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架空旅行記A#9

不思議なもので
私は米や麺以外、
例えばパンやハンバーガーなどを食べた後は
割とすぐにお腹が空く。

私にとっては
何故だかあまり腹持ちがよろしくないのだ。

南大門からソウル駅まで一駅分歩き
そこから電車に乗り
弘大入口駅にやってきた。

なんとなく靴でも見てみようかな?
と思い大通りを歩き
二つ目の角を曲がり
何軒か靴屋を眺めていたら
突如腹が減ってきたのだ。

今はまだおやつ時をまわったくらいで
昼食には遅い、夕飯には早い
とても曖昧な時間帯だ。

しかし街をぶらつき
色々見ていても
いささか集中出来ない。
食べ物のことばかりが
脳裏をよぎり
手に取った服が全然入ってこない。
これじゃあいかん。
仕方がない。
飯を食おう。

ここは弘大だ。
弘大といえば何だ?
いろいろあるんだろうけど…、
あ!そうか!
あるじゃないか、良いものが!
参鶏湯だ!参鶏湯!

以前友人に教えてもらった店がある。
ここはとても美味かった記憶がある。
熱々の鉄鍋に
グツグツと煮立った状態で出てくる
白い鶏のスープ。
一羽だか半身だかがごろっと
そのまま入っていて
その身の中にはお米がギッシリと詰め込まれている。
様々な薬膳も入り
体にもとても良さそうな
とても美味しい参鶏湯!
それを箸で解し、塩をつけて食べる。
キムチやカクテキも美味かったはず。
生の青唐辛子に齧りつき
辛みに悶絶しながら米と一緒にスープをゴクリ。
いや…最高ではないか!

考えただけでヨダレが出てくる。
大通りを、人を掻き分けるように
足早にすり抜けてゆく。
もうすぐだ。
もう少しでお店が見えてくる。
うおおお!

と、その時
ポケットの中の携帯が
ブィィンと振動していることに
気がついた。
おや?電話か?
携帯を取り出すと
友人からの着信だった。

「ヨボセヨ?」
「あー、ヒョン!ようこそー!お元気ですか?
今はどこにいますか?」

「元気だよー!今は弘大にいてうろうろしてたところだよ!そっちはどうしてんの?」

「おお、ちょうどよかった!今BENDERにいて若手のバンドのレコーディングしているところなんですが、ちょっと今から来て手助けしてくれませんか?ヒョンの助けが必要です!」

もう目の前に参鶏湯の店は見えている…。
ぐぬぬぬ!
だが仕方ないか…。
ヒョンが助けてやろうじゃないか!

「おお、わかったよ!それじゃあ今から行くね!ちょっと待っててね。」

そう電話を切り、
泣く泣く参鶏湯屋さんの前を通り過ぎ
路地へと入ってゆく。
ああ…、参鶏湯が遠ざかっていく…。くぅっ!

もう仕方がないので
コンビニに立ち寄り
歩きながら少し小腹を満たすことにした。
おにぎりとチーカマだ。

買ったチーカマをポケットにいれ
おにぎりの包装をピッと破っていく。
日本と同じ感じの包装だ。
しかしこれは…適当にツナを取ったのだが、
ご飯が赤い。真っ赤だ。
海苔も何だか油っぽい。
取ったビニールをポケットへしまい
歩きながらではありますが、
いただきます。

ひと口バクっと齧りつく。
海苔がパリッと軽快な音を立てる。
あ!これはあれだ!
キムチチャーハンだ!
モグモグモグ。おおー、美味いぞ!
しかも海苔は韓国海苔ということか!
咀嚼していくとキムチチャーハンと
ツナマヨ、そして韓国海苔の塩味が
相まってとても良い!
素晴らしいな。
3口で食べ終わってしまった。

感心しながら歩いていたら
もうBENDERの近くまで来ていた。
チーカマはまたお預けか…。
溜まっていく一方だな。

入口手前の駐車場にて煙草に火をつける。
中は禁煙なので先に吸っとかねば。

しかしこの弘大の街は独特でおもしろいな。
この周りの壁なんかは落書きだらけで
ストリートの匂いがぷんぷんする。
落書きと言っても少しアートな雰囲気で
なんだか少し知的な印象がある。

ライブハウスもいくつかあり、
メインとなる遊歩道では
ストリートミュージシャンがたくさん
演奏などをしている。
洋服屋も飲食店もたくさんあり
路地裏にも色んなお店がひしめき合っている。

やはり大学の近くというのは
文化が発展しやすいのだろうか。
そんなことを思いながら
携帯灰皿で煙草を揉み消す。

薄暗い階段を下り
ギィっと扉を開ける。
若そうなバンドがステージで何やら話し合っている。

「ヒョン!ありがとうございます!」
友人が挨拶のハグをしてくる。
恒例の儀式だ。
「おおー!元気にしてた?なにがあったの?何をすればいいの?」

聞けばエンジニアの人が
別の仕事があるので帰ってしまったとのことで、
皆パソコンに疎く、録る人がいなくなってしまい
途方に暮れていたらしかった。

なんだ…。
それだけなのか…。
まあでもわかりました。

雑談を終え、私はパソコンの前に座り
ボタンを押し、キューを出す。
バンドが演奏を始める。
プリプロとのことなので
ステージでライブさながらに
演奏している。
レコーディング前のレコーディング
みたいな感じだ。

バンドが演奏を終え、次の曲の準備をはじめる。
準備ができたらまたボタンを押しキューを出す。

私に与えられた役割は
言わばこのボタンを押すだけだ。
たったそれだけ。
案外退屈だ。

ああ…。
お腹すいたな…。
参鶏湯食べたかったな…。

先程同様、
目の前のバンドの演奏が
私には全く入ってこない。

頭の中は食べ物のことでいっぱいだ。
腕組みをし、天井を見つめる。
…うーむ。この後何を食べに行こうかな。
とりあえずもう酒は飲みたいな。

そんなことを思っていたら
肩をポンポンと叩かれた。

「ヒョン、大丈夫ですか?」
「お、おん、だ、大丈夫だよ!どうした?」

「…とっくに演奏終わってますよ。」

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