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ブスの女に負けた

 私の好きな人が私じゃない。
 
それは一番大きな問題だけれど私が気にしているのはそこではなかった。

 私は私の好きな人になれない。

 それが一番の問題だった。

 告白をしたら友達のままでもいいかと言われた。私は下心を持ったままお前に接するがそれでいいのかと彼に聞いた。
「いいよ。」
 贅沢なやつだと内心舌打ちをしたが同時に私はほっとした。友達ならいつかまたこちらを向いてくれる日が来るかもしれないと思った。だから私は私なりの努力をした。
 ダイエットをして美容には気にかけ、自分の身の振る舞いをよく考えて行動するようになった。そうしていくうちに自然と男性から好意の目で向けられることも多くなり、同性の友達も増えた。
 私の努力は正しかった。私はこれで良いんだと、そう思って生活をしていた。本当は深夜にバリバリとお菓子を貪りたかったし、運動なんて何度やってもこれっぽちも好きにはなれなかった。でもこれで彼が私を好きになってくれるならそれでよかった。
 私と彼は二人で、または複数のメンバーの中の一人として会うことがあった。でも彼の顔色は変わることはなかった。

「どんな子が好みなの?」

 私はある日さりげなく、しかし内心は意を決して聞いた。

「好みの子がいるってわけじゃないけど、咲が好きだな。」

 咲、聞いたことのない女の名前だった。

「え、好きな子ができたってこと?」

 わかりやすく動揺する私に対して彼は呑気にいつもと変わらずに言った。

「そうだね。俺、咲のこと好きなんだよ。写真見てみる。」
「見せて。」
食い気味に答える私に対して彼はニコニコしながらスマホに映る女を私に見せた。その微笑は私がしばらく見なかった顔だった。
スマホの画面に映っていた女は、私が可愛いとは思えなかった。いや、はっきり言おう。

ブスだ。
一瞬で見て分かる。心もブスなら体もブス、全部そろって私以下の女である。

これは主観的評価が混ざっているものの大抵の人が私と咲を比べたら私を選ぶだろう。
安っぽいフリルのついたワンピースにリュックを背負い、リュックには大きな熊のキーホルダーをつけている。顔はナチュラルメイクという名のノーメイクで、垂れ下がった目にはくまが出来ていた。

どう考えてもろくな女じゃない。

「その子やばいよ。いや嫉妬から言ってるとかじゃなくて。やばいって。」
「なんでお前もそんなこと言うんだよ。結構可愛いと思うんだけどな。」
 写真を見て、確認するように彼は頷いた。

 どこがだ、そこの女の、咲のどこが良いんだ。努力をした私以下のどこが良いんだ。美貌も性格も私の方がずっと良い。間違いない。

「俺がいないとダメなんだよ。なんかさ、引っ込み思案みたいで俺がいるとよくしゃべるんだけど他の人がいると中々しゃべれないみたいでさ。そういうところ守ってあげたくなるんだよね。」

私も咲と一緒であなたがいないとダメだから友達という選択にいる。引っ込み思案なんて他人に迷惑かけるだけじゃないか、そんな迷惑なやつをどうして選ぶ。

咲の在り方を否定する訳ではない。そういう女もいる。そうして男を捕まえる女もいる。分かっているが、どうして彼なんだ。

彼じゃないといけなかったんだ。
「こういう女のことなんて言うか知ってる?」
 私はイラつきを隠せないまま彼に言った。
「知ってるよ。メンヘラでしょ?可愛くて良いじゃん。お前は俺が居なくても大丈夫だからなぁ、綺麗だし。」
 居なくて大丈夫な訳があるか、ダメに決まってるだろう。なにを勝手なことを言っているんだ。
 怒りで頭がおかしくなりそうだった。それでも彼のことが好きな自分が居た。良い様に使われている。

 咲がメンヘラっていうなら私はずっと前からお前に対してメンヘラになってるんだ。

 叫びだしてコップの水を顔にかけた後に一生残らない傷跡をつけてやりたくなった。だけれど私の理性はそれを止める。私という存在はそんなことをしないからだ。
 私は彼にわがままを言えばよかったのだろうか、もっと素直に努力なんてしないでブスでいればよかったのだろうか。そうしたら振り向いてくれたのだろうか。
 
 この美しさは、彼のためだけに作ったというのに。

 彼は笑いながら私に話しかける。そうしてそのうち恋人ができたと嬉々として私に伝えるのだろう。
 そうしたら私はキープか、キープならそれで良い。その方がずっとましだ。
 だけれど彼にとって私は多分、ずっと、
 
友達だ。
 

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