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ねぷた祭り

 

夏。気づいたら、青森行きのチケットを握っていた。
ねぶた祭りまで後3週間を切っていた。笑止千万なことだろう。
家に帰ってホテルを探す。しかし、どこもない。浅虫温泉ってところも探したがどこにもない。めちゃくちゃあるはずのホテルや旅館がどこも埋まっている。むろんねぶた祭りは日本を代表する祭りの一つである。
ホテルとチケットでどっち先に取ればいいんですかね?旅の玄人様教えてください。
ズーット探しているのだが、空室がどこにもない。ラブホテル、個室ビデオと頭に思い浮かぶ宿泊施設を絞り出し、探しまくったがどこも空いてなかった。僥倖にも弘前に一件だけカプセルホテルの空きがあるのを見つけ、すぐさま2泊の予約を入れる。素泊まりだが、小生は、布団と風呂があれば全然大丈夫である。やっと緊張していた糸がほぐれた。

そして旅立ちの日が来た。
青森となると蒸し暑さなんてものは感じない。カラッとした暑さで、すごく心地がいいものである。もう青森に移住したい!
弘前駅に着き、予定していた飲食店に入る。名店なだけに、人がごった返している。「一人ですけど入れますか?」と確認を取ると案内してくれた。4人席のテーブル席である。なんだか居心地が悪い。カウンターであれば良いのに。と思い、焼肉定食とカルピスサワーを頼む。めちゃくちゃ美味い。値段以上の味である。あまりの旨さにすぐ平らげてしまった。(店名:創作料理の店 菊富士 本店)
今でも忘れられないので、是非食べて欲しい。ここは、地酒が旨いようである。意気揚々とサワーを頼んでいた自分が小っ恥ずかしい。
店を出て、祭りが始まるまで弘前市内を巡ってみた。町の至る所に、ねぷた祭りの看板が。ねぷたとねぶたの違いはなんだろう?と疑問に思ったが、このあとわかるだろう。
どんどん歩いていくと、弘前城との看板が。暇だから城でもみにいくかと思い、城の中へ入って行くのだが、一向に弘前城が見えない。とうとう有料エリアまで来てしまった。見てやるって気持ちで、お金を払い中に入るのだが、まだ見えない。どこかなと思い道順に沿って歩いていると姿を現した。弘前城だ。小さすぎる。名古屋城のようなものを想像していたので、ちょっと心許ない。登れるとのことで、急な階段を登り登り最上階についた。意外と弘前を一望できるのがまた良い。名古屋城が登れず、改修工事が入っていたので、ちゃんと城を嗜むのも今回が初である。城を出ると、囃子の台車が走っていた。時計を見ると4時。たしか始まるのは5時だったかなと思い、歩いて歩いて、カプセルホテルにチェックインを済ます。ホテルの前には観客がすごいいる。ホテルの前を通るんじゃなかろうな?と淡い期待を胸に抱かせ、祭りを見に外に出る。意外と出店が少ない。地元のお祭りって小馬鹿にしていたけれども、すごい人の数である。今まで喋っていた。人たちが静かになった。祭りが始まるらしい。
微かに囃子の音が聞こえる。心地よい騒がしさである。だんだん大きくなってくる笛の音。あまりの迫力で、鳥肌が立ってしまった。「ヤーヤードーヤーヤードー」のか声が町をこだまする。あまりの素晴らしさに震え上がってしまい、扇型のねぷたが前を通る。俺の目には涙が一杯に溜まり、目が霞む。こんなのは初めてだ。最後に感動したはいつだろう。マトモに人生初めてじゃないか。どれもこれも扇型で側面と表裏に武士や神様の絵が書いてある。趣きがあり、ちゃんと楽しめる。焼き鳥を買って酒を飲みながら宿に帰ると、リビングで、宿泊者と従業員が盛り上がっていた。
「ここから見えるんだ。すげぇ..」と感嘆する。
「良いでしょ!めちゃくちゃ絶景で!最高ですよ!あっそうだ!サワーが冷えてるんですよ。飲みますか?」
「あざっす!俺の焼き鳥もどうぞ!」
こんな和気藹々としている宿は初めてである。期待で胸を膨らませる。
ジックリジックリ見て目に焼き付いていると、最後の囃子が通り過ぎ去った。皆が片付けている。祭りも終わりか...この侘しさがなんだか嫌いなのである。例えれば、小学生の頃、サッカーでいい場面の時に、チャイムが鳴った時の感覚である。
寂しい心と空腹な腹を抱えながら、広場に戻ると、宿のみんなが集まって、打ち上げをしていた。「みんなぁ...」と救われた気分である。まだ祭りは終わっていない。
「俺も入って良いですか!」
「良いっすよ!そこのクーラーボックスに、お酒類が入ってるよ。」
「ありがとうございます!頂きまーす!」
「そういえばねぷた祭りどうでした?」
「いやぁもう最高ですね。来年も来たい!」
「それは素晴らしい!明日の予定決まってるんですか?」
「明日はね。始発で十和田湖まで行って奥入瀬渓流を見て周り、バラ肉を食って、ねぶた祭りのハネトに参戦予定です!」
「なかなかのハードスケジュール!だったらレンタカー借りて行ったほうがいろんなところ回れますよ!レンタカーが空いてれば良いですけどね!」
「それは盲点だった。是非是非レンタカーを借りよう。」
早速、スマホで青森駅の最寄りレンタカーを検索し、空車検索をかけてみた。一台だけ残っていた。ステップワゴンが。一人なので軽で十分だったが空きがない模様なので仕方なく、これを借りよう。明日は6時起きで直行だ。早く寝よう。
席を立とうとしたら、おばさんが話しかけてきた。酔っ払っている模様。
「あんたどこから来たの?」
「東京です!高校生の時分に太宰治目的で津軽地方に観光きたことがありますが、青森は素晴らしいところですね。」
「ふーん。太宰治好きなんだね。津軽弁喋れんの?」
「喋れないっす。」
「わたしゃ喋れるよ。太宰治が好きだったら津軽弁くらい喋れなきゃ、半可通者だな。」
「はぁそうですね。」
「生まれも育ちも津軽だからね。あんたは知らないようだけどいろんな歴史があるんだよ。聴くかい?」
「いや良いです。朝早いんで。」
居丈高に接してきてたのはまだ許せたが、知識自慢までするとは、とんだ耄碌野郎だな。サッサとくたばれと心中で呪詛を吐き捨て、席を立つ。
「ではおやすみなさい。」
と会釈し、フカフカの寝床に着く。

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