市川雄介

老舗PEファンドのアドバンテッジパートナーズで長く働き、新興企業へのグロース投資からラ…

市川雄介

老舗PEファンドのアドバンテッジパートナーズで長く働き、新興企業へのグロース投資からラージキャップまで多様なPE投資経験を持っています。時には社外からでなく、投資先の社内取締役として、事業再生の現場オペレーションを所管した事もあります。「NewsPicks」プロピッカー。

最近の記事

法人営業経験はPEファンドで生きるのか?

 PEファンドの仕事は、M&A+経営コンサルティングであり、長じてシニアになると、案件開拓の法人営業と、株式投資としての運用の要素が求められると言われている。この整理は業務知識やスキルの点では概ね間違い無い。一方で、案件獲得の為の法人営業そのものはシニアになってからにせよ、法人営業の要素は、シニアになる前からPEファンド投資の多様なプロセスに通貫しているものである。例えば、M&Aプロセスにおける提案や交渉は売り主やセルサイドFAへの法人営業であり、LBOローンの獲得は金融機関

    • ビジネスパーソンとしての戦闘能力

      以前、働く人がどこに興味があるのかを、ヒト・モノ・カネ・考えで整理して、どの産業にどんな人が居がちか示したnoteを書いた。 これは興味に基づいた分類だが、ビジネスパーソンとしての戦闘能力の要素として捉える事も出来る。ヒトの戦闘能力が高い人とは、要は大きくかつ成長する組織を作れる人である。こんな感じで整理すると下記の通りである。 ヒトの戦闘能力が高い人:大きく、成長する組織を作れる人・キーパーソンを説得できる人 モノの戦闘能力が高い人:スケールするプロダクトを作れる人

      • NewspicksでPEファンドの実務書を紹介したの巻

        3月7日まで1週間ごとに4回、NewspicksでPEファンドの解説を連載した。その最終回がPEファンド業務の実務書と、なんでも標準化・なんでも知の共有と学習が進むアメリカにおける、PEファンドのハードスキルについてのオンライン学習プログラムの紹介である。 記事に紹介した内容は初学者よりの内容ではあり、世には更に専門的・実務的なコンテンツも存在する。例えば、M&Aに付随するデット調達についての授業が、オンライン学習プラットフォームのCourseraで、イリノイ大学アーバナ・

        • コロナ下でも出店を続ける

          2月19日金曜日、担当している外食企業である、おいしいプロモーションが「田中そば店」ブランドのラーメン店を、埼玉県三郷市に新規出店した。  外食はコロナ禍のダメージを最も受けた産業の一つであり、産業全体として見れば新規出店を遥かに上回るペースで閉店が進んでいるものと想像する。なので、なぜ外食企業がこの時期に出店するのか、と疑問を持つ人も多いだろう。が、理由としては、そこに機会があるからに尽きるのである。 人はなぜ外食に行くのか 人が外食する目的は大きく3つあって、1つは食べ

        法人営業経験はPEファンドで生きるのか?

          空の上司、雨のデザイナー

          「空・雨・傘」という基礎的な問題解決のフレームワークがある。フレームワークの解説が本稿の目的では無いので簡単に触れるが、 空:事実 雨:解釈 傘:打ち手 の事である。空が西から分厚い雲に覆われ始めていた時、その事実を「しばらくして雨が降りそうだ」と解釈出来ると、「傘を持って外出できる」という打ち手に繋がる為、空・雨・傘はセットで考えるのが大事、という話である。 これを聞くと、なんだ当たり前じゃないかと思う人が大半だと思うが、世の中の大半の「傘」はポジショントークに塗れてい

          空の上司、雨のデザイナー

          収益とマルチプルと流動性と

          2016年、当時投資先であったメガネスーパーが黒字転換した時の事である。開示の通り、単月の数字は前年度後半から黒字転換していたが、通期の黒字転換は投資から4期目になってからであった。僕は当時、投資担当チームの一員で、財務戦略担当取締役として、IRと資金調達、並びに追加M&Aを主なミッションとしつつ、コンタクトレンズ事業やマーケティング部門等でマネジメントリソースが手薄になった時期はその手伝いをしていた。IRは社会人になって初めて担当したが、投資直後赤字だった事もあり、殆ど機関

          収益とマルチプルと流動性と

          関与し順応する動的な知性

          リクルーティングメディアで大企業の方が、「ウチに欲しいのは頭で無く地頭が良い子」と言っているのをよく見る。これを読むたびに「地頭」を定義しないと、現場の採用スペックに落とせないのでは、面接官に俺の地頭論が横行すると大変だなと思う。これが、もう少しやんちゃな会社になると、「Book Smartじゃなくて、Street Smartなのがいい」という様な表現になる。こっちの方が直感的な理解はしやすいが、ストリートから麻薬の売人のトップパフォーマーを集めてきたら、自社の商品も爆発的に

          関与し順応する動的な知性

          事業を構造化して捉える

          「投資テーシスが構造化されていない」「この事業はもっと構造的に捉えられるはず」と言う様なコメントがPEファンド、というか当社でも良く出るなと、この戦略コンサルタントの方が書いたnoteを読んで思った。 事業を構造化して捉えた最良の一例は、前述のnoteにある通り、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが、2001年にレストランでミーティングをしたときに、テーブルの紙ナプキンに書いたループ図である。 この図からは、どこから始まるのかが必ずしも明らかでないものの、関係者談や通説によれ

          事業を構造化して捉える

          KPIは足し算と掛け算を併用しよう。

          今どきのPEファンド投資先で、KPI管理を導入していない先は少ないだろうと思う。投資先で最初にみっちりとKPI管理を導入したのは、2003年に米国親会社からの独立を支援したソフトウェア会社では無かったかと記憶するが、数字の可視化なき経営は、海図なき航海とほぼ同義である。最近は、KPIという言葉も一般的になり、投資した時点で既に一定のKPI管理が導入されているのが普通になった。一方で、既存投資先も含めて、KPIの設計には改善余地が多い。一般にKPI設計で考えるべき要素は、SMA

          KPIは足し算と掛け算を併用しよう。

          ヒトが好きか、モノが好きか。

          CMO(マーケティングのトップ)の採用面接をしていると、P&Gやコカ・コーラ、或いは欧州のラグジュアリーブランド等で豊富なマーケター経験のある方から、いま一番イケてるプロダクトの裏話を聞いたりして、出席一同興奮冷めやらぬ、みたいな瞬間がある。以前、そんな瞬間の一つを体験した後に、チームメンバーから、「そういえば、モノへの愛情は伝わってきたけど、ヒトの話が殆ど有りませんでしたね」というコメントが出て、はたと考え込んだ事があった。確かに、その方からは部下とか顧客とかのヒトの話が殆

          ヒトが好きか、モノが好きか。

          コロナ下でのPEファンド

          新型コロナウィルスにダメージを受けている産業に対する、投資の意思決定は難しい。事業計画の前提として、ダメージからの回復度合いを予想して、それにベットする様な形にならざるを得ないという、マクロベット型の投資になり、かつこのマクロ環境に対する専門家がおらず素人予想に依拠する事、並びにその賭けを悪い方に外した時、予想外のダウンサイドが起きたのでは無く、新型コロナウィルスのダメージが長引くというのはごくありふれた見立てで、それを外してどうするという批判が避けられない、というファンドマ

          コロナ下でのPEファンド

          コンピテンシーと業務知識

          あなたが募集していた総務のポジションは人気が無く、2人の応募者しか居なかったとする。 1)同業他社の総務で長年キャリアを積んできたが、モチベーションが低く、仕事も遅くて漏れのあるAさん 2)総務業務は未経験の地方公務員事務職出身だが、モチベーションが高く、仕事も細やかなBさん こう書き下せば、Bさんを選ぶ方も相応に多いだろうが、実際には、上記説明の後半は面接では確認しにくい類なので、なんだか暗いし、メールの返事も遅いが、経験者だからという事で、ほぼAさんが選ばれる。もちろ

          コンピテンシーと業務知識

          商業銀行から来た男

          僕は日本興業銀行を経て、PEファンドの業界に入った。昨今のPEファンドの若手は、外資系投資銀行か外資系コンサルティングファームの出身が多いから、商業銀行出身者は珍しくなった。だからか、時おり商業銀行から来て大変では無かったのか、スキルはどう身に付けたのか、と聞かれる事があるが、そんなに大変では無かったというのが正直な所である。唯一、経験が全く無かった為、頑張ってキャッチアップし、未だにキャッチアップ過程にあるのは、コンサルティングファーム的なイシューアナリシスやインサイト導出

          商業銀行から来た男

          現場主義

          プライベートエクイティ投資に携わって17年になる。スモールキャップもラージキャップも経験したが、一つバリューアップにおいて正しいと信じているのは現場主義である。 取締役会や経営会議の場での議論やガバナンスも勿論重要であるが、バリューアップの真実は常に現場にある。小売なら売り場、外食なら店、メーカーなら工場、toBサービスならオフィスあるいはコールセンター。これらに用事なく行く事が極めて重要である。毎度現場に行く前に、オフィシャルに経営会議で議論してプロジェクト化したい気持ち

          現場主義