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映画評「アーミー・オブ・ザ・デッド」

ネットフリックスで5/21より配信中「アーミー・オブ・ザ・デッド」。

オリジナル作品に力を入れるネットフリックス、最近の目玉。

なにせ、「あの」ザック・スナイダー監督の完全新作でありまして、推定される製作費は9000万ドル(約100億円)。

しかも、「あの」ザック監督が、
製作・監督・脚本・撮影監督
を務めていらっしゃる。

良いことも悪いことも、良いのか悪いのか、全部ザック監督印なのは間違いない。

ザック・スナイダー監督は、「ドーン・オブ・ザ・デッド」で長編デビューした監督ですが、それ以来のゾンビ映画ということで、これもまた注目されているわけです。

しかし・・・

なにか残念ながら、どうも世評は良くないっぽい。

2021年5月29日現在、imdbで現在平均が6.0点。
rotten tomatoesでは、満足度が、評論家69%。観客76%。
および、各種リアクションをみると、「もう見限った」「期待はずれ」みたいなリアクション多数。

それもそのはずというか、本作の上映時間は148分。2時間28分であります。
映画の上映時間がだいたい120分。
ゾンビ映画だと、90〜110分くらいの作品が多い印象なので、比べると中々長い上映時間である。

その割にですね・・・観賞後、本作を思い返してみると・・・

どこにそんな時間がかかっているか、よくわからん。

退屈ではなかったし、めちゃくちゃに楽しんだけど、あれ?148分なりの物語のボリュームはなかったな・・・。
別に、長尺が体感できないくらい楽しかった!てわけでもなく、それなりの長さは感じながら、なおかつ思い返すとそんな上映時間をかけて語るべきストーリーがどこにあったのか、いまいちわからん。

でもですね!すごい作品ですよこれ!

作品概要)
ゾンビがはびこるラスベガス。
目指すは地下金庫に眠る2億ドル。
一攫千金を狙う彼らが挑むのは、生死をかけた一か八かの大博打!
(公式の紹介より)


つまりは、ゾンビ×宝探し 作品です。

問題は多い。

「ゾンビ」ってことになってるけど、ノロノロ歩くんじゃなくて当然のようにダッシュするし。ゾンビなりの階級社会があって、雑兵・戦士・王様 みたいなランク付けもある。
上のランクのゾンビは、ラスベガスに放置された、宝石とかを身にまとっていたりする。
現代バレエ的な動きをしながら集会もするし、なかなかに統率されている。

つまりですね、もうゾンビってより、「蛮族」「原住民」です。
本当は、「原住民」ぶっ殺しものをやりたいけど、このご時世無理があるので、ゾンビってことにしてますみたいな強引さ。

「宝探し」、つまりラスベガスにある重大なセキュリティをいかに突破できるか、金庫を破れるか、そしてそこにお宝はあるのか!という点が見どころになるはずだが、そんなところは華麗にスルー。
「ゾンビアクション」×「オーシャンズ11」か?と思うと、そんな展開は薄め。

よく、ハリウッド大作を語る際に、「細かいことは気にするな」みたいなことを言ったりしますが、本作の場合(そして、ザック・スナイダー監督作の場合)、「細かいこと」の網の目が相当に粗い。
このザルで食料をふるいにかけると、米粒はもちろん、カット野菜も抜け落ちてしまうような、粗いというか底抜けな感じである。
なにせ、「ゾンビ」にしても「強奪」にしても、序盤で生じた疑問が一切解決されないまま突き進んでいきますからね・・・。

じゃ、そんな底抜けのザルでふるいにかけたあと、残ったものは何かというと、それはやはり、その瞬間ごとの「映像の萌え」でしょう。

スタジオからは大層評判悪いけど、出演者からは熱い信頼を寄せられるザック監督。

それもそのはずというか、彼の嗜好って、おそらく、「人間の躍動」というか、「人間が存在していることの美しさ」に充てられているのではないだろうか。
この点、同じアクションにこだわる監督といいつつ、「トランスフォーマー」などのマイケル・ベイ監督などとは明らかに異なっており、マイケル・ベイって「車」「銃器」「爆発」などへの執着なんですよね。
比較すると、ザック監督は人物中心。人間が存在しているからカッコいい映像ってのを、お届けしてくれる。

お世辞にも、人物の描き込みがうまいとは言えないのだけど、登場人物が出てくる最初のシーンから、「こいつ面白いやつだな」と、観客の好感度を掴むのが抜群にうまい。
悪く言えば、それって皆がうちに秘める偏見を利用している気はするのだが、「こういうやつってこんな感じだよね」という面白さを、序盤から活かしてくれる。

「金庫強奪」のためのチーム集めが序盤にありますが、ザック節全開で、「一見して真面目そうな人間の可笑しみ」「初見からイッちゃってる奇人の振る舞い」がテンポよく繰り広げられて楽しい。

「ゾンビもの」という点では、予告編からさんざん期待させていた、現代兵器VSゾンビ という下りは、オープニングクレジット以外、ほぼほぼスルー。
多分、「ワールドウォーZ」みたいな、役者の顔が映らない、遠景から大群が蠢いてるショットみたいなのって、興味ないんでしょう。

でも、その分、近接格闘は多いぞ!
本気出してきたゾンビが、普通に軍隊式格闘技で攻撃してくるところとか、最高だぜ!

真田広之も出てます。

個人的に、真田広之の英語がとっても好きなのです。
日本人に聞き取りやすいジャパニーズイングリッシュではあるんだけど(多分意図的に)、同時に欧米式の発音な共演者と混じっても、貧相に見えない、独特のニュアンスがある。
結果、そんなに活躍というか、そこまで意味のないキャラクターだったんだけど ー まぁ、それは登場キャラ全般そうなんですが ー 、見事なかっこよさで、日本が舞台の作品はいざしらず、海外の作品に日本人が日本人役として出演して、ここまで存在感とかっこよさがある作品って、今まで無かったんじゃないでしょうか。
ああいう年のとり方してみたいものです。

個人的に褒めてますが、グロいです。
ゾンビが潰れてグシャッ!弾丸にあたってベチャッ!返り血がドバーッ!
ただ、やたらと大げさなので、もはや笑える域ってことで、私は大好物だし、たぶん、多くの人にとってもセーフ。

ただ、やっぱりどう考えても、どこに148分費やしていたか、首を傾げざるを得ない。
何にそんなに時間使ってたっけな・・・明かされない謎、それは明かさないほうが粋ということではないものも、結局謎のままだったし。

思うに、これもめちゃくちゃ褒めてる意味なんですが、148分の映画として捉えるべきではない。
めちゃくちゃカッコいいシークエンスが詰まった10分×15の連なり。
と考えたほうが、自然である。
そう考えると、一瞬一瞬の「映像的な萌え」に耽溺できて、素晴らしいでしょう。

ネットフリックスと相性が良い監督なのかもしれません。
イッキ見なんかしなくて良いので、30分×5回くらいに分けて観てみてください。
きっと楽しいです。

特にオープニングクレジットが凄い!正直、ここが一番おもしろい!

褒めてます。空いた通勤時間に是非。長い映画の話を、長い文章で失礼しました。

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