【短編小説風】人違い・すれ違い・想い違い
「みどりさん、ですか?」
駅前の広場で、俺はおそるおそる声をかけた。
ノースリーブのニットにチェックのスカート。
事前に聞いていた通りの服装だ。
「はい。ゆうすけさんですか?」
スマホから目線を上げた彼女と目が合う。
正直、めちゃくちゃタイプだった。
メッセージではカラーを入れているって聞いた気がするんだけど、実際には綺麗な黒髪。
プロフィール写真は目元しか写ってなかったけど、写真通り黒目がちだった。
俺の一つ歳下だから25歳のはずだけど、年齢よりも幼く見える。
「そうです!今日はよろしくお願いします!」
緊張のあまり、大きな声を出してしまった。
明らかに大き過ぎる僕の声を聞いて、みどりさんはクスクス笑った。
「なんか、イメージと違いますね」
笑われた…恥ずかしい。
俺は目を伏せて言った。
「お店予約してあるんで、行きましょう」
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「みどりさん、ですか?」
顔を上げると、そこには黒髪短髪の男の人が立っていた。
純粋、素朴。そんな言葉が似合う。
メッセージは女の子に慣れていそうな感じだったけど、実際に会うと雰囲気が違う。実際の年齢より歳上に見える。
“少し遅れます”とメッセージが来たところだったので、こんなすぐに現れると思っていなかった。
「はい。ゆうすけさんですか?」
答えると、ゆうすけさんの動揺した雰囲気が伝わってきた。
ちょっと写真を盛り過ぎただろうか?
加工アプリを使っているので、少し印象が違っているかもしれない。
「そうです!今日はよろしくお願いします!」
声の大きさから緊張が伝わってくる。
私は思わず笑ってしまった。
「なんか、イメージと違いますね」
これは褒め言葉だ。
正直言うと、メッセージの手慣れた感じに少し怖さを感じていた。
でも、目の前の彼はとても女性に慣れているように見えない。それが可愛らしかった。
ゆうすけさんは照れを隠すために顔を伏せながら、言った。
「お店予約してあるんで、行きましょう」
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「こんちは!みどりさん?」
声をかけられ顔を上げると、想像とは違う人が立っていた。
プロフィールでは横顔しか見えなかったけど、まさか髪の毛半分金髪とは。Youtuberかよ。
私の一つ上だから26歳のはずだけど、年齢よりかなり若く見える。
まあ、髪型に関しては私もポイントカラーを入れているしあまり強くは言えないけど。
真面目な雰囲気に惹かれていたので、正直ちょっとがっかりした。
「ゆうすけさんですか…?」
確認の意味で私が問いかけると、彼は大きく頷いた。
「はい!遅れて申し訳ありません」
今は約束の時間ぴったりぐらいだけど。
見た目によらず律儀な人なのかな。
そんなことを考えてると、彼の背後で知らないおじいさんが思いっきり転倒するのが見えた。ついでに、コケた拍子に荷物の中身が飛び散ったのも。
行き交う人達はおじいさんが倒れたスペースをすっと空け、その様子がまるで見えないかのように通り過ぎていく。
ゆうすけさんは私の目線に気付くと後ろを振り向き、すぐに事態を把握した。
「ごめん、ちょっと待ってて」
そう言うと、ゆうすけさんは駆け出した。
私があっけに取られているうちに、彼はおじいさんを助け起こし荷物を拾い始める。
それを見て、私も慌てておじさんの元に駆け寄った。
小さい頃は、困っている人を見たらすぐに動けた。
でも、今は中々すぐに動けない。そんな自分が歯痒かった。
そして、私は同時にゆうすけさんを尊敬した。もしかして、彼はめちゃくちゃ良い人なのかもしれない。
仲良くなりたい、素直にそう思えた。
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約束の時間には少し遅れてしまったのは、2人ずついる姉と妹に野暮用を頼まれてしまったからだ。
学生は時間があるからとこういうことを押し付けられがちだし、女子ばかりの家で俺の立場は非常に弱い。
みどりさんはプロフィールの写真よりギャルっぽい気がするし、俺と同い年のはずだけど大分落ち着いて見える。
…あと、俺の名前は"ようすけ"なんだけど、それは後から説明しよう。
みどりさんは、おじいさんを助け起こしたり荷物を拾うのを嫌な顔一つせずに手伝ってくれた。きっと良い人だ。
仲良くなりたい、素直にそう思った。