い信頼関係が生まれてくる。そうなればお客様にも喜ばれ、ひいてはそれがお店の繁栄にもつながってくる。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、アフターサービスの重要性や、アフターサービスを充実させるための工夫(考え方の工夫)が紹介されています。
 ここでは、このようなアフターサービスを充実させるために、経営=内部統制としてどのようなことが必要なのかを考えましょう。
 まず、担当者変更可能性の確保です。
 会社が個人と異なる特徴の1つが、事業の永続性です。人が入れ替わっても、組織として対応しますから、ビジネスが継続できるのです。けれども、アフターサービスをはじめとする顧客との接点は、どうしても担当者個人の人柄や力量に頼る部分が大きくなります。
 そこで、これを担当者が交代しても途切れないようにする工夫が必要です。様々な工夫がされていますが、①最初から、顧客の信頼の対象を、担当者個人に対する信頼の割合を小さく、会社に対する信頼の割合を大きくしておくことと、②担当者が交代した場合に、新しい担当者や会社に対する信頼を直ちに獲得できるようにすること、が考えられます。
 特に、①の部分は、営業の一般的な常識と違う面があるので、確認しておきましょう。
 例えば、自動車の販売や整備の場合、担当者を定め、ちょっとした相談事から買い替え、修理、車検など、ことあるごとにその担当者が窓口になる方法が、顧客の信頼を高められるように思われます。用事によって、営業担当者が出て来たり、整備担当者が出てきたりする場合よりも、何でもできて、しかも何でもわかってくれている担当者が全てを対応してくれますので、担当者は何でもできて頼りがいのある人に見えてくるからです。
 けれども、このように高まってしまった信頼は、担当者が替わるときにはマイナスに働いてしまいます。
 この前修理したところの問題を、新しい担当者はちゃんと理解しているのだろうか、そんな心配が生じるかもしれません。さらにそれがエスカレートすると、なぜ担当者を変えるのだ、という不満にまで高まりかねないのです。
 そのような揺り戻しがあるくらいなら、最初からチームとして対応する方が合理的でしょう。例えば、あるスーツの量販店では、担当者一人がスーツの好みを聞いたり採寸したりして、最後の精算まですべて担当するのではなく、別の従業員がお茶を出して声をかけ、さらに他の従業員がレジ対応するなど、スーツの購入決定から精算まで、複数の従業員が関わり、声をかけるようにしたところ、リピート客が大幅に増加した、と言われます。最初に複数の担当者が紹介されると、何か取り囲まれてしまうような圧迫感や、頼りになる人が一人もいない印象を与えるなど、マイナス面が懸念されますが、それを上手に薄め、逆にお店全体で大事にしてくれている、という印象を与えることに成功しているのです。この対応は、アフターサービスではなく、むしろ営業そのものの例ですが、この段階からチームとしての信頼も獲得できているので、アフターサービスもチームとして対応が可能となります。
 このように、アフターサービスには、組織的対応の視点も加味して、実際の業務に導入していきましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、特にプレーヤーとして優秀だった人ほど、チームプレーを前提とした経営ができない場合があります。個人としての心構えややる気を論じることが上手であっても、組織として活動する意識を高め、そのような組織やプロセスを実際に構築し、忍耐強くその浸透を働きかけることは、なかなか難しいことです。自分でやった方が早いことが多く、ついつい手を出してしまうのです。
 特にプレーヤーとして優秀であった経営者こそ、自分自身が手を出さず、自分と同じくらい優秀な従業員をたくさん育てるように意識して行動すべきですし、それこそが、経営者に求められる資質なのです。

3.おわりに
 だからと言って、個人の担当者が皆同じ顔をして、個性のない金太郎飴のようになってしまうと、会社の魅力が無くなってしまいます。担当者個人の信頼と、会社全体の信頼は、その役割分担や配分のバランスがとても難しい問題です。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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