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ロック詩人・稲葉浩志(B'z)の歌詞の世界~稲葉先生による卒業の言葉編~

たまには季節感を意識してみようかな、と。
まあちょっと遅いんですけど。

稲葉浩志は横浜国立大学教育学部卒、おまけに中学・高校の数学教師の免許まで持つインテリロッカーだ。
「金八先生」の影響で教師を目指していたという彼の書く歌詞は、学生時代や卒業を想起させるものも多い。

今回は、卒業シーズンに合わせてそんな曲たちをピックアップしてみました。

さよならなんかは言わせない(1992)

B'zの卒業ソングと言えばこれが王道になるのかな。

さよならなんかは言わせない
僕らはまた必ず会えるから
輝く時間を分けあった
あの日を胸に今日も生きている

B'zにしては珍しいサビ始まりの構成。
キャッチーなメロディとわかりやすい歌詞、実に正しく卒業ソングしている。

歌詞をしっかり読んでいくと、卒業とそれに伴う男女の別れであることが示唆された内容であることがわかる。
1番では彼女の旅立ちを見送る男の心情、2番では”この街”に残ることを選んだ男の決断にスポットが当たる。

個人的にツボなのが2番サビ前の歌詞。

髪を切らないで この街にもう少し残ってみるよ
あてもない門出を泣きながら祝ってくれた君が 愛しい

稲葉が教育実習中に「髪を切れ」と言われそれを拒否し、バンド活動を本格化させたことはファンの間では有名な話。
そういう意味で、”髪を切らないで”というワードは稲葉がバンドをやっていない場合というIFの未来を想起させる。
卒業とは未来に続く選択肢の一つでもあるのだ。

さよならなんかは言わないで
弱音を吐くなら さあ聞いてやる
昔のことだけ輝いてる
そんなクラい毎日は過ごしたくない

輝いていた昔を思い出すだけではダメだ、という自分へのハッパかけは「Pleasure 91'〜人生の快楽〜」をはじめとして稲葉が歌詞の中でよく取り上げる内容。
昔のことが眩しいと感じながらも人は今を精一杯生きていくべきである、というメッセージは実に3年B組稲葉先生である。

New Message(2003)

この時期のB'zの楽曲にしては非常にポップで聴きやすい印象。
だからこそ、稲葉も卒業を歌ったやわらかい歌詞を乗っけたのかもしれない。

この曲のポイントはサビの歌詞に尽きる。

いつでもいいから 笑顔だけかわそう
待ってるなんて言わないぜ もう子供じゃない
メッセージよ届け

過去の楽曲の歌詞を紐解くと、稲葉は「本当の絆に言葉はいらない」と考えている節がある。
ソロ曲「oh my love」でも"言葉にするよりも 伝わることがある"って歌ったりしてるしね。

本作でもその考えが顕著に出ており、”待ってる”なんて言葉にしなくてもメッセージは届く、と力強く断言している。

2番頭の下記フレーズも個人的にはお気に入り。

どれだけ いっしょに過ごした恋人にもわからない
僕らの小さな共通項 そっと胸の底に沈めよう

後にどれだけ好きになる人や心を開ける人が現れても、学生時代の思い出を共有することはできない。
それだけ青春時代の思い出は特別なのである。


ALL-OUT ATTACK(2006)

男臭そうなPVが印象的なアルバム「MONSTER」1曲目。
和訳すると「総攻撃」という、とても卒業ソングとは思えないタイトル

実際卒業ソングにカテゴライズするかちょっと迷ったんだけど、最後のサビの前に思いっきり"卒業の日"って出てるし、要所要所青春っぽいワードも出てるしまあいいかなと。笑

この曲の特徴と言えばメロディのテンポがサビ前まで段々落ちていき、サビで元に戻るという斬新な構成だ。
実際に3つの違う曲を合わせたという違和感が良い意味で機能している。

松本の考案した斬新な曲構成に対し、稲葉もそれぞれのメロディに合わせぴったりの歌詞を用意。
勢いあふれるAメロでは"青春の日々 人生の機微" "走る日々 揺れるキミ" "小さなボク ハート脆く" "お気の毒 自業自得"と徹底した韻踏みを披露。
これぐらいは稲葉からすればお茶の子さいさい。

さらに注目なのが、最後のサビ前に設けられているスローテンポのセクション。

肩を抱く 友の声
卒業の日 頬をなでる風
高い空 じっと見上げて
手をのばしたのは 確かにボク

メロディに合わせ、非常にノスタルジックな世界観を披露。
アレンジも含め、どことなく卒業の日を回想しているような雰囲気
その直後に来るサビに乗っかる勢い満載の歌詞、

セメナキャイケナイ (ALL-OUT ATTACK)
キメナキャイケナイ (ALL-OUT ATTACK)

との振れ幅が、ある意味思春期の不安定さを描写している(気もする)。


明日また陽が昇るなら(2006)

前述の「ALL-OUT ATTACK」と同じくアルバム「MONSTER」収録曲。
考えてみると、卒業っぽい歌詞の曲が同じアルバムに2つ入ってるって珍しい。

B'zにしてはツッコミどころが少なく、真っ当に良い曲。
こういうと褒めてないみたいだけど。笑

稲葉が書く歌詞ってどこか穿った視点や人や神様を徹底して信用しない曲がったところが魅力だったりするんだけど、この曲は珍しくそういう要素が一切ない。

いつの日にかこの場所で 僕らもう一度 会うんだよ
哀しさや虚しさに 包まれて 生きぬいて
どんな夢でも 追いかけて 素敵な願いを 叶うよう
時間の波の中で 揉まれても 忘れない
胸に刻んだ愛

実際にはB'zとライブに来るファンの関係性を歌った曲らしいけど、月日の流れや人生を感じさせる言葉選びが卒業を彷彿とさせる。

この曲、なんといってもBメロの歌詞が良い。

今日 君に会えてよかったと思う
もっと優しく なりたくなった

稲葉らしい、シンプルながら優しさと深い愛情を感じさせる歌詞だ。


これまでのB'z・稲葉浩志歌詞レビューはこちら。


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