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出し切る。持っているモノ。全て。 そしたら。見えてくるよ。目の前に。【白青黄色】

泣くことがないボクの瞳には、うっすらと涙がにじんでいた


ボクは、1人が好きだった。

なぜ、好きかと聞かれたら
明確な答えは出せないけど

たぶん、コミュニケーションが苦手だから、なのだろう。

なぜ、コミュニケーションが苦手なのかと聞かれたら

本当の自分を見せるのが怖い、と答えるだろう。

それほどにボクは、自分というニンゲンを好きになれない。

そのせいもあって、生まれてこの方、友達というものに縁がない。

誰かに
嫌われているとか
邪険に扱われているとか
そんなことはない。

なんせボクは、作り笑いのコツと、当たり障りのない相づちを知っているから。

たくさん読んだ。
人との付き合い方に関する本のおかげで。

読めば読むほどに、ボクは、人とのコミュニケーションが苦手になっていく気がした。

この笑顔は、本当の自分なんだろうか。
この相づちは、真の共感から生まれたものなのだろうか。

全てが、偽りのように感じてしまう。

そう、
この口から発する言葉も、
こうして書いている文字も、
全てはまやかし。

そんなニセモノが、少しだけ、ニンゲンになる瞬間がある。

それは、初めて、友と呼びたいと思った相手だ。


「おぉ~い。大丈夫か」
お調子者のケントが、背中をさすってくれる。

「結構、ヤバそうだな。」
自分探しにハマっているタケルも、心配そうな表情だ。

「何とか、まだ、大丈夫だよ」
ボクは、残り僅かしかない力を振り絞って、そう答える。

本当に苦しい。

なぜ、こんなにも、辛いのだろうか?
なぜ、こんなにも、胸が痛いのだろうか?
なぜ、こんなにも、こみ上げてくるモノがあるのだろうか?

おそらく、慣れていないのだろう。

心が揺れることに。
気持ちが震えることに。

今まで、何も感じなかった心。

小さいころから、ボクの周りで繰り広げられた、感動とか青春とか、情熱とか、上げたらキリがない、心を揺さぶる場面。

そんな場面を見ても、どこか他人ごとのようにしか思えない、薄情なボク。
ボクの心は、まるで石のように固くて、冷たくて、何も響かない。

そんな石を、ニコニコしながら持ち上げるヤツらがいた。

どこか温かくて、憎めないヤツら。

今もこうして、ボクに、声をかけてくれる。

揺れる。グワングワンと揺れ続けている。
ボクの許容の範囲を、とうに超えている。

だから、ボクは、こんなにも、苦しんでいるのかもしれない。

今まで、味わったことのない、揺さぶりに。

「ちょっとは、落ち着いたか」
ケントが、またしても声をかけてくれる。

「無理しなくていい。ゆっくりでいいのだよ。」
タケルも、気にかけてくれる。

「ありがとう。もうちょっと、こうしているよ」
ボクは、下を向きながら、そう答えた。

ウゥオッ。

またしても、こみ上げてくる。

もう。ほとんど、ありやしないんだ。
ボクに残されたモノなんて。

そんな、何もかも出し切ったボク。

「ちょっと、外出るか」

「いい気分転換になるはずだよ」

「だね」

ぼくの、体はフラフラだ。

それでも、そんな足元を、支えてくれるヤツがいる。
一歩ずつ前へ進み、扉を開ける。


次の瞬間。


ボクらの体を、風が吹き抜けてくる。

揺れるシャツと、短パン。

足元を見ていた、ボクの目線は、自然と前を向いていた。

そこには、見渡す限りの青と、波の白いうねり。
見上げた空には、黄色く輝く太陽。


揺れる船内で、吐き気に襲われたボク。
何度も吐いて、その度に、涙目になるボク。

そして、全てを出し切ったボク。

そんなボクの視界は、少しだけ、かすんで見えた。

それは
吐き気のせいだろうか。
慣れない船内のせいだろうか。

本当の理由は分からない。

でも、

そんなことよりも、全てを吐いた後に見る、この景色は、ボクの心を、大きく揺さぶっていた。


少しだけ

違うな。

コイツらと見る景色が、

揺り動かしているのかもしれない。

冷たい石の心を

そして

こみ上げてきた

この

暖かい涙も


ボクは、色とりどりの世界に包まれながら、コイツらの顔を見た。


「おかげで。気持ちが楽になったよ」


まだ、ちょっとだけ、視界は、ぼやけているようだった。

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