松下幸之助と『経営の技法』#9

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.2/24の金言
若い社員でも問題を発見したら意見を言う。責任者も喜んでその意見を聞く。

2.2/24の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 新入社員は、純真だから、こんなことをしていたら駄目じゃないか、という点をたくさん発見する。しばらくすると、もう分からなくなる。自分は、責任者に対して、なるべく皆に話を聞くようにしないといけないと、始終話している。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 この問題は、リスクセンサー機能とリスクコントロール機能の両方に関わることですので、ここでは分けずに検討します。
 すなわち、リスクセンサー機能、リスクコントロール機能いずれについても、若い人の感性を活かそう、という指摘です。すなわち、リスク管理に関する会社の機能として、若い従業員の感覚や意欲を活用すべきである、という提言と、評価できます。
 さらに、PDCAサイクルを回す必要性と、その際、若い従業員だからと言って相手にしないのではなく、むしろその際には若い従業員のように、会社の価値観に染まっていない人の意見こそ重要である、という問題意識にもつながります。
 内部統制の安定化・固定化よりも、多様化・流動化を恐れずに受け入れることの重要性を、リスク管理だけでなく、経営の観点からも指摘しているのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、ガバナンス上のコントロールとして、株主による「適切な」コントロールも期待されるべきです。
 すなわち、株主から見た経営者の好ましい素養として、若い従業員の意見を重く見れる人材、すなわち、自分自身の成功体験に固執するのではなく、若い従業員に代表される社会のニーズを見抜くセンス(リスクセンサー能力)があり、それに適切に対応できる能力(リスクコントロール能力)があることが、経営者に求められる資質であることを示しているのです。

5.おわりに
 特に、若い従業員に対しては、社会経験もなく、教育しなければならない、という発想になるでしょう。一種の上から目線かもしれませんが、教育しなければ、という発想や、そのために先輩の経験や苦労を伝えなければ、という発想は、基本的には善意に基づくものです(行き過ぎる人もがいるかもしれませんが)。
 けれどもそれだけではなく、むしろ未熟で新鮮だからこそ、大切なことを教えてくれる、という発想は、半面で、上司や先輩の立場を相対化します。ただ単に、上司や先輩だから偉いのではなく、若い従業員だからこその気付きやアドバイスがあり、それを受け入れる度量も必要です。
 つまり、若い従業員の声を受け止める組織になることを求めている、ということは、同時に、特にチームリーダーである管理職に、若い従業員の声を受け止めつつも、任されたチームを束ねてリードできる能力、特にそれは年功序列とは違うところから出てくる統率力が求められます。
 肩書や年次だけで権力を維持してきた管理職に対し、その源泉を否定することですので、ここでの松下幸之助氏の言葉は、管理職に対し、その統制力の見直しも突き付けることになる、非常に厳しい言葉なのです。
 どう思いますか?


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