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しれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウム ⑮第三部 パネル討論その6 質疑応答

1988年に開催されたしれとこ100平方メートル運動10周年記念シンポジウムの内容を連載形式で掲載いたします。
当時のナショナルトラスト運動や環境問題への認識を共有できればという意図です。

なお、編集は当時の斜里町役場の部署「斜里町役場自治振興課」です。

内容は以下のとおりです。

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あいさつ 斜里町長 午来昌
祝辞
環境庁自然保護局長 山内豊德(報告書には全文掲載なし)
北海道知事 横路孝弘(報告書には全文掲載なし)
ナショナル・トラストを進める全国の会会長 藤谷豊

第一部経過報告と課題提起
千葉大学教授 木原啓吉
100平方メートル運動推進本部会長 午来昌
100平方メートル運動推進関東支部長 大塚豊
 100平方メートル運動推進関西支部世話人代表 笠岡英次

報告者による討論
天神崎の自然を大切にする会理事 後藤伸
ナショナルトラストをめぐる全国的な動き
会場からの質問応答

第二部基調講演
「国立公園に何が求められているか-保護と利用のあり方を考える-」
日本自然保護協会会長 沼田眞

第三部パネル討論
「国立公園の新たな保全と利用に向けて」
NHK解説委員 伊藤和明
自然トピアしれとこ管理財団事務局長 大瀬昇
中部山岳国立公園管理事務所保護課長 渡辺浩
野生動物情報センター代表 小川巌
日本自然保護協会参事 木内正敏
北海道「味と旅」編集長 山本陽子
会場からの質疑応答・総括討議

閉会にあたって 100平方メートル運動推進本部副会長 炭野信雄

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第三部 パネル討論
「国立公園の新たな保全と利用に向けて」

伊藤
それでは再開したいと思います。
講壇には斜里町長の午来さんにもお座りいただきました。皆さんからの御質問も集まっておりますので、また町長さんにもお答えいただくことが生じると思います。

前半、各パネラーの方からお話がございました。その中で、例えば国立公園利用者の質の変化の問題であるとか、国立公園の管理の問題、事業形態の問題などいろいろ出てまいりました。

最初にちょっとお聞きしたいと思いますが、「自然トピア計画」というのはどうも舌をかみそうで、余り私は賛成するネーミングではないんです。
これは財団法人として決まってしまったのでしようがないのですけれども、パンの間にさしみをはさんだような感じがするんです。このネーミングというのはどんなところから決めたのですか。見ればわかるのですけれども、あえて知床とか何とか名前をつけなかったのは……。


大瀬
参加者の方からも、今年の6月に「知床通信」で「自然トピア知床管理財団」を設立したいんですと出しましたら、その名前は参加者に諮ったのかと言われました。
もともとは、町の公園をどうしようかという計画のネーミングでした。
そのネーミングが、初めは「知床国立公園幌別園地計画」と全部漢字の名前だったんです。そういう計画でこれから事業を進めますと、いかにも役所が進める感じをもろに出す名前なんです。

そうではなしに、何か象徴するような名前がないかなということでした。これにはいろいろな事業整備計画も入っております。
町長を脇に置いて言うのは何ですが、自治体というのは金のないところですから、いろいろな制度に乗る時に国とか道に計画を示すんです。

そういう時に「グリーン8計画」といった計画名で、はやりが〇〇トピア計画だったんです。それで、はやりに乗ったというわけじゃないのですけれども、漢字ばかりの役所らしくない名前、何か計画として通りのいい名前、そして目指すところは自然と人間の理想的な触れ合いの場、調和の場という意味でトピアというぐらいならいいかなと思ってつけたわけです。

伊藤
最初は異な感じがしても、だんだんネーミングというのは定着していきますので、自然にそうなっていくかもしれません。

それはともかくとしまして、パネラーの皆さんのお話の中でいろいろ出てきましたけれども、最初の渡辺さんのお話で、マイカー規制の問題では上高地の例を大変詳しく御紹介いただいたわけですが、町長、お聞きになっていらっしゃって、この地に大変いい示唆が与えられた部分があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

午来
とっても参考になりました。ただ、上高地という大収容地があってその手前で規制をしていく、知床は奥地にユースホステルが1軒と、「地の果て」というホテルが1軒、山小屋が1軒あるだけで、あとは知床五湖、カムイワッカとまさに自然との出会いを求めて大勢押しかけてくる地域だ、その地域の差はあると思うんです。しかし地域の差があっても、やり方、手段としてはお話しされたようなことを十分参考にしながら、具体的にこれから進めていきたい。

関係する業界の方々はもちろんですけれども、一般の皆さんの御意見も十分徴しながら、基本的な理解を得た中で具体的に事を進めていかなければならないなということを、聞いていてしみじみ考えておりました。

伊藤
上高地も知床五湖も、デッドエンドという点で非常によく似ている状況にあると思うんです。渡辺さん、中部山岳地帯では上高地以外でもマイカー規制をやっている立山のようなところがあるわけですね、ちょっと簡単に御報告いただけますか。

渡辺
上高地以外で、中部山岳管内でマイカー規制としてやっておりますのは、富山県立山の室堂までの有料道路と、中部山岳の1番南にあります乗鞍岳です。
これは上高地のやり方とちょっと違っておりまして、両方とも有料道路です。立山の方は道路交通法第4条の規定で同じような形でやっておりますけれども、乗鞍岳の方は夜の時間を管理するという形で、道路管理者側で交通規制をしているという状況です。

伊藤
また後でマイカーの問題も出てくると思いますが、できるだけパネラーがお互いに話がはずんでいけばいいと思っておりますので、よろしくお願いします。
この後の議論のきっかけもいろいろ作りたいのですが、山本さんが最後におっしゃいました日本人の画一的な観光のあり方、これはいわば国立公園内の環境教育、自然教育の問題とも大変かかわっているのじゃないかと思います。
確かに外国に行きますと、国立公園の中を歩いている人たちはメモをちゃんと持って、自分たちが見たものを記録したりしているんです。
ガイドさんが持っている旗にくっついてぞろぞろ行く風景は、外国の国立公園ではまず見られない。そうやって自然とうまい具合につき合い、触れ合っているんじゃないか。
国立公園でなくても、普段ああいう人たちが本当に自然とうまくつき合っているなと驚いたのは、ロンドンにハイドパークとか幾つも公園がございます。
ある公園に入った時に、みんなそこに来ている観光客たちが池にかかっている橋の上で、欄干から手を出しているんです。
何をやっているんだろうと思ったら、手にパン屑を乗せて手を伸ばすとスズメが取りに来る。スズメがヒュッと飛んできてチュッとつまんで持って行くんです。それをみんな楽しんでいる。スズメという小さな自然と直接触れ合っているんです。
日本のスズメはそんなことをやったら焼鳥にされちゃうものだから絶対やってくれない。ああいう姿を見て、大変僕は感動したわけです。これは国立公園の中での観光のあり方、利用の仕方とも非常にかかわっている問題だと思うのですけれども、木内さんいかがですか。

木内
先ほど申し上げましたけれども、大分日本の利用者の人も変わってきたと思います。小川さんも、先ほど4、500回そういうツアー的なことをやられたとおっしゃっていましたけれども、環境庁もこのごろは各国立公園でボランティアレンジャーの養成をしだしていますし、私どもの自然保護協会でもそういうボランティアの人の派遣をしたりしています。そういう人たちが、ちょっと前は無理やりこちらから話をしかけて、きっかけ作りがすごく大変だった時期がありましたけれども、このごろはボランティアの人たちがそこにいるだけで聞いてきたりという形で、だんだん変わってきたなと実感します。

伊藤
高尾山のビジターセンターで実際に解説をやっていらっしゃって、ああいうところは施設ができ、木内さんたちのような優秀な解説者が入ったために、それによって訪れる人の質が変化してきていると考えていいんでしょうか、それとも全体にレベルが向上してきていると見ますか。

木内
はっきり言って後の方だと思います。全国にかなりのビジターセンターがあります。しかし展示だけで人がいないところが多いので、人を置いたらどうですかと我々が行政側に働きかけて、置いてもらうタイミングと合ってきています。一般の人たちのニーズが高まってきたなということを、逆に行政の方も受けとめてくれています。

小川
今のお話のまさに続きになるのですけれども、ここは国立公園ですけれども、全国に9カ所国営公園があるのを御存じですか。
札幌市南区の滝野というところに、北海道に1カ所の国営公園があるんです。国立公園は環境庁の所管ですけれども、国営公園は建設省の所管なんです。聞くところによりますと、田中角栄の申し子だそうです。
北海道にできて10年ぐらいたつんです。自然の質から見てもすばらしいとか第一級だというところじゃないんです。
行ってみると雑木林というのか、2次林ですね、そういうところを400ヘクタールぐらい確保したのですけれども、お客さんが来てくれるかどうか心配だ。それには呼び込み方がちょっと工夫がいるというので、ジンギスカンコーナーのでっかいのを作った。川が流れていますから、そこで子供たちが水浴びができる。
途中いろいろあるわけですけれども、10年たってみますと、「滝野スズラン丘陵公園」というのが正式名称ですけれども、むしろ「ジンギスカン公園」と言った方がいいぐらい、おじさんたちがみんなジンギスカンをやりに行くんです。
そこの職員は、初めはお客さんで来てくれるのかどうか心配だったのですけれども、今度来てくれるのはいいけれども秋の連休なんかにぶつかりますと、2,30,000人来るんです。
そういう人たちの大部分がジンギスカンをやって帰る。それだったら何のためにこんなところで金をかけてやるのかと言うんです。
それで去年あたりから、私たちとどうやったらいいかということでやったんです。その辺、木内さんともお話をしたのですけれども、木内さんの方は高尾で2,500,000人とおっしゃいましたが、滝野の場合は1%でいいと言うんです。ですから2,30,000人来れば2,300の人にとりあえずそこの自然の楽しさ、面白さを伝えることをやってくれということで、本当に試行錯誤です。要するにすすき野の客引きと同じで、ああいうセンスを持っていないとなかなかできないです。きょうはジンギスカンをやりに来たんだと行ってさっと行っちゃうような人を、どうやって呼び止めるかというところから始めなければならなかったんです。

やってみますと、結構そういうのに乗ってくれる人が出てきました。これは日本人の性格かもしれませんけれども、面白いもので1組そういうのがいると何だ何だと集まってくるんです。それならサクラを用意すればいいだろうというので、めどもついたんです。

そうしますと、1%でいいと言っていたのが欲が出てきて数%になってきまして、そのうち10%ぐらい何とかしてくれみたいな話になってきました。とても何千人なんて我々1日で対応できないのですけれども、そうは言っても、そういうことに対応するノウハウは私たちも作っていかなければならないだろう思います。

知床にそっくりそのままそのことはあてはまりませんけれども、基本は同じだと思うんです。大多数の人は知床の本当の自然のよさがわかって来ているというよりも、ごく一般の人が、何かあるんじゃないかと来るわけですから、そういう人をどうやって引き止めるかです。

さっき私も、地元の人にそういう役割を担ってもらったらいいじゃないかと言いました。
ここは、御存じだと思いますけれども、船の上からヒグマとかエゾシカとかの野生動物を見せたりといったこともかなり博物館が中心になってやっております。
それから夜牧草地に行って、自動車のライトやサーチライトで照らしてエゾシカを目の前で見るとか、動物をいかに見るかということをかなりやっているわけです。これはほかのところでもやろうと思えばできないことではない。冬の流氷の上にいるワシですとかオットセイとかね、そういうことができる場所なんです。それも僕は知床ならではの1つにつけ加えられるんじゃないかと思います。

つい1週間ぐらい前にタイに行ったんです。タイの国立公園で1番古いカウアイというのがあるのです。日本では全然情報が入らないんですが、行ってみたら、日本では林野庁に当たるんでしょうけれども、そこの職員が1つの国立公園に100人いるんです。環境庁の方が隣にいるのに失礼かもしれませんけれども、知床にはわずか1人しかいません。我々が知らないだけで、アジアの国でもそういうことをやっている。夜はトラックの上に人を乗せまして、ライトで照らして動物を見せて歩いています。そういうことをやっております。そういうタイプのものを知床でもやっているということをもっと大事にすれば、面白いやり方が可能だと思います。

山本
今滝野のスズラン公園で、ジンギスカンから先の自然まで触れさせるのにどうするか、それは私はとりもなおさず色だと思うんです。いろいろな自然をベースにした環境のところに行くと、まるっきり手がついていないということはない。必ず遊歩道があったり、そこに施設が建っていたり、利用しやすいようにある程度整備をしている。だけれども、その色のつけ方が華美というか派手というか、自然の中に溶け込んでいないケースが非常にあるんです。建物を建てたりする人は、自分が建てたということで、どうしても自己主張しちゃう。
それで、自然に溶け込ませるのではなくて自然と張り合うケースがあるんです。そうすると、そこまで手間暇かけなくても来られると、そこで時間を過ごす。それからもういいよと言うんです。
逆なんです。そこが入り口で、そこから先に行くのに、自然の雰囲気作りが非常に見落とされている。どういう形の色づかいをしているか、それが無意識のうちに誘導してくれることが非常にあると思うんです。

例えば色の中で唾液を1番分泌する色は何か、オレンジなんです。そうすると、おいしく食べさせる時にオレンジ色をどういうところに配置して使うかとか、そういうことは意外と横に置かれているんじゃないかという感じが非常にしています。

伊藤
色彩論ですね。
今、小川さんがカウアイナショナルパークの話をなさったのですが、私もカウアイに今から17、8年前に行ったんです。その時はインドの国立公園に行って、タイランドに行ってカウアイへ行ったのです。国立公園の管理のあり方が、日本とは全然違う。むしろ途上国の方がはるかに優れていると10数年前に思ったんです。

カウアイ国立公園は入る道が1つしかなく、これもいわばデッドエンドになっているわけです。まず国立公園の入りロにレンジャーがたまっている検問所があって、ちょうど踏み切りのようになっているわけです。車がそこへ来ますと、必ず全部トランクを開けさせまして、鉄砲を持っていたりしないか調べて、それから入るわけです。
もちろん公園の中には宿泊施設もあります。レストランもあります。これは全部国営のものです。そこで数日過ごして僕らは出てきたわけですが、出てくる時も同じチェックポイントでもう一度トランクを開けさせまして、公園の中のものを持ち出していないか全部調べるんです。それほどきちんと管理をしている。これは日本ではちょっと無理だと思います。

カウアイのレンジャーがその後日本を訪ねてきたことがあるんです。私は、日本のナショナルパークを見たいと言うから、困ったなと思いながら、箱根が1番手近だから箱根へ連れて行きまして、乙女峠の上から箱根を見たんです。そこから見ると仙石原の風景がよく見えるんだけれども、ホテルが建っている、ゴルフ場がある、変な格好をした船が芦ノ湖に浮かんでいる。
それを見た時に、彼が私に何と言ったか。「ここは国有地じゃないのか」。その一言にすべてあらわされていると思うのですけれども、僕は大変恥ずかしい思いをしました。

国立公園の管理のあり方で、日本の国立公園は50数年の歴史を持っているわけですけれども、日本の国立公園は保養地としてスタートしたのが最初で、厚生省の所管になっていたわけです、今は環境庁ですけれども。そういう点で、何か日本の国立公園とナショナルパークは違うんじゃないかという気がするのですが、どうですか木内さん。

木内
1番最初に話したように、環境庁の土地ではないということが1番問題ではある。
ただ、イギリスは日本の制度と割合同じで、違う人のところで指定しています。イギリスの連中が来てお話ししたことがありますけれども、イギリスの場合は、ナショナルトラストの制度が発達していますから、そんなに国立公園の制度は整っていませんけれども、日本みたいな土地の高い国で、上からただ網をかぶせるだけで、はっきり言ってよくこれだけ守れているなというのは、ある意味では実感です。

ただ先ほども言ったように、本当にこれからどうするんだと考えますと、例えば、今、林野庁は大きな赤字を抱えて採算の悪い山をいっぱい持っていますし、人を減らすという話もあります。
そういう時に、そういう山を国立公園なんかに指定している部分が多いから、所管替えをするとか、思いきって土地のありようを変えていくような形で、きちんと管理できる体制に少しずつもっていかないと、どうにもならないことをみんなに文句を言われているというのが今の実態なわけです。

伊藤
昨年、釧路国立公園が28番目の国立公園としてスタートしたわけです。
これが最後だろうと言われておるんですけれども、私があのスタートの時に大変評価をしたのは、北海道内の国立公園の管理事務所はそれまで阿寒に1つしかなかったのを、今度は釧路湿原のための管理事務所を置いて、そこに複数のレンジャーを一応置かれるということで、環境庁もこれは本腰をお入れになっているなということで大変評価しました。
これが最初で最後の国立公園だと放送しましたら、随分皮肉を言うねと環境庁の人に言われたんですね。
それはともかく、その後の状況を見てみると、あの釧路湿原の自然というのは実に繊細で壊れやすいことがありまして、真ん中の部分の6,500ヘクタールは特別保護地区に指定した。
ところが周辺部分については、もちろん特別保護地区にもなっておりませんし、さらに国立公園の外側の部分も含めますと、どんどん国立公園になったということで土地の買い占めが進んだり、細切れの土地の開発が進み始めている。そうなりますと、水は上から下へ流れますから、周辺部の開発が進むとみんなそこの部分の汚染、例えば富栄養化の問題も発生するだろうし、これがみんな湿原へ流れ込んでしまって、結局湿原のど真ん中だけちゃんと特別保護地区として保全しようとしても、周辺部のそういう状況を野放しにしておくのでは、自然をトータルとして保全したことにならないんじゃないかと思うのです。そのあたりの問題、どなたか御発言ございませんか。渡辺さんいかがですか。

渡辺
今の問題に直接の答えにならないかもしれませんが、先ほど外国の公園の管理の例が出ました。日本の公園と英国では全く制度が異なるものですから、比較すること自体に無理があると思うのですけれども、日本の国立公園の管理が捨てたものではないといいますか、知床にたった1人の人間で、これで何もできなければ何のためにということで我々の存在自身が否定されてしまうわけです。民有地の多い公園、人手が少ない管理の仕方でもまがりなりに日本の国立公園制度を守ってきてはおるわけです。

地元の方、関係行政機関の調整の中で我々が位置づけられている、この行政的な技量も、かなり評価されていいんじゃないだろうかと考えています。
外国の例が先ほど出ましたけれども、やはり外国でも、日本の公園管理技術も応用できるところがあるんじゃないかということで、今、検討もされておるように聞いております。

例えば国立公園にしたために、そこに住んでいる住民を全部鉄砲か警察権力で外へ出して、そこで国立公園にしました、厳重に国としての管理をします。それはそれでまたいいんでしょうけれども、出された人、今までそこに生活をしていた人たちをどう救済していくか、そちらの面に今まで日本がやってきた地域性の公園の管理技術なんかが応用できるんじゃないだろうかという話も聞いております。

そういったことで、我々非常に数少ないスタッフで日本の公園行政をやっておりますけれども、何もかもすべて環境庁でできるわけではありません。地元の皆様方、あるいは関係行政機関との調整の中で、一歩一歩道を固めてきたわけです。今後ともなかなか厳しい道が続くと思いますけれども、一生懸命やっているわけです。

伊藤
国立公園内のゾーニングの問題が沼田先生の基調講演の中にもあったわけですけれども、例えばこの知床国立公園を見ますと、特別保護地区というのはほとんどハイマツ帯と岩石である。これは考えてみれば、林野庁にとってはちっともおいしくないから特別保護地区になっているんだと私には見られるわけです。それで、1番豊かな森林があって、みんなが原生的で守ってほしいというところが第3種になったりする。そういう地区指定の問題は、パネラーの皆さんの中でどなたか御発言ございませんか。

木内
おっしゃるとおりです。本来放っておいても守れそうなものが特保になっていたりということはよくあります。
それは知床だけではなくて、日本のほかの国立公園でも同じような状況があります。特に、指定する時に林野庁と関連する通産省、建設省あたりと協議をしていくわけですけれども、その時に環境庁の方で、あるいは地元の県の方で、ここはちょっと厳しい指定をしたいということがあった場合に、相手側がそれは困るということだと、そこで妥協していかなければいけないのが今の実態です。
ですから、今一生懸命環境庁の方は努力されているわけですし、自然公園法はそんなに強権な法律ではないのですけれども、地域指定をしていく時は、もうちょっと生態学的な見地で、ここはきちんと手つかずの場所としてどうしても指定をしたいんだ、その周りはバッファで多少施業をしてもいいんじないか。もう少し外では人間活動があってもいいんじゃないか 。
沼田先生の話の中にマブという話がありますけれども、そういう、できるだけ自然の生態に沿った形での見直しを、環境庁は頑張ってやってもらいたいなと思います。

渡辺
決して林業との調整だけがゾーニングの問題じゃありませんで、私たち自身、その場所場所の生態的な意味も含めまして、もちろん景観というちょっと別の方向もありますけれども、そういったことで一生懸命公園の点検等に頑張っておる。ただたまたま言葉として出てくる中に、ゾーニングに林業との調整の際の数字が出てきてしまうために、ただ単に林業との調整だけがゾーニングであるような印象を受けやすいと思いますけれども、決してそのようなことなしに、できる限り生態系保全にも配慮して、景観にも配慮して見直しに当たっております。

伊藤
ありがとうございました。
それでは会場からの御質問が来ておりますので、それを中心にまた話し合いを進めていきたいと思います。
「知床原住民の集い」の代表、本田剛嗣さん。マイカー規制は「自然トピア計画」の前提か否か。知床五湖の売店は縮小もしくは廃止するのか否か。センターの経営、マイカー規制について地元との話し合いが不十分で、現在コンセンサスがあるとは思えない。足もとの整理をしてほしいという御意見、質問なんですが、どうですか。

大瀬
「自然トピア計画」、マイカー規制が前提かどうかということですけれども、マイカー規制自体は先ほど上高地も49年の国の適正化要綱に基づいて、それ以来進めているわけですけれども、その時に、既に知床でも全国6地区の指定地に入っていたんです。この後公園対策を、知床でどう進めるかという際に、そういったもろもろの計画も承知した上で、将来これが導入されるのではないだろうかというものも取り込んで考えなければならない。前提ということになるかどうかわかりませんけれども、この先、利用者を受け入れるのに考えておかなければならない大事な柱として、そういう意味で計画の前提として配置をしてある。計画の基本に据えてあるということです。
ただ「自然トピア計画」自体は町の計画ですけれども、このスタートは理念ですから、国がやる、道がやる、斜里町がやるという分野の問題でなく、私どもが知床をどう考えるかという際に計画の前提にしておかなければならない。そういう意味で地域指定されていますから、計画の前提の中にそれを据えているということです。

この先どうやっていくかという問題ですけれども、斜里町が立てた計画の中に盛り込まれているから斜里町がマイカー規制するという権限がないんです。
道路法となればその道路を持っている人ですし、道路交通法となれば公安委員会です。ただ、利用者に快適な公園利用のためにやってほしい、そのためにこういう条件作りをしていきますよということは、斜里町はこの計画に基づいてやっていきます。
ですから利用者対策をやってほしいということで、この先のことですけれども、道路管理者とか環境庁、斜里町などの関係者が話し合いのテーブルにつく段階に至ったという状況です。

既に上高地の方では協議会から実施に移って、さらに収容力は本当にこれでいいんだろうかという次の段階までいっていますけれども、知床では、同じ要綱の中で指定された6カ所のうち、1番最後まで残ったところです。
ようやっと協議のテーブルについた段階にあります。「自然トピア計画」の前提としているということで、御理解いただきたいと思います。

それから五湖の売店の縮小問題ですけれども、これまた奥地の施設をどうするかということも「自然トピア計画」の大きな問題なんです。
入り口対策を進めますということで、つい先日完成した知床自然センター、入り口施設が完成したわけです。それが完成したからということで、完成と引き換えだということで直ちに五湖の売店を廃止するのは、はっきり言いまして困難です。
といいますのは、両方とも町の施設なんですけれども、モチはモチ屋で役所の経営じゃなしに、地域民間の人主体になって経営していただきたいという考え方なんです。
それが、こっちの施設はだれに経営させて、こっちはだれにという別個の経営については考えません。といいますのは、お互い商売ですから足を引っ張りもしますし、客引きもあります。将来奥の方を縮小させる意味でも一体経営の方がよかろうということで、1つの形態にしています。

五湖の将来ですけれども、新たにできたホロベツの施設の経営状況を見据えた上で、基本的には縮小する。何よりも大事なのは、五湖の自然観察です。

あの園路の利用に合ったような施設にしていきたい。できるならば、食堂部門については縮小していく。
売店についてもイメージに合ったものにしていく。そういうことは町の施設ですから当然していきたいと思います。ただ、一挙にということでなく、新たにできた施設の経営状況も踏まえて、その対策を考えていきたいと考えています。


午来
本田君も岩尾別で生まれ、ユースホステル経営を長年やってこられた。
又、地元の自然保護協会の理事も務められている。ですから、今の課題については、いろいろな場でご説明し、論議されてきたことをご存知の事と思います。
これから進めていく中では試行錯誤もあるでしょう。斜里町民16,000人には、それぞれの考えもあり、全員が賛成している形にはなっていないことも承知しています。
しかし皆さんを代表する町議会議員、又各界を代表される方、そして知床自然保護協会の統一したご意見も徴しながら、第一歩を踏みだしたところです。
そういうご理解で、今後ご指導やご協力を頂戴したいと思います。

本田
去年私たちはアンケートをとりました。対象としては、宇登呂地区で店舗施設などを持って商工業をしている57軒、回収率は50%をちょっと下回りました。
センターについては、宇登呂の経済に悪い影響を与えるだろうと心配している人が非常に多かったです。そしてセンターを宇登呂に作ってくれたらいいなという人が非常に多かった。
それから宇登呂に作ったら経済的にどうなるか。よくなるだろうという人が多かった。
マイカー規制についても同じようにアンケートをとりました。知っていましたかということについては、知らなかった人は34%。何となく知っていた人46%。よく知っていた人が19%。
マイカー規制は、宇登呂の経済にとのような影響を与えるでしょうか。よい影響を与えるが15.4%。悪い影響を与えるだろうと答えた人50%。わからない34.6%。
マイカー規制については賛成ですか反対ですか。賛成は19.2%。反対65.4%。回答なしが15.4%です。
去年、町にも私たちはこの資料を渡したんです。そして何回か話もしてきた。このことは、道新とかほかの新聞にも何回も取り上げられました。その時の町の回答を調べてみますと、「この計画は15年来の遠大な計画で、マイカー規制をして、センターより奥の知床五湖、カムイワッカ方面へはマイカーの乗り入れを禁止して、シャトルバス乗りかえ方式にする。これによって自然破壊と俗化を防ぐ。知床林道の拡幅舗装工事をさせないことで、さらに自然破壊を防げる。このセンターはホロベツ地区に必要だし、大規模駐車場もだから必要なんだ」と新聞に書いてありました。

マイカー規制が必要だということは今の説明で十分かなとは思いますけれども、マイカー規制について、15年来の計画なのにまだ見通しが立っていないというのは、余りにも遠過ぎる。私たちはマイカー規制の見通しが立つまでは建てないでくれと去年お願いしていたんです。ところが、マイカー規制ができなくても建てた。まだ見通しが立っていない。15年は一体どうなってしまったのか。

それから、あそこのセンターの前に大駐車場を木を伐って作らなければいけないと思うんです。これは、マイカー規制の見通しが立つまでは伐らないでほしいと、今お願いしたい。

それからレストランと売店の経営についても、私は地域の人間として非常に疑問を持っています。現在、宇登呂地区が知床の玄関口の商業地区としての性格が確立されている。これは斜里町が100平方メートル運動によって形成したところが大きい。このような経過から見て、公園内の国有地や町有地は利益追求の商業用地とすべきではないはずである。

特に経営については、宇登呂地区の経済に打撃を与えることが懸念されるので、経営は宇登呂地区に任せると町は去年から言ってきました。
しかしそれがいつの間にか、何人かの準備委員が町と話し合い、株式会社を創立し、発行株式総数の3分の2を自分たちで押さえ、残りの分を商工会宇登呂部会の会員に割り当てました。
町の金を5億、6億使ってできた施設が弱者を苦しめて、その打撃を受けるであろう人たちは結局ここでも弱肉強食のような形でいいところにはつけなかった、これが現実だと私は思います。

この使用料も問題です。
1番最初に出た計画書では、レストラン、売店の使用料は20,000,000万円、寄付は30,000,000万円、合計50,000,000万円町に入ることになっていたはずなんです。
何のためにこれだけの経営行為をするのか。これについては町費負担にならないような自主独立した運営をするために必要な財源なんだ。ところがいつの間にか使用料が17,000,000円になった。残りの30,000,000円はどこでどう負担されるようになるのか。

この会社なんですけれども、公社ではなくて民間の株式会社なんです。
その株式会社の従業員の給料以外、社長以下役員の報酬が30,000,000円近くです。私は資料をここに持ってきています。こういうしわ寄せが一体どこにどういうふうにいくのか。何でこういう会社が100平方メートル運動地域内のセンターに入れるのか、その辺にも疑問を感じます。

そして、100平方メートル運動対象地内に民間の株式会社が営業として入れるようになったということは、100平方メートル運動に土地を提供した岩尾別、ホロベツの元地主にとっては大変ショックであり、その神経を逆撫でされるものである。これは、私もあそこに生まれて育ちましたので非常に強く感じます。

伊藤
時間がありますので、そのくらいにして、一言回答を……。

大瀬
たくさんの質問ですから一言では済まないのですけれども、センターの建設位置は、かねてから公園内には反対であった、宇登呂地区に建てるべきであった、アンケートにもそういうふうに出ていますよということですけれども、公園対策事業とは別に、宇登呂地区の振興とか一般観光客の基地としての宇登呂対策として考えなければならない問題であると思います。公園施設として、公園に入っていかに教化活動をやるかと考えた際に、ちょうど横断道路の羅臼に抜けるところと五湖に向かう位置関係にあり、利用者の利用調整をする位置関係にあったものですから、あの位置に考えざるを得なかった。
単に売店を作る、レストランを作るだけじゃなしに、将来的なコントロールの仕方も考えると、あの位置にせざるを得なかったわけです。

それから規制の問題ですけれども、15年かかってできない。実際そのとおりなんです。斜里町の計画の背景の中に入れているのですけれども、斜里町の道路で、斜里町が道路交通法を握っているならすぐにでも、そんな法律をかざしてということにはならないと思うんです。
そういう意味で、斜里町から地元の方々への話の中でも、やるとしても五年ぐらいで段階を追ってやっていきたい。やる際には協議をしてやっていきますよ、それが斜里町の方針です。
その方針をもって道路管理者とか警察と打ち合わせを進めていきたい。その打ち合わせの第1段階までようやく達しました。実際そういうところなものですから、御理解いただきたい。後退じゃなしにそういう方向に向かいつつあるということで報告させていただきたいと思います。

それから大規模駐車場を考えているということですけれども、マイカー規制の見通しが立たないのにマイカー規制をやるのかということですけれども、全体として考えているのは七千です。

一気にそんなものは、それこそマイカー規制ができもしないのにやるのかと言われればそのとおりなんです。ただ、規制はもちろんやる方向で進めなければならないのですけれども、規制をするからしないからということでなしに、そこに滞留させるだけでもある程度のものが必要です。知床五湖の駐車場は今3,300あるんです。ホロベツに作った駐車場は今2,500です。あそこで滞留させて、いい時には五湖に行ってもらいましょうという調整をするためだけでも、あの倍くらいの規模は必要だと思います。数字の妥当性の問題はありますから、それこそ決まっているんだから木を伐るという形じゃなしに、作る形についても、例えば木を配置して林間駐車場にするといったことについて配慮していきたいと考えています。

それから売店の問題は、公社でなく株式会社である。
公社と名前がついても株式会社というのもあるわけです。
宇登呂地区でちゃんとスムーズにいったのかどうかという問題だろうと思うんです。
商売の問題ですから、町としましては1番最初に、ストレートに住民じゃなしに、斜里町で商売関係というと窓口は商工会ですから、商工会の方にまず相談しました。
そしたら、斜里町全体というよりも地元の人が影響を受けるんだから、地元の商売関係の人たちに相談しなさいということでした。
そういうことで、商工会の宇登呂支部の方々との協議に入り、あのような状態になったわけです。宇登呂地区の人が、会社組織なものですからある程度出資をしなければならないということで、出資できない方については参画できないことがあったかもしれません。ただ、町が協議を進めて地元の人に任せる経過になったのは、単独に地元有力者と話して任せるということじゃなしに、商工会を通じてなったわけです。ただ株の集め方なんかまでは、組織の問題ですので、実際町の指導がどこまで行き届いたかはありますけれども、経過としてはそういうことです。

役員の給料がべらぼうに高くなっているということですが、まだ今スタートしたばかりです。初めから赤字の予算で会社経営の見通しを立てるわけにいきませんから、ある程度もうかることが前提で予算を作っているということですが、結果としてはまだわからない。仮に経営がうまくいかなくなって赤字になったら、責任をとらなければならないのは経営者です。そういうことで予算上見通しとして役員給与を定めているということで把握しております。

それから使用料のことですけれども、売店の使用料が初めは高かったのにいつの間にか安くなっちゃった。それらは町の財政負担にならないのかということですけれども、これは、経営見通しがつかない中で、やってみなければわからない要素がたくさんあります。その中で初めから条例上でこの額をいただきますよと言ったら、その額をもらわなくてはならないんです。そうじゃなしに、経営の状況に応じてある程度減免できるような措置を設けたことは事実です。ただ、町がそれを補塡するという形での減免の仕方ではなしに、借り受け資金の制度を長期のものに切り替えたために、単年度使用料が安くなったという経過であります。

伊藤
次の質問に参ります。明治学院大学の大川英子さん。

質問が4つ来ておりますけれども、時間もありませんので、3番目の質問はさっきの話し合いの中に出てきました。1の質問は林野関係の方がいらっしゃらないので後で私がお答えします。◎になっている2番目の質問だけ取り上げさせていただきます。

「前回の伐採の時は、地元斜里町が反対すれば、林野庁も強硬伐採はできないと言っていましたが、行政上地元自治体の力というのはどういう位置にあるのですか。その仕組みを教えてください」ということです。今後も伐採の声が上がらぬわけでもないと思いますので、町長の方からお願いします。

午来
地方自治体というのは法律によって動くわけです。
ですからあの伐採も法的には何ら問題がないと我々も理解しておりました。
しかし道義的に、みんなで金を集め合ったそのすぐ隣だ、これはちょっと待ってくれや、そういうことではどうなんだろうか。だから伐る伐らないよりは、なぜなんだという疑問をお互いに解明する時間が欲しかった。

別に過激にお互いけんかするんじゃなくて、山で働く人たちの立場、守ろうとする者の立場、それからその地域が斜里町にとってどんな位置づけか、北海道にとって、日本にとってどんな意味があるのか、こんなことまでじっくりと話し合っていくことが大事なんだ、そういう思いでみんな考えていたでしょう。

不幸にしてああいう結果になりましたけれども、しかし林野庁、営林署側から言うと、独立採算制の重みの中で木を伐らなければ給料も払えない。この仕組みを、これからの国有林を作るとすれば、みんなが金を出し合う仕組みに変えていかなければならない。要するに、一般会計でそういったものをどう解決していけるのか。これはただ単に私たち一人一人が物を言えばいいというものではないかもしれない。それですぐ解決できるものでないことも承知しています。しかしみんなでそういう声を挙げながら、山の大自然で働く人々に生活の不安を与えない中で、これからの国有林経営や森林をつくる、そういう意味合いを問いかけた課題であっただろうと思います。
ですから私は、幾ら斜里町長がいいの悪いのと言っても、やはり法律という壁を乗り越えてまでできない要素もたくさんございます。それは世論といいますか、道義的な解釈の中でじっくり落ち着いて解決していくという姿勢さえあれば、夢をどう実現させていくかという気持ちで対応すれば、余り目くじら立てなくても解決の方向に向けていけるだろう。そういう思いだけはこれからも強く持っていきたい。ただ、1つの法体系の中で動かざるを得ない地方自治体の仕組みもあるということを御理解願えれば幸いだと思います。

伊藤
次の方、斜里町宇登呂の知床自然保護協会会員の桂田歓二さん。これも質問が6つあるのですけれども、とても全部は取り上げられません。1番最初に、天神崎では運動事務費をどのように基金から支出しているのかという質問ですけれども、天神崎の例をお話しいただけますか。

後藤
お答えいたします。過去10年間の事務費は全部私たちみんなで持ち出しです。詳しく調べていませんけれども、200,000、300,000はみんな持ち出しで、多いのは1,000,000ぐらい出したんじゃないかと思います。
財団法人が出来上がって体制が整ってからは、最低限の費用は会で出していますし、今はそれほど私たち自身も経済的な負担はなくなっています。

伊藤
桂田さん、あと質問が5つもあるのですが、これはいずれも大きい問題です。全部取り上げたら日が暮れてしまうので、1つだけに絞って御質問いただけませんか。

桂田
先ほど藤谷さんのあいさつを聞いて、僕もアッと思ったんですけれども、「知床で夢を買いませんか」というパンフレットに「利用」という言葉は書いていないんです。僕が読んでも利用という言葉が出てこないんです。今朝のあいさつで藤谷さんは、「10年前から利用ということは考えていた」と言う。でもちょっとこれはまずいんじゃないかと思うんです。8,000円出した人たちは30,000人いるわけですが、その辺について……。

藤谷
私のかかわったことで質問がありますからお答えしますけれども、私が今朝申し上げたのは、国立公園全体の利用の関係について申し上げたと私は思うのでありますが、今、桂田さん100平方メートルの土地の利用がどうこうということで、触れていない、これはけしからぬといった意味じゃないかと思います。利用の問題は、国立公園としての知床の利用をどうするかという段階に差しかかったというふうに申し上げているわけであります。

伊藤
時間が迫ってきておりますので、最後にパネラーの皆さん、まだ言い足りない部分もあるのではないか。町長さんと大瀬さんは大分お話しになったのでこの二人は免除することにいたしまして、捕捉的なことも含めて最後に一言ずつお話し願えればと思います。

渡辺
先ほどから公園管理のことでいろいろお話を聞かせていただきました。我々自身の現場にとりましても大変大事なことだと受けとめております。それはどういうことかといいますと、先ほど国が国有地で一方的に管理している外国の例が出されましたけれども、日本の国立公園は決してそういう場所ではありません。我々が1番日夜苦労をくだいているのは、関係行政機関も含めて地元の方々との調整ということであります。例えば我々がどういう公園利用のソフトを行政として考えていくか、同じように地元の人たちがどういう人たちを対象に商売をしていくのかというふうなことを考えてもらっております。
我々は、公園サイド、行政サイドで保護していこう。これは逆に地元の方々にとっては保護するものが観光資源、例えば上高地らしさみたいなものを残していくことが、商売の資源になるんだよという話をしながらやっております。
また、先ほど色の問題も出ましたけれども、施設をどうしても配置しなければならない国立公園の中の地域におきまして、そこの地域の雰囲気づくりを大事にしていきたいといった時に、これは行政もそこで物をつくらなくてはならない、ほかの行為者もどんな施設をどんなデザインでやっていったらいいか、外観はどうしていったらいいか、あるいはどういう色を使っていったらいいか、これは環境庁が一方的に決める話ではなくて、その地域地域の方々と調整をとりながら、こういうポリシーで、こういう外観でいきましょうという調整に心を配っております。
そういったことで、今この場で知床のいろいろな話を聞きまして、我々も現場に戻りながら、改めて地元との調整の難しさとか、これからやらなければいけないことを胆に命じております。

小川
一言ということになりますと、何かをやろうといった場合、やっぱり人だと思うんです。
幸い知床では、さっき例として出ししましたが、動物を見せるツアーをやっています。それをどこかがまねをしようとしても、核になる人がいないと思うんです。その点、ここではそういったスタンバイができているんじゃないかと思います。施設の方は一応できた、これからはソフトとおっしゃいましたけれども、そういう意味で、人というのはソフトの最たるものだと思いますので、その辺を大事にこれからやっていったらいい。私たちも手を貸せるところはどんどん貸していきたいと思っております。

木内
今言った続きですけれども、私どもも知床自然教室関東支部をお引き受けしてから早9年になります。この知床を第2の故郷みたいに思っている子供たちが育っています。
今、ヨーロッパなんかの子供たちはテレビで育っている。だけどあすこの子供たちは1カ月から2カ月のサマースクールがあって、親から離れて共同生活をしています。そういう中で、自然ばかりではなくて自分というものを発見していく、そういう生活を作っているわけです。ですから非常に自我の発達がきちんとあると聞いています。我々がやっている自然教室も、テレビで見るような2泊3日ぐらいの自然に親しんだり、人と接するんじゃなくて、2週間近い自然教室をここで開かせてもらって、来年は10周年です。それこそヨーロッパの子供たちにも来てもらってなんて思っています。
そういう意味で、知床のこの場所が自然教育の1つのメッカみたいな場所になっていったらすばらしいんじゃないかと思うんです。もしそういう方向で動かれるのであれば、我々も及ばずながら御協力したいと思っています。

山本
今の話を引き継ぐような話なんですが、その時に、子供だけじゃなくて、子供に1番密接な母親の存在を絶対に忘れてほしくないと思っています。子供と母親が一緒になって、これは地元の人たちからそういうことを実践していただきたい。今、いろいろなところで1番時間と行動力があるのはお母さんたちです。そのお母さんたちの見極め方で随分子供が変わってきているようです。そういう意味では、お母さんの存在をもっと大事にしていただき,たい。ここにも何人かの女性がいますけれども、いろいろなところに参画する時に、女性の存在も忘れてほしくないと思っています。

伊藤
ありがとうございました。大変貴重な御意見を皆さんからいただきました。
また山本さんの話を引き継ぐようなことを言うかもしれませんけれども、母親教育も大切ですし、子供に対する教育も大切である。
こういう教育的観光をぜひ進めていってほしいと思うんです。

特に一般の人を啓蒙するに当たっては、どうも私は日本人に2つのタイプがあると思うんです。1つは人工芝型、もう1つはカラオケ型。

意味がおわかりにならないかもしれません。
人工芝型というのは、幾ら水をまいても伸びない。カラオケ型というのはセットしてやれば少しは歌を歌う気になる。つまり、啓蒙される側がそういう2つのタイプに分けられるんじゃないか。
私はせめて、カラオケ型の人だけでも見つけてセットしてやって伸ばしていくことも大切かな、卑近な例にたとえればそういうことになるかなと思います。
時間がほとんどなくなってしまいましたが、皆さんのお話を伺っておりまして、やっぱり「自然トピア計画」はまさにスタートしたばかりといってもいいと思います。よく、物は苦しみながら生まれたんだとします。確かにいろいろ御質問もあったように、地元でのぎくしゃくした問題は多分出てくると思いますが、これからはそれを育てる苦しみをお味わいになると思います。その中で、住民との十分な話し合い、あるいはコンセンサスをもとに、「自然トピア計画」の発展をぜひお祈りしたいと思っています。

私は知床が日本の国立公園をリードする立場になってもいいんじゃないかと思っているわけです。
知床の自然というのは、自然が何百万年か何千万年かかかってつくり上げてきたその集積の姿を見ているわけです。もっと極端に言えば、地球の歴史46億年の集積の自然の姿を、僕らは知床のすばらしい自然として見ているんだろうと思います。それを本当にわずかの時間で人間がぶち壊してしまったら、まさにこれは愚行そのものだと思います。そういう点でまさに知床は国民の注目が今集まっているんじゃないかと思います。そういう点で、適正な利用も大切でありますし、自然環境の保全と申しますか、先ほど沼田先生のお話にもございましたけれども、生態系の視点を忘れることなく、自然環境というものはトータルのもの、一体のものとして保全していくという理念に立っていかなければいけないんじゃないかと思います。そういう意味で知床が注目され、まさに日本の国立公園のあり方に対して知床が一石を投じたという将来になっていただきたい。

美辞麗句で終わったような気がいたしますけれども、ぜひそういうふうにお願いしたいと思います。

きょうはお忙しい中、パネラーの皆さんどうもありがとうございました。
会場の皆さんも、長時間にわたりまして御参加いただき、御質問いただき、ありがとうございました。これでディスカッションを終わらせていただきます。

(拍手)

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