見出し画像

しれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウム ⑤第一部 報告者による討論

1988年に開催されたしれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウムの内容を連載形式で掲載いたします。
当時のナショナルトラスト運動や環境問題への認識を共有できればという意図です。

なお、編集は当時の斜里町役場の部署「斜里町役場自治振興課」です。

内容は以下のとおりです。

---------------------------

あいさつ 斜里町長 午来昌
祝辞
環境庁自然保護局長 山内豊德(報告書には全文掲載なし)
北海道知事 横路孝弘(報告書には全文掲載なし)
ナショナル・トラストを進める全国の会会長 藤谷豊

第一部経過報告と課題提起
千葉大学教授 木原啓吉
100平方メートル運動推進本部会長 午来昌
100平方メートル運動推進関東支部長 大塚豊
 100平方メートル運動推進関西支部世話人代表 笠岡英次

報告者による討論
天神崎の自然を大切にする会理事 後藤伸
ナショナルトラストをめぐる全国的な動き
会場からの質問応答

第二部基調講演
「国立公園に何が求められているか-保護と利用のあり方を考える-」
日本自然保護協会会長 沼田眞

第三部パネル討論
「国立公園の新たな保全と利用に向けて」
NHK解説委員 伊藤和明
自然トピアしれとこ管理財団事務局長 大瀬昇
中部山岳国立公園管理事務所保護課長 渡辺浩
野生動物情報センター代表 小川巌
日本自然保護協会参事 木内正敏
北海道「味と旅」編集長 山本陽子
会場からの質疑応答・総括討議

閉会にあたって 100平方メートル運動推進本部副会長 炭野信雄

-----------------------------


第一部 経過報告と課題提起 報告書による討論

午来
今日的な課題としては、知床公園線、知床センターから知床五湖までの道路管理者は北海道庁でございますから、マイカー規制をやる前提としては、北海道の管理者の理解、それから北見方面本部の公安委員会、道路規制活用の関係とか、交通量規制、こういった一連の関係する方々との整合性をどうするか、こういう問題が残ってございます。

それは、今、網走支庁長さんもお見えでございますが、環境庁の出先も交えて検討委員会を作りながら対応していく。
町側としては48年から環境庁から指定地域にされておりますけれども、奥知床をどうするか、知床五湖周辺に7月、8月の一時期には手余しするぐらい、幾ら駐車場を広げても満杯に張り出してしまうという状況、そして頻繁な交通事故、死亡事故につながるような事故も起きる。

したがってせっかく自然の中に溶け込もうと思って訪れた人々が逆に不信感、不満感を持って帰っていく。それをどううまくコントロールできるかは、適正な交通量の規制なり交通量の緩和なりの形をとっていかなければならないだろう。

今、質問のありました課題につきましては、マイカー規制という目標があってもそこへ行くまでの段階をどうクリアしていくか、これは支庁の方も非常に前向きに御理解いただいておりますので、今、そういう懇談会を作りながら、最終目標に向けて具体的な答えを斜里町が求めていく。

また要望にこたえていただくような努力を着実に重ねながら、何としても奥知床をしっかりとした形で守っていき、訪れた人々も気持ちよく協調できるような、協力してもらえるような体制を、あの知床自然センターを活用しながら、試行錯誤の繰り返しかもしれませんが、前向きに今後とも取り組んでいきたいということを申し上げ、まだ具体的には事務段階の協議がされている最中であるということを御理解いただきたいと思います。

木原
マイカー規制の話は、きょう午後の討論会で、実際にやっておられる中部国立公園の関係者の方からも報告があると思いますが、アメリカ、イギリスの国立公園などを見てみますと、やはりマイカー規制をかなりやっているんです。そして非常によく管理しております。アメリカの場合はほとんどが国有地で、規制もしやすいわけですけれども……。みんなが知恵を出し合ってやっているので、私は知床でこれが成功すれば、全国にこの及ぼす影響は大きいのではないかと思います。

大塚さんどうですか。きのう知床センターをごらんになったのですが、今後ああいうものを中心としての知床のあり方というのはどうあればいいか。ソフト面についてのお考えを伺いたいのですが。

大塚
そういうのは、きょうのシンポジウムを聞いて覚えようと思って来たのに、問われるとちょっと具合が悪いんですよ。
ただ私、今度のこの夢の地域の問題について一言感じるところがあるのですが、私も、現在買収して木を植えているところのまだ伐られる前の姿をかい間見た記憶があるわけです。

大きな木が生えていました。その土地を開拓者の方に開放されたのですけれども、お金になる木を切っている間は生活もできますけれども、切ってしまった後、さあこれを畑にして日常の生活の糧を得ようと言われますと、この風雪の厳しい地域において跡地を開墾して作物を作り、飢えをしのぐということは大変難しい問題であります。
この地に天然に生えている木を伐っても、その根は実に奥深く浸透していまして、これを普通の人間の力で抜くということはとても難しいことです。最近はいろいろな機械力もありますが、そのきっちり生えた根の後始末は、これまたひと仕事であります。もちろん小さく切って燃料にするということはあり得ましょうが、これ一つ片付けるだけでも大変なエネルギーを要するものであります。

あそこに送られた開拓者は、何も好き好んで行ったわけではない。日本人が戦争に負けて食うものがない、生きる道を知らないあの時に、その生きんための波のしわ寄せの最先端があそこに及んできたんだ。
そのしわ寄せしたものが、苦しさについに負けて離農したんだ。この後始末をするということは、彼らのしりぬぐいではないかという考えじゃなくて、日本人が本当に飢えをしのぐことにおける苦しさの頂点を味わわせた人なんだ、そのゆえに、あそこを復元するということは神に対する自然へのお詫びだというぐらいの気持ちを持って、あの復元には我々心から賛意を表し、努力したいと思うものであります。

この運動をこれから先どうするかという問題は、実に多岐にわたって、名回答を得ることは大変難しいことです。私より頭のいい先生がいっぱいいらっしゃるんだから、その先生方の話を聞いて、私は受け売りで帰って、こうなんだぞと偉そうに言いたいと思っておる段階であります。

木原
どうもありがとうございました。
多岐にわたってとおっしゃいましたけれども、いろいろな形の試みを展開していかなければならないわけであります。

先ほど大塚さんも自然教室のことをおっしゃいました。笠岡さんの方でもいろいろな子供たちの自然保護教室をやっておられるのですが、私、実は2週間ほど前、イギリスとスコットランドのナショナルトラストの本部を訪ねて、海岸線の保存の問題で調査してきたのですけれども、その時、今年の夏に知床の関西支部から二人の日本人の方がイギリスのナショナルトラストを訪ねられた。一人は子供さんで、もう一人は関西支部の女性の方です。

イギリスのナショナルトラストは95年の歴史がありますが、夏だけではなくていろいろな自然保護教育をやっているんです。私が見たものでは、歴史的な建物とかお城を保存していますが、そこで、そのお城であった事件をテーマにして脚本を作りまして、子供たちにお城でその人物になりきって芝居をさせるんです。それには専門の俳優も数人混ざっておりまして、専門のディレクターが教えながら、子供たちが喜々としてやっている。イギリスも、単に自然や歴史的環境を保全するだけではなくて、教育にも熱心なんだなと思ったわけです。

そのイギリスの自然保護教室に子供さんを派遣した関西支部の小田さんがきょう見えていらっしゃるので、突然なんですけれども、小田さんにどうして子供さんを派遣したのか。中学生ですか、よく派遣されたと思うのですが、どういう教育があったのか、ちょっとお話を伺いたいのですが、小田さんお願いします。

小田
関西支部で世話人をやっております小田でございます。先ほど笠岡さんの方からも話がありましたけれども、今から5、6年前の「ナショナルトラストを進める全国大会」の時に、イギリスのナショナルトラストからローレンス•リッチさんが来られたんです。その時に、イギリスで子供相手のキャンプを始めるよかやっているよという話を聞きまして、広く外国からも子供を集めますという話を耳にはさんでいたんです。

去年、「ナショナルトラストを進める全国の会」にレスリー・マックラケンさんという方がナショナルトラストの方から来られました。その方が京都に来られてお会いした時に、「はてあれはどうなっているんですか」という質問をしましたら、「そろそろ外国からも来てもらっていますよ。外国というのはアメリカとヨーロッパぐらいからちらほらと来ている」、「日本から行っていますか」と言うと、「来ていない」、「そしたら来年あたり一度お願いできますか」といったことから、「どうぞ」ということで始まりました。
ちょうどうちの子供が今年4月から高校1年生になりました。受験勉強も終わって一番のんびりするのが高一ですから、夏休みに行ってくるかということで行かせました。

参加資格が16歳から19歳までの一つのグループがあるんです。トラスト・キャンプと言うんです。それより上の方はエイコン・キャンプ。(どんぐりキャンプ)というのがありまして、大人たちが行くキャンプがあります。大人たちの方には、関西支部の世話人をやっておって、今短大の2年生で卒業間近の女の方が行きました。

出発は高校生のうちの子供と家内の二人で行きましたけれども、行った先のキャンプは二人別々のところでありました。

もう一人の方は森さんという女の方ですけれども、その方のお帰りになってからの話は私はまだ聞いていないのですけれども、うちの子供は、まあキャンプといってもやっていることは向こうのナショナルトラストで買収したお城なんかのドブ掃除のような肉体労働で、「余りおもろうなかったわ」と言っています。
言葉は「デイスイズアペン」ぐらいの英語力ですのでほとんどわかっていないと思うのですけれども、仕事中はともかく、仕事の後、大体タ方4時か5時ぐらいに1日の日程が終わって、それから次の日の朝九時ぐらいまではみんなで遊ぶ時間で、そっちが結構楽しかったと言っております。「来年もぜひ行きたい」、「ドブ掃除に行くんか」と言ったら、「いや、そのほかの方が楽しいから行きたい」と言っておりました。

まだイギリスの歴史的環境、その建物がどんなに重要なものかというようなことはさっぱりわからないし、読解力もないし、聞いても多分わかっていないと思いますけれども、まあそういうふうにして、だんだん年をとって自分がやってきたことがどんなことかということがわかった時に、ああよかったなあとその時思ってもいいなと思います。 

子供同士同じ年代ですから、しゃべれなくても結構行けるみたいです。アメリカからも数人来ていたようで、ほかの人たちはみんな英語でしゃべっているらしいですが、つまはじきされるということはなかったと言っています。言葉はわからなくても馬鹿にされることなく、むしろ学校より楽しかったと言っております。

木原
イギリスのナショナルトラストの方に聞きますと、やっぱりこういう自然保護教育は、学校と非常に連絡を取り合ってうまくやっているらしいです。
ですから知床の運動も各地のナショナルトラスト運動も、自然保護教育にますます力を入れていただければいいと思います。

どうでしょうか。将来イギリスやフランスやオーストラリアや世界各地でナショナルトラスト運動が展開されておりますから、そういうところの子供たちも知床に呼んで、日本の子供たちと一緒に鍛えるのもいいんじゃないでしょうか、いかがでしょうか午来さん、その点は。


午来
今、対応しているのは関東支部の100平方メートル運動に参加していらっしゃるお子さん方を対象にしてやっているわけですが、これには地元の子供たちも一緒に交えながら、友達の出会いを作ってやりたい。それから都会から来た人たちには、東京や学校ではできぬようなことを体験させてやれということを含めて、今まで続けているわけです。

できれば年間フルシーズン続けたいなと希望は大きく持ちながら、何らかの形ができないか。特にうちの町の小さな学校がどんどん子供がいなくて廃校も頭に置ななければならない。何とか残す方法がないかな。うちの町で人がいなければ、都会の親御さんで物好きな人がいて、斜里町に預けてもいいとするなら、農家の中に放り込んでやって、そこでやれないかなというのが1つ。

それから自然保護教室というものを、今は夏休みを利用してやっているわけですが、夏休みは1カ月ぐらいできないか。フルシーズン対応ができないか、こんなことを、今、内部的に相談している最中です。

何かおもしろいことを始めたいな。
斜里山麓なり知床国立公園地内にそういう場所がたくさんありますから、そういった環境を活用しながら、木登りが上手になったり、イワナ釣りが上手になってもいいじゃないか、こんな雰囲気の中からたくましいものを見つけ出していきたい。それは、ただ単に都会の子供だけじゃなくて、うちの子供たちも含めてそういったことが必要なんだろうと思っています。


木原
地元の子供たちと各地の子供たち、諸外国の子供たちとの交流ができればいいと思うのですが、笠岡さん、今までの話を伺ってもう一遍御意見を伺いたいのですが。


笹岡
子供の教育ということで、自然教育を進めていくということは非常に大事なことはわかっているのですけれども、かなりそれは時間のかかることであって、なかなか即効のものはない。

それで私の考えておりますことは、もっと地域に根づいてこういう100平方メートル運動または自然保護運動の動きを進めていきたいと思っているわけです。幸い、京都の法然院という古い、法然上人の道場だったお寺があるのですけれども、そこの和尚さんが1,000,000円ほどの金を出してシマフクロウのパネルをお作りになった。
それを去年、一昨年の伐採の時期に、今お話ししていただいた小田さんの病院とか、大阪の銀行のロビーを借りて展示して、こういうシマフクロウの住んでいる森の伐採は困りますとやった。そうすると、ああいうポピュラーなところですからたくさん人がお見えになって、そういうものに関心を持っていただける。

今年の春でしたか、大石義雄が閑居していたという京都、山科の大手スーパーの西友が、ナショナルトラスト展をやりたいと言ってきました。
伐採問題でいろいろなところと連帯がとれていますから、どこかから聞いてきて来たわけです。こちらもあわてまして、どういう規模ですかと言ったら、とにかく全国のナショナルトラストの展示をしてほしいというわけです。こっちもとてもそんな力がありませんから、それなら「日本自然保護協会」とか「ナショナルトラスト全国の会」、また斜里町に大変お世話になったのですけれども、100枚ほどのパネルを集めまして、西友というスーパーでやった。幸い、毎日新聞とかNHKなんかも取材に行ってくれまして、PRが効いたのか知りませんが、3,000人ぐらいの方がお見えでした。

その時にやはり、関西支部のキャンペーンをやりまして、100平方メートル運動のPRもじゃんじゃんやった。今のTシャツとかテレホンカードも売った。十日間ほどやったのですけれども、その中で20人ほどの運動参加者が出てくるわけです。そしてなおかつ、その後の斜里町からの報告を見ていますと、京都の方でその時期にすごく増えているわけです。やはりそういうのを見にいらっしゃってパンフレットを見て、じゃあ私も行きましょうということで、京都市でかなり増えた。

地域に入っていって細かくそういう活動をしていくことによって運動を広げる、100平方メートル運動だけじゃなくて、自然を守りましょうというナショナルトラスト運動にも寄与していくことができるんじゃないか。これからも、できたらそういうのをやりたいなと思っています。

西友の方は前向きに検討しているのですが、スペースの関係がありますし、こちらの体制も十日間、しかも平日もありますから、勤めている世話人もたくさんいらっしゃいますので、なかなか動員体制が整わないで困ったのですけれども、それでも何とか乗り切って、西友の方でも非常に喜んでくれたわけです。

地域に入ってきめ細かな運動をしていかなければ、なかなかこういう問題は理解していただけないと思っていますので、これからもそういうことを進めていきたいと思っています。

木原
どうもありがとうございました。今、ずっとお話を伺っていて、知床の運動というのは、知床だけではなくて、日本全国で展開されているということがおわかりになったと思います。こういううまい組織を作られた皆さん方の知恵、これは大したものだと思っているわけです。

そういう運動の中で、天神崎の運動との関係が非常にこの6年間大きく出てきたのですが、ここで現地から後藤伸さんがお見えになっていらっしゃいますので、ちょっとこちらへお座りいただき、天神崎の市民運動の現状報告と今後の課題などについて御報告をいただきたいと思います。



前へ 関東支部・関西支部からの報告

次へ