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お腹は空く、でも心は満たされる




ついこの間まで作家である坂木司さんの印象は、「かの有名な『和菓子のアン』の作者」そして「すごく筆が早い方」という2点だった。お名前とご活躍は知っているが、本を読んだことは無かった。申し訳ない。


しかし、ある1冊の本を読んでからは、上の2つを差し置いて「お菓子に真剣に向き合う気さくな方」というイメージがトップに君臨したのである。


『おやつが好き』文藝春秋、2019年
単行本:1375円(税込)
文庫:737円(税込)




エッセイが好き、かつ食べること、特にお菓子が好きという私にとって、お菓子エッセイは読まねばならないカテゴリーである。読んだことがない作家さんの本を読むという点においても、エッセイはとっつきやすい。数多くの本を出されている坂木さんだが、エッセイは本こちらのみ……? 書いてくださってありがとうございます! という気持ちでいっぱいだ。




本書は、資生堂パーラーやピエール・マルコリーニ、とらや、京都「中村藤𠮷本店」などなど、北海道から滅多に出ない私からすると遠い世界にある(そして大体が高級そう)お菓子がたくさん登場する。


興味を持ってもすぐに食べられるものはほぼ皆無と言って良いのだが、坂木さんが嬉しそうに、そして熱っぽくそれらの魅力を語るのがとても楽しくて、『へえ!』とか『そのこだわりわかります!』と相槌を打ちながら、あっという間に読み終えてしまった。意外と砕けた表現が多く(坂木作品未読なのに「意外」も何もないのだが)、目の前で「ちょっと聞いてよ」といった風に話しかけてくださっているようで、ずっとほんわかしていた。

比喩や擬音語の表現がすごいのは人気作家だから当然なのかもしれないが、それに加えて「本当にお菓子が好き」という部分も文章に大きく影響しているのだろうなあ、と思った次第だ。



*****


擬音語についても少し触れると、個人的に新鮮だったものの1つが、ウエストのドライケーキを食べたときの部分である。


まず感じたのは、食感です。サクサクのホロホロ。口の中でかしゅっとほどけて、優しく広がるのです。こんなにきめの細かい、パウダーのような小麦粉を私は初めて食べました。

同、26ページ


注目していただきたいのは「かしゅっ」の部分。儚い感じが伝わってくるし、平仮名表記なことでそれがより強くなっているようにも思える。私は食べていないのに、確かに「かしゅっ」ていうんだろうなあ、と納得してしまうのだった。


珍しい擬音語、あるいは既存のものでも言えることだが、よく味わい、それと最も合うかな文字を探し出すという精密な作業をしなければ置くことができない。坂木さんは擬音語をふんだんに用いているが、どれもすぐに想像できるようなしっくり度合いで、臨場感あふれるレビューになっているのである。




ああ、なんだか偉そうな言い方になっていないだろうか(ドキドキ)。やはり感想文というのは難しい。それにもう1000字超えてしまった。比喩表現から感じた知識の幅広さにも触れたかったが、それは読んでいただいてからのお楽しみということで……。


後半には短編も収録されているので、元々小説が好きな人には1粒で2度美味しい本となっているのではないかと思う。是非、ご一読していただいて、一緒にお腹を空かせようではないか!




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