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ジャック・リヴェット監督『美しき諍い女』論争が巻き起こった問題作



<作品情報>

日本公開にあたり、モデルを演じるエマニュエル・ベアールの“ヘア論争”が巻き起こったリベットの問題作。老画家の屋敷を、新進画家が訪ねてきた。彼の恋人を見た老画家は、10年間中断していた野心作“美しい諍い女”の制作再開を決意する。かつて“美しい諍い女”のモデルを務めた妻、創作に悩む老画家、最初はモデルを拒んでいたが次第に積極的に老画家に挑み始める娘、そしてその恋人。二組のカップルの関係にも緊張が走りはじめる……。

1991年製作/237分/フランス
原題:La belle noiseuse
配給:コムストック
劇場公開日:1992年5月23日

https://eiga.com/movie/5279/

<作品評価>

85点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

おいしい水
これは素晴らしいですね。久しぶりに文句なしの傑作に出会ったかもしれないです。ジャック・リヴェット恐るべし。ショート・バージョンもあるらしいですがこれはノーカット版で観るべきです。
4時間の長尺にも関わらず、ムダなカットが一つもないのです。研ぎ澄まされたカットの一つ一つがアート。映像だけでなく音も素晴らしいです。筆の動く音、肉体が動く音、コーヒーの音、全てに意味があります。息を呑むような映画体験を久しぶりにしました。
妻とともに田舎に暮らす老画家が自身の未完作品「諍い女」を完成できるのか、それが主な筋立てとなっています。私たちは想像することしか出来ないですが、その作品をみた二人のリアクションに戦慄します。それは生み出されてはいけない傑作だったのです。あまりに冷酷な一人の女の肖像は世に出されることはない。
「諍い女」という絵画を通して老画家、モデルのマリアンヌ、老画家の妻リズ、若い画家ニコラの四人を見事に描き出しています。これだけの長尺があってこそここまでの深みが出せたのだと思います。とりわけ悩める女性であるマリアンヌの変化、彼女を演じたエマニュエル・ベアールの体をはった演技には目を見張るものがあります。
マリアンヌがモデル体験を通じて何をみたのか、それは決して言及されることはないですが、観ていればその変化は明確に分かります。彼女は絵画の中の自分、そして描き手である画家に何を見出したのか。おびえ起こったような表現が見事でした。
変わり映えない長尺の映画ながら、目を離すことの出来ないサスペンスフルな作品になっていました。恥ずかしながら名匠ジャック・リヴェットの作品はこれまで観たことがないのですが、間違いなくベストワークだろう。代表作とされるのに嘘偽りがない見事な芸術作品でした。

吉原
とにかく長い。感想はこれに尽きます。
スケッチブックにスケッチをする様子を何分もかけて描いたり、一つのシーンを何十分にもわたって描いたりしているので、こういう映画に対しての耐性がないとかなりきついです。幸い「サタンタンゴ」など、カット数が少ない作品を鑑賞している私は最後まで鑑賞できましたが、それでもかなり長く感じました。
芸術家が絵を完成させるまでの道筋や、ヌードモデルの過酷さを美しい映像とキャンバスと筆が触れ合う印象的な音と共に描き出しているので、映画館で観れば至福のひとときかもしれません。しかし、家で観ると作品の魅力の何分の一しか享受できていないかもしれません。
TVドラマのようなゆっくりとした心境変化を映画で表現しているような印象でした。エマニュエル・ベアール演じる主人公の心をそこまで動かしたものが何なのかは分かりませんが、これが芸術の魔術なのでしょう。ある意味では魔法のような映画だったかもしれません。

<おわりに>

 とにかく長い作品です。この世界に入り込めるかどうかで評価が変わってくる一作でしょう。

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