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冬アニメ「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」の研究 ~見よ、鑑賞者の心を動かすこの技法を!

🥳本記事では、ポプカルMAXによるオンライン座談会「アニメ語り」(24年2月17日実施)の内容を一部抜粋してお伝えします。なお、完全版は動画でご覧いただけます→ こちら

「ポプカルMAX」とは?:ポップカルチャー(マンガ、小説、ラノベ、アニメ、映画、ゲームなど)好きのための、ゆるいコミュニティです。好きな作品について語ったり何かを作ったりして楽しむことを目的としています。


<座談会の参加者紹介>

👉清水大地 マスター・オブ・アニメ。年120作以上のアニメを見続けて20余年。「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」で好きなのはアイシャ・ベルカ。

👉村上空気 「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」で好きなのは、もちろんリリ(リリルカ・アーデ)。 →X(旧Twitter)でフォローしてね!!




🔮技法:主人公の泣き顔を直接的には描かない!あくまでも間接的に!!


前記事に引き続き、冬アニメ「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」について議論します→ 前記事はこちら


村上:本作の最大の特長は、繊細な描写だと思うんだ。

清水:ふむふむ。

村上:特に第1話は、かなり丁寧に作っているなぁと感じた。

清水:と言うと?

村上:例えば、「アイビーが村を出て1人で生きていくことを決意する」というシーン。ここで彼女はちょっとだけ涙を流すんだよね。しかし、アイビーの泣き顔が直接画面に映ることはない。あくまでも「川面に反射したアイビーの泣き顔」や「川面に落ちるアイビーの涙」しか描かれていないんだ。

清水:ふむ。

村上:さらにその後の「アイビーがソラに身の上話をする」というシーン。アイビーは自身の悲惨な境遇を淡々と語るんだけれど、話がルーバ(アイビーの育ての親とでもいうべき占い師)の死に及ぶとついに涙をこぼす。ところが、ここでもやはりアイビーの泣き顔はストレートには描かれていない。

清水:ほぉ。

村上:アイビーはマジックバッグで自分の泣き顔を隠すんだよ。とはいえ、マジックバックは小さいからアイビーの顔の一部がはみ出る。俺たち鑑賞者が目にするのは、そのはみ出た部分だけだ。

清水:うん。

村上:でさ、問題は「なぜ泣き顔を直接描かないのか = 泣き顔を直接描かないことで俺たち鑑賞者に何を伝えようとしているのか」ということだけれど。

清水:うんうん。

村上:アイビーってかなり悲惨な生い立ちのわりには明るくて、第1話冒頭だけ見ていると、もう過去に未練はない、吹っ切れているのかなという感じがするんだよね。

清水:確かに。

村上:しかし本当はとても辛い。悲しい。第3話で明らかになることだけれど、「私は誰からも必要とされていない」「もう死んでしまってもいい」とすら考えている。つまりアイビーは自分の本心を隠して必死に強くあろうとしているわけだ。――「泣き顔を隠す」という描写からこういったことが読み取れると思うんだよね。

清水:なるほど。

村上:これさ、一歩間違えると「アイビーが『本当は私は悲しいの。でも泣いたりしない。強くなる!』と空に向かって宣言する」なんてシーンになりかねないと思うんだ。

清水:そうね。

村上:でも本作は違う。「泣き顔を隠す」という描写を通じて、アイビーの心情を俺たち鑑賞者に伝える。これが上手いと思うんだよねぇ。上手すぎて、俺はころっと感動しちゃったよ(笑)。


🔮技法:ここぞというところで引き画を使う!


村上:第1話といえば、ここぞというところで引き画が使われているのも特徴と言えると思う。

清水:ほぉ。

村上:「引き画」ってのはあれだね、アイビーをドーンとでっかく描くのではなく、少し離れたところから「草原の中や森の中にポツンとたたずむアイビー」を描くってことね。

清水:うんうん。

村上:そういう映像が目立つんだ。もちろんこれは意図的なもので、アイビーの孤独を表現しているんだと思う。


🔮技法:化け物登場シーンでは、「不穏な音」「怯えるキャラのリアクション」などを通じてまずは鑑賞者の不安を煽る!


村上:続いて、第2話の「アイビーが森の中でヒュージアントに襲われる」というシーンに注目したい。

清水:うん。

村上:このシーンはさ、まずはサーっという不気味な音だけが聞こえてくるのよ。で、音に気づいたアイビーが緊張で顔をこわばらせる。何かヤバい魔物が来る!というわけで彼女は森の中を駆け、慌てて木に登って身を隠す。そして様子をうかがう。すると――次の場面、ここで初めて画面にヒュージアントの姿が映り、音の主がこの化け物だったと判明する。

清水:うんうん。

村上:でね、計測してみたんだけれど、えーと――不気味な音がするのは物語開始から3分34秒経ったところだ。一方、ヒュージアントの姿が初めて画面に映るのは4分6秒経ったところなのよ。

清水:ほぉ。

村上:つまりおよそ30秒に渡って、不穏な音とアイビーのリアクションを通じて「これはまずいぞ!何かヤバいものが近づいてくる!」という緊張感が作り出されているわけね。

清水:ふんふん。

村上:かくして――「一体何事だ!?」「アイビーちゃんはどうなっちゃうの!?」と俺たち鑑賞者はドキドキ。視線は画面に釘づけになる。

清水:なるほど。

村上このドキドキ感がいいんだよねぇ。いきなりヒュージアントの姿を映してしまってはこのドキドキは生まれない。きっちり不安を煽り、鑑賞者の視線を画面に集めた上でようやく化け物の姿を映す……いいよねぇ。


🔮技法:回想シーンを利用してキャラの心情を表現する!


村上:最後に、第2話終盤から第3話を思い出してほしいんだけれどさ。

清水:うん。

村上:まずは第2話の終盤、アイビーは木の魔物に襲われて大けがをする

清水:そうだったね。

村上:アイビーは手首から大量の血を流し、倒れてしまう。嗚呼、このままではまずい!とその時だ。傷の上にソラが乗っかった。ソラはスライムだ。アイビーはソラを友として一緒に旅してきたわけだけれど――アイビーはここで思い出す。そう、スライムってのはつまり魔物であり、人間を食らう。かくしてアイビーは絶望する。「私はソラを友達だと思っていたけれど、そうか友達に食われてしまうのか」というわけだね。

清水:うんうん。

村上:でこの直後、つまり第3話は冒頭からアイビーの過去が描かれる。彼女の生まれ育った家庭や、スキル判定会の様子、そして忌み子として皆から差別を受けたり、ルーバに救われたりする様子が描写される。

清水:うん。

村上:でさ、俺はこの流れがいいと思うのよ。

清水:ほぉ。

村上:と言うのもさ、「信頼する人(ソラ)に裏切られて絶望する」の後に、「信頼する人(家族、近隣住民)に裏切られて絶望する」という過去が描かれるわけで、ソラに襲われた時にアイビーがどれほど深く絶望したか伝わってくるよね。彼女は家族や村人からひどい目に遭わされたことを思い出して「ソラ、きみもか……」と絶望したに違いないよ。

清水:なるほど。

村上:さらに第3話の終盤、じつはソラはアイビーを食おうとしていたわけではない、アイビーを治療していたのだと明らかになる。かくしてアイビーは元気になる。彼女はソラに感謝して「私、要らない子かもしれないけどあなたとならそんなこといい」「もうちょっと頑張って生きてみようかな」と人生に対して前向きになる。

清水:うん。

村上:これもさ、直前に過去の出来事がしっかり描かれているから、「『信頼する人(家族、近隣住民)に裏切られて絶望する』という過去を持つアイビーだからこそ、『信頼する人(ソラ)に裏切られたかと思いきや、そうではなかった』というのがメチャクチャ嬉しかったんだろうな」と俺たちは理解できるわけじゃない。

清水:なるほど。

村上:一言で言えば、「構成 = エピソードの配置」が上手いから俺たち鑑賞者はアイビーの気持ちがよく理解できるというわけで、これまた巧いなぁと思いました。


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