見出し画像

ガス・ヴァン・サント監督『エレファント』アメリカの病、それは銃


<作品情報>

99年のコロンバイン高校での銃乱射事件を、初期には「ドラッグストア・カウボーイ」や「マイ・プライベート・アイダホ」を撮っていた「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」のガス・バン・サント監督が描く。撮影は「裏切り者」「ゲーム」のハリス・サヴィデス。生徒役の出演者はみな俳優ではなく実際の高校生で、セリフは彼らが即興で話すという演出。03年のカンヌ映画祭でパルムドールと監督賞を史上初のダブル受賞。

2003年製作/81分/アメリカ
原題:Elephant
配給:東京テアトル、エレファント・ピクチャー
劇場公開日:2004年3月27日

https://eiga.com/movie/1380/

<作品評価>

70点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

上村
犯人の男子二人がシャワールームでキスするシーンが印象に残りました。自らがゲイであるガス・ヴァン・サントが何も考えずにあのシーンを入れるわけがありません。実際犯人たちは「オカマ」「ホモ」と虐められていたようです。
高校生という子供と大人の間の不安定な時期、彼らは孤独だったのではないでしょうか。セクシャリティは別にしてお互いの孤独を埋めようとしたシーンに思えて泣けてしまいました。
撃たれる側の生徒もイジメっ子、イケてる子ばかりではありません。写真部の男の子や「ダサい」となじられている冴えない女の子も問答無用に撃たれます。
『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも言われていたように、高校生は現在の状態が自分の全てのように感じてしまうのです。でも大学に入ったらそんなことないって分かるのに。
静かに日常を描きながらも何かに取り囲まれているような息苦しさを感じます。ある時代の肖像として貴重な一本だと思います。

吉原
本作の元になったコロンバインの高校での銃乱射事件を題材にした「ボウリング・フォー・コロンバイン」はドキュメンタリーで実施の事件を追及し、ジャスティン・カーゼル監督の「ニトラム」は犯人が事件を起こすまでになった心境の変化を、フラン・クランツ監督の「対峙」は事件の被害者と加害者の両親の心境を描いたように、「銃乱射事件」というテーマは、視点によって多種多様なものになるテーマだと思います。本作は、事件が起きるまでの「日常」にフォーカスしていて、最後の20分くらいが事件の内容でそこまでは事件が起こるまでの数人の高校生の日常生活が描かれています。趣味に興じるものもいれば、仕事をする者、大学生活への憧れを抱くものも… そんな日常生活に突然訪れた悪夢。映画の展開としては微妙かもしれませんが、銃社会における社会問題でもある「銃乱射事件」というテーマについて考えさせられる重要な映画なのではないかと思いました。

<おわりに>

 銃乱射事件を加害者側から描くとともに、彼らの心を丁寧に描いた繊細な心理ドラマでもある本作、非常に貴重な一作です。

<私たちについて>

 映画好き4人による「全部みる」プロジェクトは、映画の可能性を信じ、何かを達成したいという思いで集まったものです。詳しくは↓


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?