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季節にはちょっと乗り遅れた。映画「桜のような僕の恋人」感想

中々良く出来ていましたが、どうも気になる点がいくつか。

STORY:
美容師の美咲(松本穂香)に恋をした晴人(中島健人)は、ある事故をきっかけに彼女をデートに誘うことに成功する。
かつてはカメラマンになるために上京した晴人だったが、仕事の辛さに夢を諦め現在はアルバイトを転々としていた。
そんな晴人の話を聞き、美咲は「夢を諦めるな」と叱咤する。
目標に向かって頑張る美咲にふさわしい人間になるべく、晴人は諦めかけていたカメラマンになるという夢を叶えるため復職。
晴人の優しさと誠実さに心を動かされた美咲は晴人に惹かれていき、やがて二人は付き合うことに。
しかし、美咲は普通の人の何十倍も早く老いていくという難病「早老症」を発症。
美咲は本当のことを言い出せず、晴人に「好きな人ができた」とウソをついて別れを告げるが…

キャスト陣の演技は素晴らしい

正直言って、この作品で一番驚いたのは中島健人の演技です。
僕はジャニーズが好きですが、補正抜きにしても本当に上手かった。彼は元々芝居が上手ですが、この作品での魅力は抜きん出ていました。

職場で叱責されてどもってしまうような序盤の自信なさげな表情、中盤以降の仕事に慣れてきて自信が出てきた様子。
美咲との微妙な距離感や別れを告げられた時の戸惑い。声を荒げる様子。美咲に向ける優しい笑顔と終盤の絶望感溢れる絶叫のギャップ。
あんなに顔が格好良いのに、まったくもってアイドル・中島健人には見えなくて。
まさに晴人という人間がそこに息づいていました。

ヒロインの美咲を演じた松本穂香はこういう正統派のラブストーリーに出演することは少ないイメージでしたが、やっぱり上手かったですね。
序盤のキラキラ感と後半の衰えてしまってからの姿のギャップは彼女だから作り出せたものでしょう。
圧巻は、中盤にある号泣するシーン。可愛さを作らず腹の底から嗚咽を漏らす演技は流石だと思いました。
圧倒的な可愛さというよりは、身近さを感じさせる演技で美咲という人物像を作り上げていましたね。

脇を固める永山絢斗、桜井ユキも磐石。
不器用だけど優しい美咲の兄と優しくしっかりした恋人の綾乃という、ちょっとステレオタイプなキャラクターだった訳ですが。
この二人が魅力的に演じてくれていたおかげで無理なく観ることができました。


誰にでもわかるストーリー+一捻り

ラブストーリーの良いところって、誰にでも意味が伝わるところだと思うんですよ。
ミステリーやサスペンスは難しい部分もあるし、人間ドラマも描写次第では登場人物が何考えているかわからないことがある。
それらと比べて、ラブストーリーは話が一本筋だからわかりやすいことが多いわけです。

ただ、その反面間延びしがちというのが難点で。
特に片方が病気でなくなってしまうような悲恋モノは、作品数も多いので演出的にも食傷気味になってしまうことが多い。
その点を、この作品はうまくクリアしています。

まず、”早老症”というファクター。
これをラブストーリーに取り込もうと考えたのが新しい。
記憶にある限り、恋愛ものでは初なんじゃないかな。

これがあることで、好きな人がどんなに近くにいても会いたくても会えないという今までとは違うタイプのラブストーリーに仕上がっている。
醜くなった姿を見せたくない、という気持ちはすごくよくわかって共感力も高いし。

「一緒に年齢を重ねていこう」とかって、プロポーズの常套句ですが。
重ねる“年齢”の重さが違うと、こうも残酷な言葉になるのかと思わされます。

終盤、悲しい運命が二人を待っています。
ここからははっきりネタバレなので気にする方は閲覧注意なんですが。

かつて語っていた夢を叶えて写真展に作品を出すことになった晴人は、美咲にチケットを渡します。
美咲は衰えた体で何とか写真展に向かいますが、中々家に帰ってこず。

それを聞いた晴人は探しに向かうのですが、あまりに見た目が変わってしまった美咲に気付くことができない。
倒れている美咲を助け起こすのですが、それが美咲だと気付くことなくその場を去ってしまうのです。

この展開、結構残酷で。
でも、この展開があるからこそ作品が成立しているんですよね。
ここで気付いてしまったら、それは普通のラブストーリーですから。
やっぱり映像作品って、思いっきり人を惹きつけてからどうなるかわからない展開に持っていくことが重要。
それがうまくできていたな、という印象です。

要所に出る甘さが気になる

邦画のラブストーリーとしては、よくできている部類に入ると思います。
最も、このジャンルをそこまで観ていないので少ない標本の中でですが。

ただ、そう思えた分詰めが甘いところはどうしても目立ってしまいました。
例えば、インサートされる桜のCG。
多分季節の移り変わりを表現しているんでしょうけど、あれは実写じゃダメだったんですかね?
新緑や枯れた桜を使って季節感を演出しても良かったのでは?
あのCGだけ取って付けたようで、イマイチ釈然としませんでした。

もう一つどうしても納得いかなかったのは終盤。
美咲の兄が、美咲を展覧会に一人で行かせたことです。

その時点で、美咲は相当病状が進行しているわけです。
腰も曲がって、自立歩行が精一杯。
そんな人を一人で展覧会に行かせますか?

あそこだけは、どうしてもご都合主義を感じてしまって。
最後の展開に結び付けたいという作り手の意図が見え見えでした。
こじつけでも美咲が一人で行きたがった理由を用意すればいいのに。

あとは、エンドロール後のシーンも微妙でした。
美咲と晴人は数年前に出会っていた、というシーンですけどどう考えても蛇足。
「桜の季節になると、君を思い出す」というので、十分綺麗に締まっていたのに。

まあ、僕はレビューを書くとどうしても悪いところを書きたくなる性格なので最後クレームばっかり入れましたが。
全体を見るとよくできていたと思います。

Netflixに入っていて、邦画やラブストーリーが好きなら観ても損はないと思います。

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