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KPIは足し算と掛け算を併用しよう。

今どきのPEファンド投資先で、KPI管理を導入していない先は少ないだろうと思う。投資先で最初にみっちりとKPI管理を導入したのは、2003年に米国親会社からの独立を支援したソフトウェア会社では無かったかと記憶するが、数字の可視化なき経営は、海図なき航海とほぼ同義である。最近は、KPIという言葉も一般的になり、投資した時点で既に一定のKPI管理が導入されているのが普通になった。一方で、既存投資先も含めて、KPIの設計には改善余地が多い。一般にKPI設計で考えるべき要素は、SMARTと呼ばれ、この内容自体には僕も賛成なのだが、SMARTは既にKPIを使い慣れた会社が、予算や中計策定プロセスで部門が考えるフレームワークとしては有用な一方、使い慣れてない会社にトップダウンで入れると、説教臭くてやらされ感が蔓延し、いきなりSMARTリスクが拭えないのが難点である。

【S】 Specific: 具体的な「アクション」と明確に結びつく
【M】 Measurable: 「定量的」に測定可能
【A】 Achievable: 達成可能な「目標値」が定められている
【R】 Relevant: 「成果と直結」している
【T】 Time: 目標達成までの「期限」が明確

僕は、売上分解を始めた位の会社への経営レベルのKPI設計に当たっては、SMARTよりシンプルにまず下記を原則にしている。

・KPIは足し算と掛け算を併用する
・掛け算の要素に、財務数値と事業の数字の両方をなるべく入れる
・長期トレンドをグラフで追う

足し算のKPIは分かりやすい。下記の様なものが典型的である。概ね有価証券報告書のセグメント情報みたいなものであり、基本MECEに物事が捉えられていて、組織構成と対応している場合も多い為、管理もしやすい。

事業部門A+事業部門B+・・・=売上高
ブランドA+ブランドB+・・・=売上高
期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価
人件費+経費+・・・・=販管費
店舗EBITDA+外販EBITDA=全社EBITDA

一方、足し算だと原理的に議論の粒が小さくなっていくのが避けられず、取締役会や全社経営会議の場の議論が、マネジャーレベルの議論になりがちなのが弱点である。この弱点を避けるには、掛け算のKPIを併用する事である。

市場×シェア=売上高
客数×単価=売上高
在庫×回転=原価
売上高×人件費率=人件費

掛け算にすると、統一の物差しで全社の数字を割れるので、議論の粒が小さくならず、掛け算の1要素を改善できれば、全社の数字にインパクトし、スケーラブルである。「売上高は上がっているが、客数は落ちて、単価が上がっている。全社で客数を増やす施策は何があるか?」「回転が継続的に高まっているのは良い事だが、そろそろ機会ロスが増えていないか?」「人件費率が上昇しているが、なぜか?」などは、ブランドAの前月の動向に比べると、取締役会や全社経営会議での議論に遥かに相応しいイシューである。もちろん、掛け算で出てきたイシューを分析したり、アクションに結び付ける時には、粒を細かくして足し算で考える必要がある。

なお、部とかブランド、あるいは地域ブロックレベルでは、「応募者数×内定率=内定者数」とか「PV×CVR=購入数」とか「原材料×歩留まり=生産重量」みたいな掛け算のKPIが日常的に使われているのが普通だが、経営レベルに統合すると、組織構成に引っ張られて、急に足し算が増えて、財務の言語ばかりになるのが、イシューの急所である。掛け算のKPIで全社を敢えて見てみるのは、組織を蛸壺化させない為の一つの工夫でもある。

また、掛け算で出てきたKPIが、ランダムウォークしている事は少なく、大体においてはトレンドがある。このトレンドを一目瞭然に把握するには長い期間のグラフが有用である。掛け算で出来たKPIの長期トレンドを示すグラフが、常にダッシュボードにあれば、自然と経営の思考は全社に対してスケーラブルになり、アクションは速くなる。TableauやGoogle DatastudioなどのBIツールはその為にあるのである。

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