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これは小説です。

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勢いで初めてみました。 短編小説を投稿していく予定です。マガジン名悩み中。
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#創作

猫はよくしゃべり、猫を被る。

猫はよくしゃべり、猫を被る。

 近所の公園に一匹の猫が居る。真っ白い毛並みに、右目が青く、尾が普通の猫に比べてやや長い猫である。

 近くのスーパーによる時に歩いて出かけると時折その猫がその公園を歩いていたり、座ってくつろいでいたりするのを見かけていた。はじめは気にかけていなかったが、ある日その猫が鳴くのを聞いた。

「ミート500グラムペットボトル入りで」

 少し高い合成音声のような声で、言葉の調子が少し下手であったが猫は

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いつかのささやかなる瞬間を青春と呼ぶのだろう

いつかのささやかなる瞬間を青春と呼ぶのだろう

 三城(ミキ)が窓の外を見ると雲行きが怪しくなっていた。さっきまでの晴れ空は嘘みたいで夕立雲がどこからともなく出てきていた。帰りの会の時間がいつも以上に長く感じる。早く帰りたいと三城は思っていた。
 三城の友達である城田はそんなことに気付かないで机の下でスマホを開いてゲームをやっている。別に帰りの会の時間がいつもより長かろうとそんなことは城田にとってはどうでも良いことだった。家に帰ってゲームをする

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ブスの女に負けた

ブスの女に負けた

 私の好きな人が私じゃない。
 
それは一番大きな問題だけれど私が気にしているのはそこではなかった。

 私は私の好きな人になれない。

 それが一番の問題だった。

 告白をしたら友達のままでもいいかと言われた。私は下心を持ったままお前に接するがそれでいいのかと彼に聞いた。
「いいよ。」
 贅沢なやつだと内心舌打ちをしたが同時に私はほっとした。友達ならいつかまたこちらを向いてくれる日が来るかもし

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地獄に行った男

地獄に行った男

 男はある日、死刑判決を受けて死んだ。男は生前多くの人物を殺めた。それは老若男女問わず、その行いを平等と言ってもいいほどであった。
 男は世間から恐ろしい人と言われ、前代未聞の悪人とも言われた。男自身もそうだと思った、自分は悪人である。だが男は人を殺しても感情の高ぶりはなかった。
 男は幼いときに、ふとした興味で猫を一匹殺めた。そこで男は気付いたのである。自分自身のもつ殺めることへの才能である。

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ポストは見ている _feedback sauna謝辞付き

ポストは見ている _feedback sauna謝辞付き

 とある駅近の銀行の隣に赤い郵便ポストがある。縦に四角い形に、深緋色の身体に一本足で立っており、横一文字の口が二つ付いている。口のサイズは大と小の二つになっており小さいほうの口には「手紙・はがき」大きいほうの口には「その他郵便」と張り紙が貼られている。

人々はポストを見ていないがポストは人々を見ている。

 ある朝、ぼろ切れをまとった老人が腰を曲げながらポストを横切る。老人は昨日見た時よりも少し

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ある男の後悔

ある男の後悔

 昔祖母の家に行った時に神隠しにあったことがある。もう三十年以上も前の話である。当時そのころは十歳であった。
 子供からみたらそこそこのお兄さんで、でも大人からみたらまだまだ小学生のガキ、十歳の時にいた俺の立ち位置はそんなところだった。
 祖母の家の裏手には森があり、その先に神社があった。祖母がその山を管理していたわけではなく、離れた三軒先にある富岡さんという名前の人が管理をしていた。富岡さんは自

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俺のことを好きな俺は俺じゃない

俺のことを好きな俺は俺じゃない

 俺はもう一人の俺を押し込めて、目の前にいる女子に向かってこう答えた。
「いいよ、付き合おう。」
 そうして手を差し伸ばした。目の前にいる女子、吉田さんはうつむき加減で恥ずかしそうにしながら差し伸ばした手を握り締めた。
 気持ち悪いな。と、応えた俺は思った。もう一人の俺が俺の意思を破ろうと暴れまわっている。大人しいもう一人の俺、西がこんなに暴れるなんて久しぶりで俺には愛おしく感じてしまった。好きだ

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僕の町には龍がいる

僕の町には龍がいる

これは嘘の話です。

 授業中教室の窓から空を見上げると今日も龍が漂っていた。龍がこの町を訪れるようになってから10年がたった。その前には中国に35年間居て、その前はロシアに150年間ぐらいいたらしい。最初に発見されたのはずっとずっと昔のことで、その時はみんなで龍を退治しようとあの手この手を使っていたようだけれど、龍は僕たち人間、この地球上の自然の力全ての力を束ねても傷一つつかず漂っていた。
 僕

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気になったことと後の時間の流れ

気になったことと後の時間の流れ

 仕事終わりの帰り道、ショーケースの中に入っていたソレを見たときはほんの一瞬だったからなにも思わなかったが、その日家に帰ってからというもののソレについて考えが頭の中をぐるぐると回った。なんでもなかったソレが気になったのである。
 とある古民家にある薄汚れたガラス製のショーケースの中でソレはきらきらと輝いていた。ショーケースの外には手で破いた白い紙に油性ペンで雑に書いてあった。
 「月500円、もし

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最低なことした君が好き。

最低なことした君が好き。

 結婚式をした一週間後に、男のインスタグラムで彼女と結婚したことを知った。私にはなんの報告もなかった。結婚式をする三日前に男は家に来ていた。
 男は浮気男であり、私が男にとって体のいい女だった。話を聞いて、体を貸して、そういう関係だった。だからこの突然の報告に驚きはしたものの予想できないことではなかった。私にとって信じられなかったのは男がそのインスタグラムを更新した後すぐに連絡をよこしたことだった

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S県で飼われている生き物

S県で飼われている生き物

 コンクリートというものを意識して歩いたことはとくにない。意識して歩いたことがあったかもしれないけれどそれすらも忘れるくらい私にとってはどうでもよかった。
 しかしである。S県に出張で行った後に私はいままでどうでもよかったはずのコンクリートを強く意識するようになった。コンクリートが出来立ての黒黒とした色なのか、様々な人が踏みしめ歩いて少し色にくすみが出てきたのかといったことを意識する。例えば、コン

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この穴からお前を見ている

この穴からお前を見ている

 夜、空は暗くなり星々が散る。見上げるとそこには煌々と照らされる満月がある。 町あかりが少ない場所に行けば、空から照らされる月明かりが一層強くなり、その姿に自然と視線が奪われる。
 だからなのであるからだろうか、私は1つの事実に気がついてしまったのである。完全な満月の日、満月は月ではなく白い穴なのだということに気づいてから私は完全な満月が怖くなってしまった。誰かに教えられたというわけではない、何か

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