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なんと人間臭いキャラなのか!!|「女必殺拳」に学ぶテクニック(2)

※引き続き、「女必殺拳」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。


なんと人間臭いキャラなのか!


<1>

本記事では、敵キャラの1人・犬走一直(いぬばしら・いっちょく)に注目します。


こちらの記事で詳述した通り、「女必殺拳」には珍奇でユニークな敵キャラが多数登場するのですが……その中でもずば抜けて魅力的なのがこの犬走です


<2>

犬走の魅力は、ズバリ<人間臭さ>

他の誰よりも、とにかく人間臭いのです。


人間臭いというのはつまり……彼は決してカッコいいキャラではありません。というか、むしろカッコ悪い。大して強くはないし、口ばかりだし。しかも自分の弱さを認められないし。

が、しかし!

その情けなさがいいんですよ!


「バカな男ほど愛しい」「ダメな男ほど愛しい」なんて言いますが、まさにそれですね。


犬走の基本プロフィール


まずは、基本プロフィールを確認しておきましょう。

犬走は……

・性別:男性

・年齢:30~40歳頃

・職業:現在は、角崎率いる麻薬組織の幹部

・特徴:武術(おそらく空手)の達人で、子分を率いている


【1】俺はお前らとは違うんだ!


それではここからは、犬走のダメっぷりを時系列に沿ってご紹介しましょう。


<1>

まず映画開始から13分経ったところで、犬走の初登場シーンがやってきます。


・Step 1:敵組織の幹部数人がヘマをやらかした(組織に潜入していたスパイを捕らえようとして失敗)。彼らが落ち込んでいると……犬走が、子分を率いてやってきました

・Step 2:そして彼は、落ち込んでいる連中を小バカにした「ドジを踏んだらしいな」

・Step 3:さらに、組織のナンバー2・林に詰め寄った「林さん!どうして俺に任せなかったんだい!」

・Step 4:林が「少林寺一門を宿敵と狙うあんたが出ると、藤田を刺激する」と応えると……犬走は「構わん!たとえ悪魔と手を握ってでも、少林寺一門はこの手でぶちのめす!藤田から受けた恥辱をそそがない限り、俺が日本の武道界に生きる道はない!

・Step 5:かくして林は「よーし、わかった!あんたの初仕事だ。少林寺の藤田とその側近を徹底的に当たってくれ」


<2>

さてこのシーン。

ご注目いただきたいのは、以下の4点です。

・1:同僚を小バカにする

・2:他の幹部連中とは違って、子分を引き連れている

・3:林の方針にNOを突きつける

・4:少林寺一門(とそのリーダーたる藤田)に恨みを抱いている


つまりですね、犬走は角崎率いる組織の一員でありながら、どうやら他の幹部連中とは立場が異なるようなのです。

彼だけが随分自由に振る舞っている。


想像するに、

・1:犬走は、<犬走流空手>なんて組織のリーダーを務めていたのでしょう。自分を日本一の武道家だと思っていた

・2:ところが、少林寺一門にコテンパンにやられてしまう

・3:そしていま、「少林寺一門を打倒し再起を図る」という大目標のために不本意ながらも角崎の傘下に入っている

……なんて事情を抱えているのでしょう。


<3>

ここまでくれば、犬走がいまどんな気持ちなのか見えてきますよね。


すなわち犬走は……「チクショウ!なぜ俺が人の下で働かねばならんのだ!俺は武術の達人・犬走一直だぞ!」「いまは角崎の子分だが、これは仮の姿に過ぎぬ。俺はこんなところで終わる男ではない!」なんてドロドロした想いを抱えているに違いありません。

そして、「俺はお前らとは違うんだ!」と他の幹部連中を見下していると推測されます。


【2】成果を出せない


さて、組織のナンバー2・林に直訴して任務を与えられた犬走ですが……うーむ。

・うーむ①:犬走の子分が、組織に潜入していたスパイを捕らえようとする。ところが武術の達人(紅竜、湖城しのぶ)に反撃され、苦戦。その隙に、別の幹部(鉄頭僧)に手柄を横取りされてしまう

・うーむ②:上記と並行して、犬走は紅竜の行方を追った。しかし見つけられない


そう、犬走はなかなか成果をあげられないのです


【3】ボスから叱咤されてしまう


かくして映画開始から30分経ったところで、犬走は角崎(組織のボス)に叱咤されてしまいます「手ぬるいぞ!」


この時の犬走、悔しかったでしょうねぇ。


だって例えるならば、

・Step 1:フリーランスで活躍していたオッサンが、とある事情で中小企業に就職することになった

・Step 2:オッサンは鼻を鳴らす「ふん!俺は本来こんなところにいる人間じゃあないんだぜ。何しろ俺は、自分の名前で稼げる男さ!」

・Step 3:ところがどっこい、いざ働き始めるとどうにも成果を出させない

・Step 4:ついには社長から「おい、しっかりしろ!」と叱咤されてしまった

……なんて状況ですからね。


【4】悔しくて、何か言わずにはいられない


<1>

「手ぬるいぞ!」と叱咤されてしまった犬走。

直後、彼はこんなことを言います。「角崎さん、あんたも悪趣味ですなぁ。あんなゲテモノに頼らんでも、最初から全部俺に任せればよかったのよ」


角崎は、「沖縄古武術二丁鎌」の達人やら、「中国古武道トンファー」の名人やら、「南半球空手チャンピオン」の金髪美人やら、世界中から(怪しげな)武道家を集め、はべらせています。

※補足:詳しくはこちらの記事をご覧ください。


彼らは、組織に仇なすものを消すための刺客であり、また角崎のボディガードでもあるわけですが……しかし、それなら素直に傭兵でも雇えばいいんですよね。わざわざ、世界中から武術の達人を集める必要はない。

要するにこれ、角崎の趣味であり、犬走が「悪趣味」「ゲテモノ」と批判するのもまぁ的外れなことではありません


<2>

しかしそれにしても、犬走はなぜこのタイミングで「悪趣味」「ゲテモノ」と角崎を批判したのでしょうか?

彼の気持ちを想像してみましょう。


すなわち……

・Step 1:えーい、クソ!叱咤されてしまった!悔しい!じつに悔しい!

・Step 2:とはいえ、成果が出ていないのは事実です。ゆえに、真っ正面から反論することはできない

・Step 3:しかし、黙ってはいられない。何か言い返してやらねばプライドを保てない!

・Step 4:かくして彼は、まったく関係ない話題で反撃を試みたのでした


犬走、やっていることがまるで子どもですが……しかし彼の気持ちもわからなくはありませんよねぇ。

(いかがですか、この人間臭さ!)


【5】ボスからバカにされて、激昂する


<1>

犬走から「悪趣味」「ゲテモノ」と批判された角崎ですが……しかし彼は余裕です。

フンと鼻で笑った。

そして言った。「余計なお世話だ。あれは俺の道楽だよ。金持ちが競馬馬を持ったり、高価な犬ころを飼うのと同じことだ。ワッハッハッハッハ!同じ飼うなら、動物を飼うより、変わった人間を飼う方が面白いじゃないか」


<2>

①不本意ながらも角崎の子分になり、②しかもなかなか成果をあげられず、③さらに角崎に叱咤されてしまった……犬走のプライドはズタズタです。

その上、角崎のこの言葉ですからね。

犬走はもう耐えられない。彼は激昂しました「俺も飼い犬の一匹だと言いたいのかい!?」。


※補足:角崎が「犬ころ」と発言したのは、「犬走」の名前を踏まえてのことでしょう。なかなかどうしてユーモア精神溢れるボスですね。


【6】ボスを認めるフリをして、プライドを保つ


<1>

もう我慢できぬ!激昂した犬走は、角崎に襲いかかりました。しかし、角崎は素晴らしい身のこなしで犬走の攻撃を回避した。


角崎の周りにいた武術の達人たちが一斉に立ち上がる。犬走の子分たちもやる気満々です。

さぁ、乱闘寸前!ピリピリムード!


……と思いきや、犬走はニヤリと笑って子分を制止した。そして、爽やかな口調で「恐れ入った。まだ昔の腕はなまっちゃいませんね」。

角崎が笑う「ハッハッハッハ。南米ではこの手で牛を50頭は殺した俺だぜ。犬走、お前のことは俺に任せろ。俺の片腕となって本気でやれば、東京道院に負けない武道館をおっ立ててやろう」

※東京道院:少林寺一門の道場。


角崎の言葉に、犬走は鷹揚に頷いた「わかった。あんたにこの命預けよう!」。


<2>

とまぁこうして騒ぎは収まったわけですが……このシーン、どう思います?私は、大変心が痛みました。


というのも、

・一触即発の状況下でニヤリと笑う

・「恐れ入った」と相手を素直に認める

・「あんたにこの命預けよう」とそれっぽい発言をする


これ、犬走がどうにかプライドを保とうとして「俺は器のデカい男だ!」「俺は角崎を認めた!だから角崎の子分になったのだ!」と自分自身や周囲に言い訳しているように見えませんか?

うーむ、痛々しくて見ていられない……。


<3>

さらにその後、犬走は角崎に言いました「何でも俺に相談してくれ」


これまた、心の痛むセリフだと思いませんか?

だって、犬走には組織のナンバー2・林を筆頭にたくさんの子分がいるんですよ。ポッと出の犬走にあれこれ頼るとは考えづらい。


それなのに……このセリフ!

犬咲は、せめて<角崎の腹心の子分(= 他の幹部たちより一段上)>というポジションを得ることで自身のプライドを保とうとしているのだと思われます。


【7】ライバルがボスにいたぶられていると知って、動揺する


さらにさらに!

角崎は、犬走を地下牢に案内しました。

地下牢には1人の青年(万青)が囚われており、面白半分にヘロインを注射されるなど角崎にいたぶられていた。


犬走はギョッとします。

なにしろ万青といえば、憎き少林寺一門の実力者ですからね。嗚呼、自分と同等、あるいは自分よりも上と目していた者がいたぶられている!


これ、例えるならば、

・Step 1:甲子園を夢見る野球部の少年。彼には宿命のライバル・Aくんがいた

・Step 2:彼は「今年こそはAくん率いるB高校を倒して、全国制覇だ!」と練習に励んでいました

・Step 3:そこに、衝撃的なニュースが飛び込んできた。なんと、B高校が予選1回戦でコールド負けを喫したというのです

……という状況。


犬走のプライドはまたまた傷ついたに違いありません。


【8】やったぜ!大活躍!!


とまぁ見るも哀れな犬走ですが……映画開始から36分経ったところで、ついに見せ場がやってきます

・Step 1:紅竜が、角崎の屋敷に潜入した

・Step 2:犬走が応戦し、紅竜を圧倒する。そして紅竜は海の藻屑と消えた


やったぜ、犬走!

大手柄だ!

犬走は「紅竜も大したことないな!」と高笑い。角崎も「さすがは犬走だ!」と褒め称えます。


【9】急転直下


しかし、いつの世も栄華は長続きしないもの。映画開始から43分経ったところで、「じつは紅竜が生きていた」と判明します。


報告を受け、角崎は激昂しました「犬走!殺したというのは嘘だったのか!」。

これにはさすがの犬走も動揺。目を見開いて「そんなはずは……」。

角崎が怒鳴る「バカモン!」。


そんな……まさか……!犬走はショックを受ける。


【10】無様


<1>

チクショウ!今度こそ、紅竜をぶち殺してやる!ついでに、憎き少林寺一門も皆殺しだ!

かくして、犬走は子分を率いて東京道院を襲撃しました。


<2>

そんな犬走の前に立ちはだかったのが、少林寺拳法の天才・征一です。

征一は強い。

圧倒的に強い。

異次元の強さです。


犬走の子分はあっという間に蹂躙され、そして犬走はポキリと腕を折られてしまった。

嗚呼、哀れ!犬走は敗走したのでした。


【11】もうダメなのか?


その後、犬走の出番はめっきり減少します。

まぁ、腕を骨折してしまったわけですからね。戦力にならぬ。そりゃ出番は減るでしょう。


彼の登場シーンを探してみると……映画開始から47分経った辺りで、事務所の隅でやけ酒をあおっている犬走が映ります。

角崎が「再起不能か。ふん」と犬走を嘲った。

対する犬走は……無言で酒を飲むばかり。


【12】やはり、もうダメなのか?


<1>

その後、紅竜が万青を救出せんと奮闘したり、紅竜対敵組織の激しいバトルがあったりと、物語はぐんぐん盛り上がっていくのですが……そこに犬走の姿はありません

犬走が次に登場するのは、映画開始から1時間19分経過したシーンです。


すなわち……紅竜や征一が角崎の屋敷に突入し、大暴れ!

角崎の子分(先にご紹介した武術の達人たちです)はバッタバッタとやられていく。

これには、さすがの角崎も動揺を隠せない。


そんな中、すぐ傍で繰り広げられる激戦を黙殺して、 たった1人椅子に座っている男がいます。そう、我らが犬走です。

角崎が犬走を罵った「けっ!役立たず!」。

対する犬走は……やはり無言です。


<2>

犬走はもうダメなのでしょうか?

彼の心は折れてしまったのでしょうか?武術家としての犬走はもう死んでしまったのでしょうか?


答えは、否!


【13】最後の時


角崎に罵られた直後、犬走は刀を手に取り、征一に斬りかかりました。

おお!頑張れ、犬走!


がしかし、征一はそれをあっさり避けた。そして犬走をボコボコに殴り始めた。

まぁ、征一は作中最強キャラですからね。手負いの犬走がどうにかできる相手ではありません。

犬走は征一に殴られ、ぶっ飛ばされ、そして頭から鏡に激突。顔中血まみれになって息絶えたのでした。


まとめ


以上、犬走のダメっぷりを時系列に沿ってご紹介してきました。


プライドが高くて。弱い自分を認められなくて。やっと活躍できたと思いきや、やっぱりダメで。そして最期はまるで死に場所を求めるかのように特攻して……。

嗚呼、なんと人間臭いのか!

本当に魅力的なキャラですよね。


みなさんの作品にも、ぜひこんな人間臭いキャラを登場させてみてくださいねー!!



次回に続く!


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(担当:三葉)

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