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松下幸之助と『経営の技法』#152

7/16 時々刻々に報告しあう

~打てば響くような人間関係であれば、時々刻々に報告しあうものである。~

 やっぱり偉いなと思う人は、ちゃんとやっていてもキチッと報告しますわ。そうすると、こっちも「それは結構やったな」と非常に愉快になる。いい結果の場合も報告する。悪い場合にも報告する。その報告を怠る人間はあきまへんな。打てば響くというか、以心伝心というか、肝胆相照らす仲であれば必ず報告するものです。使いに行ったら帰って、「あれはこうでした」とか、僕の代理で行った場合でも必ず報告する。それが普通です。それをしない連中は、やっぱりいかんですな。
「君、それは報告してくれよ」と言えば、最初のうちは報告に来ても、じき忘れてしまう人がいる。やはり、本人の癖でしょうな。外国の人は必ず報告しますわ。出張員でも毎日本社へ報告している。日本人は概して報告せんですね。だから、そういうことはよほど仕込まんといかんでしょうな。癖をつけんといかん。
 今は各事業部長とも、僕に報告する時間がない。第一、こっちも聞く時間がない。だから、今は然るべくやってもらっているわけですが、昭和10年頃は時々刻々報告しあうことができた。こっちも聞く時間があったし、指示する余裕もあった。そういう時代が僕にとっていちばん楽しい時代でしたな。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 前日(7/15の#151)もそうでしたが、従業員の主体性を育て、仕事をも任せていくことの重要性を、松下幸之助氏は繰り返し強調します。
 その際の育て方として、松下幸之助氏は、今で言う「報連相」の重要性を説いています。
 報告しない従業員は「やっぱりいかん」のであり、ちゃんと報告するように、「そういうことはよほど仕込まんといかん」のです。
 ここでは、その仕込み方までは詳しく説いていませんが、私の場合には、例えば以下のように説明して、報告を心がけるように説明していました。このことは、「頭出し(ノーサプライズ)」として幣著『法務の技法(第2版)』でも紹介していることですので、そちらもご覧ください。
 すなわち、例えば営業担当者が、担当している取引先から苦情を受けていたとします。それが、自分のミスにも原因の一部がある場合などには、なかなか上司に報告しにくいものですが、それでも実際に取引先から会社に正式な苦情が来る前に、上司に報告すべきです。
 なぜでしょうか。
 もしここで、事前に上司に報告していなければ、上司は、担当者の敵になります。すなわち、取引先の苦情の内容を先に耳にしますので、担当者がそれを隠していた、ということは担当者のミスもきっと大きかったに違いない、担当者に本当のことを話させなければならない、ということになり、結果的に取引先の方をもつ形になるのです。
 けれども、事前に上司に報告していれば、上司は、担当者の味方になります。すなわち、担当者の報告を先に耳にしますので、担当者のミスだけでなく、取引先との関係を考慮し、取引先にどのように謝罪し、事態の収拾を図ろうか、予め準備することができます。その後に取引先から苦情が来ても、担当者に代わって事情や状況を説明してくれますから、上司が取引先から見た場合の盾になってくれ、結果的に担当者の方をもつ形になるのです。
 このようなことがあるからこそ、特に都合の悪いことほど、早く上司に報告し、上司を味方に引き込む方が、従業員にとって都合が良いのです。もちろん、報告した時点で怒られるでしょうが、話がこじれてから怒られるよりも、はるかにマシであり、怒られない方法が無い以上、他に選択肢はないはずなのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の負う「報告義務」と状況が似ています。
 すなわち、経営者は株主から経営を「託されて」います。法的には、「信託」が原型とされていますが、そこでは、受託者は委託者を安心させるために様々な義務を負っています(忠実義務など)。
 逆に言うと、安心させてくれない人には、任せることができない、ということになります。この点が、松下幸之助氏の言う「外国の人は必ず報告しますわ」につながることなのでしょう。株主がボスであり、経営者は株主に雇われた「雇われマダム」でしかない、という意識が根底にあるように思われます。
 他方、古いタイプの人には、何でも任されたということは、自分に委ねたということなんだから、結果だけ報告すればいいだろう、という発想の人が見受けられます。このようなタイプの人が、松下幸之助氏の言う「日本人は概して報告せんですね。」につながるのでしょう。株主よりも経営者の方が偉い、経営者に頼み込んで経営してもらっている以上は、文句も言わずに結果だけを楽しみに待っていろ、そのような意識が見え隠れします。
 日本では、ガバナンスが機能していないと言われることが多くありますが、その背景には、このような株主に対する経営者の意識の違いも横たわっているように思われるのです。

3.おわりに
 社内弁護士時代、いくつかの会社で、外国にいる外国人(いずれもアメリカ人でした)と私の間で決めたルールのうちの1つが、全く同じルールでした。
 それは、「ノーサプライズ」というルールです。
 これは、私が事前に上司に報告すべき事柄を判断する基準です。金額や種類などで画一的に決めるのではなく、事柄の重要性で柔軟に決定するものです。すなわち、上司が本社の中で、私からの報告がない状況で他の役員などから、「日本でこんなことが起こっているんだって?」と話を聞くような、つまり、「びっくりする=サプライズ」ようなことがないように、そのような事情については、必ず事前に報告してくれ、という基準です。
 これも、根底には、私が上司から安心して日本の法務を任せてもらえるようにする、という意識が背景にあります。
 つまり、「任せる」=「安心させる」=「適切に報告する」は、一体のものなのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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