見出し画像

架空旅行記A#6

店内へ入ると
コンクリートの床に
真っ白な空間が広がっていて
左手にレジがある。
2〜3人の店員が忙しなく何かをしていた。

反対側の壁には一点物の作品のようなものが
いくつか展示されていてとても印象的だ。

その空間を通り抜け奥へ進むと
これまたコンクリート張りの床の、
展示会の会場のような趣きの売り場がある。
広い空間を取り囲むように
壁面にハンガーラックやトルソーや棚が並べられ
大きな窓もいくつかあるので光が差し込んで
とても良い雰囲気だ。
部屋の中央のいくつかのテーブルには
花瓶に入った花と共に
商品が陳列されている。

その空間や空気に
私の心は少しずつ絆されていき
カチッとスイッチの入る音が聞こえた。
…さぁ、買い物の時間だ!

まずは右手の壁面ハンガーラックから順に
次々と商品をチェックしていく。

おお、これはいいな…
これも使えそうだぞ…
これは…レディースかな?
お、このTシャツいい…けど…
…丈が短い、これもレディースか…。

爆買いするつもりで来たではあるが
一点一点じっくり吟味していると
現実的に、いやーこれは着ないかなー?
などと考えてしまい、
結局買うものは4点ということになった。

まずはビーニー。
これは日本のポップアップでも即売り切れていたもので、被らない可能性もあるが、まあ帽子なんていくつあってもいいものだ。買い。

そしてセーター。
Mの文字が大胆にお腹の所からはじまっていてブランド名が体をぐるっと一周したデザインだ。
首元のステッチが効いていてとてもいい。買い。

そしてデニム。
ぱっと見、黒にも見える濃いデニムの太いパンツ。前面に小さなポケットがいくつかついたデザインで、すべてのステッチが白い糸で施されている。最近は特に太いパンツがしっくりくるし、履き込んだ時の変化も楽しみだ。買い。

あとは靴下。
靴下も何足あってもいいものだ。
黒と黄色の2点。買い。

厚手のものも欲しかったが
買い物するのはここだけじゃないし、
持ち帰りが大変そうだったから
今回はやめといた。

割とカジュアルな感じで選んだが
ここはスラックスなどの太いパンツも
シルエットや作りが本当に良いので
次はそういったものも買いたいな、
と思いながらレジにて会計をする。

商品の入ったカラフルな紙袋を受け取り
出口の方へと歩き出すと
1人の人とすれ違った。

黒い髪こそ長いのだが
どこか女性とも男性とも判別出来ない
独特な雰囲気の人で
まあ特に気にも留めずいたのだが
すれ違い様に何か光のようなものを
目の端が捉えたのだ。

あれ?
と思い振り返ると
なんだか体全体が薄っすらレモン色に
発光しているように見える。
そしてよく見ると
靴を履いていなかったのだ。

どうゆうこと?と思いながら
向き直し、老眼がここまで進んでいるのかと
目を擦り、まばたきをいくつかして
再度振り返ると
もうその人はいなくなっていた。

え!と思い
店内へ引き返してみるが
やはりいない…。
…え、店員さんだったのかな?
いや…、え?
なんだったんだ?

困惑した頭で首を傾げながら
店を後にした。

オバケだったのかなぁ…、
でも透けたりはしてなかったし…、
…まじでなんだろうか…。

駅までの道中、
やはり腑に落ちず考えながら
歩いていたら見事に電柱に
頭をぶつけてしまった。

…っつ、痛てぇ…。
まわりにそこそこ人いたし、
恥ずかしいし情けない。
はぁ、しっかりしないとな…。
頭を摩りながら気を取りなおすと
少し先にメガコーヒーがあるのが見えた。
黄色くてよく目立つ。

喉も渇いていることだし
コーヒーでも飲みながら一服しようではないか。

大通りを渡りメガコーヒーまで来た。
店外の巨大なタブレットを操作し
クレジットカードで決済する。

韓国のこのアイスアメリカーノ文化は
本当に凄いと思う。
様々なコーヒー屋さんが至るところにあり
とにかく安くてデカい。
1リットル以上あるのではないか?
というものが2〜300円で買えてしまうのだ。
そりゃあ街中みんなが巨大なカップ持って歩いてるし、洋服屋の入り口にカップ置き場が設置されるよなぁ。

驚くことに、全ての店がではないが
傘立てのごとく入り口付近に
コーヒーカップ置き場があったりするのだ。
もうこれは文化の域まで発展しているんだな
などと思いながらひと口、スーッと飲む。
うん、さっぱりしていて飲みやすくていい。

そうだなぁ…。
荷物もあるし、気持ちもリセットしたいし
一旦ホテルへ戻ろうか。

改札口への階段を上がり
財布からTマネーカードを取り出した時
ぶっと吹き出してしまった。
忘れていた…
忘れていたよ、チャ・ウヌくん…。
まさか自分の選択で
自分の首を絞めることになるとはな。

そっとカードを裏返し
ピッと改札にかざした。

この記事が参加している募集

私の作品紹介

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?