見出し画像

しれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウム ⑭第三部 パネル討論その5 「味と旅」編集長山本氏

1988年に開催されたしれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウムの内容を連載形式で掲載いたします。
当時のナショナルトラスト運動や環境問題への認識を共有できればという意図です。

なお、編集は当時の斜里町役場の部署「斜里町役場自治振興課」です。

内容は以下のとおりです。

---------------------------

あいさつ 斜里町長 午来昌
祝辞
環境庁自然保護局長 山内豊德(報告書には全文掲載なし)
北海道知事 横路孝弘(報告書には全文掲載なし)
ナショナル・トラストを進める全国の会会長 藤谷豊

第一部経過報告と課題提起
千葉大学教授 木原啓吉
100平方メートル運動推進本部会長 午来昌
100平方メートル運動推進関東支部長 大塚豊
 100平方メートル運動推進関西支部世話人代表 笠岡英次

報告者による討論
天神崎の自然を大切にする会理事 後藤伸
ナショナルトラストをめぐる全国的な動き
会場からの質問応答

第二部基調講演
「国立公園に何が求められているか-保護と利用のあり方を考える-」
日本自然保護協会会長 沼田眞

第三部パネル討論
「国立公園の新たな保全と利用に向けて」
NHK解説委員 伊藤和明
自然トピアしれとこ管理財団事務局長 大瀬昇
中部山岳国立公園管理事務所保護課長 渡辺浩
野生動物情報センター代表 小川巌
日本自然保護協会参事 木内正敏
北海道「味と旅」編集長 山本陽子
会場からの質疑応答・総括討議

閉会にあたって 100平方メートル運動推進本部副会長 炭野信雄

-----------------------------




第三部 パネル討論
「国立公園の新たな保全と利用に向けて」

山本洋子(北海道「味と旅」編集長)
高崎経済大学卒業後、北海タイムス社に入社し、文化部記者を担当される。
昭和57年、北海道観光出版㈱に入社し、同社発行の「味と旅」の三代目編集長に就任される。

私知床に入ってこの会場に朝からいまして、とってもホンワカ気分になっています。
なぜかというと、皆さんの表情が知的で、穏やかで、謙虚だということがとっても印象的なんです。
つまり、皆さんのような方たちが考えて実行していけば、この知床というのはもっと魅力的になっても悪くはならないのにな。でもどこか目に見えないところでそうではないという力が作用して、マイナス要素も出てくる。その辺の綱の引き合いというか、頑張り方がとっても大事だという感じがしております。

今、御紹介を受けましたけれども、私はこの仕事に入ってまだ6年です。その前は新聞社におりました。
新聞社にいまして大体おおざっぱに日本各地は回り、それからほんの駆け足ですけれども外国も見てきて、やっぱり私は北海道でなきゃ生きていられない人だというややオーバーな感じがありまして、一目散に就職も決めずに帰ってきた人間なんです。すぐ隣の網走というところで育っています。

仕事がらいろいろなところを見せていただいているのですけれども、とにかく魅力探しをしよう。
タイトルを「味と旅」としていますけれども、人間にも味がある、景色にも味がある、物にも味がある、そういう意味ではトータルな魅力探しをしようと思ってうろちょろしているのです。

昨日、こういう席だから多分言ってもいいんだろうと思うのですが、知床センターを見せていただいて、ああやっぱり色の主張はするんだな、もうちょっと謙虚に自然の中に溶け込む形の色を考えてもらえば、もっと自然は喜んだんじゃないかな、そんな感じがしました。

つまり、いろいろなところに行って、逆に利用する側でどういう気持ちを起こさせてくれるか。
特に北海道の場合には、皆さんさんざん言われているように自然が大きな財産です。その自然、今までお金はそんなにかけていなかった自然が、北海道のために最大の財源になっているんですけれども、それにもかかわらずどんどん開発されていっています。人間の欲望というのは本当に際限がないものだという気がします。5が到達できれば7も8もとどんどんエスカレートしていっている。

それからもう1つ、学校での教育や何かでも、とにかくみんなが平等だというのを強調し過ぎるんじゃないか。
人間ですから優れたところもみんなに劣るところもあると思います。

でもいいところをみんなでほめ讃え、みんなが持ち上げてあげることを意外と忘れていて、みんなが同じでなきやならない。
観光でいろいろなところを回るんでも、同じ状況があったら同じところまではいける、そうであっては私はいけないような気がするんです。ということは、逆に言うと、自然が自分をどこまで受け入れてくれるか、自分はどこまでここの自然と仲よくなれるか、その1つの対話、そこでのチャレンジがとっても要求される気がするんです。

ニセコに1,000メートル台地までリフトができて相当たちますけれども、私はそれまで毎年ニセコにスキーに行っていましたが、1,000メートル台地にリフトができてからは行くのをやめました。ニセコアンヌプリの頂上まで登ってもちっとも感慨がない。つまり自分だけがそこで山との対話をしながら、汗を流しながらそこに到達する、ただお金を出してほんのちょっと行ったらもう同じ。そうではないんではないか。

それから北海道の場合、どうしても広いということで、かなりツアーという旅の形態がまだまだパーセンテージは高いです。
大体3泊4日で北海道一周という形で、本州の方たちはお見えになる。1日300キロを走る。

そうすると朝の8時ぐらいにスタートなんです。バスで回るのはいいんですけれども、バスの中で寝ているんですね。それでは本当の旅ではないだろう。ただやっぱり、慣れない人たちは、入門書としての旅のあり方があってもいい。そのかわり、それで絶対満足がいくはずがないから、次にはじゃあどこに行こうとか、どこに3日なら3日を費やそう。

そういう意味では何回も来てもらえるところだと思うんです。それでチラリズムがとっても大事だという気がする。
要するに、チラッと見えそうで見えない、そうすると見てみようという欲求が働きますよね。例えば夕陽がとってもきれいだと聞いたのに、天気が悪くて見られない。つまらない、で終わるんじゃなくて、その時の考え方で、これはもう1回おいでという意味だな、じゃあもう1回お金を貯めて来ようとなる。朝陽がとってもきれいだというと、それは朝早起きしなきゃいけないわけです。

マイカー規制とかいろいろなことが具体的になっていくと思いますけれども、この知床に関しても、ほんのわずかのところでぐるっと回れて、全部楽しめる、とんでもないと私は思っています。

お聞きしましたら、今年はかなりグループだとか個人とかがツアーのお客さんよりも増えている。とってもいいことだと思うんです。

やっぱり自分とのいろいろ新しい出会い、発見があるのが旅だと思うんです。ベルトコンベアーでさあっーと流れるのでは本当のよさは発見できないと思っています。そういう意味でも、ある程度努力すればもう1ついける。

だから1泊だったらこれだけしか見られない、でも2泊すればここまで見られる。それから北海道の場合には季節がこれだけ違いますから、四季で随分違う。

そういう時に、地元の人がこうだったよ、いやあこういう時にこうなんだという話がどれだけ1人1人の人とできるかじゃないか。

ですからやっぱり不便さというのか、余り不便だとそっぽを向かれてしまいますけれども、サービス精神過剰になるのは、旅をする側から言うと「そこまで見せないで自分で探すわよ」となる。逆に言うと、自分で探してください、そんな旅をもっともっとしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。 (拍手)

伊藤
どうもありがとうございました。日本人の旅のあり方、これは私も全く同感でございます。これはまた後で、国立公園利用の問題とも絡めて、皆さんの御意見も伺えるかと思います。
ひとわたりパネラーの皆さんの問題提起発言が終わりましたので、ここでちょっと休憩をしたいと思います。皆さんの方からの質問票を町で集めてくださいます。
それでは4時10分から再開したいと思います。

<休憩>

前へ 第三部 日本自然保護協会より提起

次へ