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社会人という夢

最低で最悪な日々が続いても人間は生きていけるしわたしは薄っぺらいプライドを脱ぎ捨てられず強いふりをして生きるしかない。

いいこととわるいことが交互に訪れるせいで、目が覚めるたび昨日までのことが全部夢だったのではないかと思う。同じ時間に起き、同じ時間の電車に乗り、同じ時間にパソコンに向かう。絶対に混じり合わないと思っていた、ただの社会の集団にあっさりと溶け込んだ。休みの日は死んだように眠るか、会いたい人にひたすら会う。貯金は一切貯まらないどころかマイナスになって、明日を生き延びることに必死になる毎日。失敗ばかりしようと決めた社会人1年目、思っていた以上に失敗が多くて戸惑う。間違いではなくても失敗は辛い。ほんの少しの痛みを引きずって、大切に温めたいと思うわたしのことを、時間は少しも待ってくれない。あの人が好きだと言っていたあの香りの名前はなんだっけ、とか、あの人は学生時代どんな女の子と付き合っていたんだろう、とか、うわの空になる時間を十分に楽しめないまま、仕事、仕事、仕事。そうやって毎日に追われて、心がすり減って、押しつぶされて、ペシャンコの状態で電車に乗る。人の多い電車に乗りたくない日は、ギリギリまでオフィスに篭る。誰もいない真っ暗なオフィス、鍵を閉める時は少し背筋がヒヤリとする。人の少ない駅のホーム。お酒の匂いが充満する電車の中。街頭の少ない夜道。だれも私のことを知らない街、遅く帰ることを咎める人はいなくて、自由だったり、少し寂しかったり。この前、駅からの帰り道で急に隣で歩幅を合わせてきたお兄さんがいた。「帰り?」と言うと私の返事を待たずに頭をなでた。そのまま手を繋がれて、腰に手を回された。ほんの少しの寂しいが、突然恐怖に変わって、いつもの居酒屋まで無言で走った。うそ。体が固まって、うまく歩くことができない感覚に包まれて、気づいた時にはお兄さんを無視して居酒屋の近くまで無心で歩いていた。肩で息をしながら電話をかけて、唯一わたしを許してくれるあの人に会いたいと言った。

社会人になったら勝手にできると思っていたことは全部できなくて、社会人になったらできなくなると言われていたことのほとんどは自分次第でできてしまうことが分かった。人が不自由になる時は勝手に自分で自分の首を絞めている。自由であろうとすればするほど、社会人は楽しい。ただ、自由になるための時間、お金の使い方をわたしは知らない。楽しいに振り切って、限界がきて絶望する。そして誰にも会わなくなって、寂しくなって、の繰り返し。そんな自分のことも愛してくれる人がタイミングよく現れてなんとか耐え延びる。わたしの人生のルーティン。

人とのご縁はすべて、お互いかどちらかが引き寄せているものだと思う。お金がないから恋愛は必要ないと思いながら、恋愛のできる環境に足を運び続けたのはわたしだ。金銭的な理由から自由が制限されつつあることを無意識のうちに感じ取ったのか、大きく心が押しつぶされそうな時にちょうど大切な人ができた。だれかを愛するということに夢中になっている間、わたしはどんな状況になっても、見え見えのプライドと愛されようとする気持ちでとにかく頑張り始める。それが今。正しい頑張りができるから、わたしのことをなんとなく愛せるようになる。これも全部、夢かもしれないけど。

自由と責任はワンセット。わたしがわたしであり続けるために、今日もわたしは同じ夢を見る。

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