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穢れなき白。美しいけど。ちょっと。味気ない。【汚れ多き黒】

そして、ボクは、走り出した。この汚れ多き黒と共に。


お日様がポカポカしていて暖かい。
時おり吹く風は、カーテンをユラユラと揺らし、フワフワと飛んで行きそうな気分になる。
たんぽぽの綿毛のように、どこまでも飛んで、誰もいない大地に降り立つ。

そこに、穢れなどは存在しない。
見渡す限り、透き通る景色。

何も知らなくていい。

どこまでも真っ白な世界。
どことなく寂しさを覚える世界。
どこか味気ない世界。

『憧れがない』と言えば、ウソになるけど、少し息苦しい世界。

だって、ボクは、汚れきっているから。
辛くなるのかもしれない。

だから、ボクは、この汚れ多き場所にいる。
学校という、シミだらけの世界だ。


「よぉ~し。今日もやりますか!」
お調子者のケントが、張り切っているようだ。

「大切な時間だな。ワタシも少しばかり、気合を入れなければならないな。」
自分探しにハマっているタケルが、腕まくりをしていた。

「ちょっくら、取ってくるわ」
そう言って、ケントは教室を後にした。

「準備しよっか。」
ボクは、教室にあるロッカーを開けた。

程なくして、ケントは戻ってきた。

「よぉ~し。全て揃ったな!」

「だね。」

そして、いよいよその時が来た。

まずは、落ちているモノを、一か所に集める。
それは、朝から今までに蓄積された、ありとあらゆるモノだ。

そこには、思い出の品が落ちているかもしれない。
ホコリまみれになった、大切なモノが落ちているかもしれない。

本当に捨てきれないモノだけは、いったん、端に寄せておく。
そして、教室のみんなに声をかける。

「これが落ちていたんだけど、だれか知ってる」

ひっそりと静まり返る教室。

『誰かいないのか』
『コイツの持ち主は』
『誰でもいい。手を上げてくれ。』
『まだ、コイツはやれるはずなんだ』
『まだ、コイツは。。。』

心の中で叫ぶ。

「知らないなぁ~」
「オレも知らな~い」

あちこちで、声が上がる。

願いとは残酷なものである。
一瞬で砕かれてしまうのだから。

ボクらは、捨てなければならない。
いつまでも、そこに置いておくわけにはいかないから。

やるせない思いと共に、ソイツをゴミ箱に送る。

それでも、次に進まなければ。

ボクらは、気持ちを切り替える。

この無情な世界で、生きていかなければならない。

「よぉ~し!次だ」
ケントは、真剣な顔つきだ。

ボクらは、進む。

そして、太陽に照らされている、ソイツに手を伸ばした。

「相変わらずくせぇな」

そこには、汚れ多き黒がいた。

ヨレヨレになり
強烈な匂いを放ち
ところどころ穴が開いていて
シミだらけだ。

ボクらは、それを、水につける。

そして、力一杯に絞る。

『くせぇ』

手に染み付く匂い。

「マジくせぇな」
横で、フガフガ笑っているケント。

「本当に臭いよね。」
ボクも、つられて笑う。

「なんでこんなに臭いんだろうな。」

「単純に菌が繁殖しているのかもしれないな。いったん、除菌をした方がいいのだろうな」
タケルは、シミだらけの雑巾を見つめていた。

「でもさ、なんか雑巾って言ったら、このなんともいえない匂いじゃね」

「分からない気もしないけど。」

「新品の雑巾だと、なんだか、雑巾って感じがしないけど、こうやって、色々な所を渡り歩いたコイツにしか、出せない匂いがあるんだ!」

「お前は、雑巾に何を求めているんだ」

「オレが雑巾に求めているのは、この匂いと、このシミと、この頑張ってヨレヨレになった姿だ」

「雑巾も荷が重いな。そんなに求められるなんて」

「っと言うわけで、そろそろやりますか。雑巾も、ウズウズしてるだろうしな」

「ウズウズしてるのか」

「たぶんな」

ボクらは、汚れ多き黒を地面に置いた。

両手を上に置き、体重をかける。

そして、顔を上げ、前を向く。

「準備は良いか」

「あぁ」

ボクらは、走り出した。
目の前に続く道を。
この汚れ多き黒と共に。


これからも

ボクの

人生は続いていく

何もせず

一歩も動かず

いつまでも

そこに立ち止まることも出来る

でも

それだと

なんだか、味気ない。

ボクも

この雑巾のように

ヨレヨレになるまで

ところどころ穴を開けて

それでいて

なんとなく

臭くなりたい

そう

ボクの隣にも、

とびっきりのヤツがいる。

独特な香りがして

ボクを引き付け

ボクを魅了する

汚れ多き黒だ

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