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バックパッカーズ・ゲストハウス(57)「母の日に文学フリマ」

前回のあらすじ:新たにゲストハウスに入居してきた塚田という文学青年と仲良くなった。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 塚田は私の書いた物を気に入ってくれたようで、名前で検索して、mixiで書いていた太った男の子が主人公の小説や、ブログを見つけ出し、コメントをくれた。

 ある日塚田に誘われて、同人誌即売イベントの、「文学フリマ」に行った。田舎者の私は文フリと呼ばれるこのイベントを知らなかったので、それまで同人誌の即売会みたいなイベントはコミケに代表されるマンガやアニメ関連のものしかないと思っていた。

 大田区の会場まで電車で向いながら、広告かなんかで、ちょうど母の日だったことを思い出し、塚田に、

「母の日とかって、なにかするか?」と質問すると、彼は、
「僕はね、今まで母の日には毎年ちゃんと花をあげてたんですよ。でも最近、花じゃなくてパンダをあげたいなぁと思うようになったから、パンダをあげられるようになるまでは、なにもしないことに決めました」といつものように訳のわからないことを言った。

 大田区蒲田の駅を降りると、駅前に悲しそうな顔をしたモヤイ像があった。その横でオジサンが寝ていて、私は携帯電話にカメラが付くようになってから、道端で寝ている人の写真を集めるという趣味があったので、オジサンのことを撮影した。

 塚田はその行為をなにもいわずに見ていたが、ボケだと思ったのか、帰りにミスタードーナツに寄ったときに、
「ミスドのコーヒーは大して上手くない」と言いながらお代わりを何度も頼み、ゲストハウスに帰り着くとポケットからミスドのティースプーンが出てくるというボケ返しをおこなった。


 久米、藤沢、塚田と変なヤツが続けざまに入って来たが、その後に入居してきた恭平という二十代後半の男は比較的まともに見える人間だった。
 ヨンの誕生日があって、みんなでなにかお祝いをしようということになったときに、ミルクレープを手作りしたり、ギターが弾けたので、チヨに教えてあげたりしていた。見た目におかしなところがある分けではなく、社交性もあり、優しかったので好かれた。様子を見るに、チヨは恭平に惚れて居たんじゃないかと思う。

 ただ私は、本当にまともな人間なら、こんな違法なのか合法なのかもよく分からないようなゲストハウスに住まないと思っていたので、恭平は実際はどんなヤバい奴なのかなと思いながら見ていた。

「コインランドリーが近くにあればな」というような話から、「秋葉原は日常生活をするには向いていない」という話題になり、恭平は、
「買い物する時は電車で錦糸町まで行く」と言ったのを聞いて、錦糸町とはどんな街なのかと思い、後日行ってみた。
 JR秋葉原から東に三駅しか離れていなかったが、この近さでもまったくノーマークな街だった。

 事前に聞いていた情報では、「ダイソーがある」ぐらいしか知識がなかった錦糸町は駅前に、浅草にある金色のウンコみたいなオブジェを、輪っかにしたような物体が飾られていた。
 まだスマートフォンに冒されていなかったので、なにかを検索するようなこともなく、あてずっぽでブラブラした。少し広めの公園を散歩して、面白いものを見つけるわけでもなく帰った。

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