見出し画像

法人営業経験はPEファンドで生きるのか?

 PEファンドの仕事は、M&A+経営コンサルティングであり、長じてシニアになると、案件開拓の法人営業と、株式投資としての運用の要素が求められると言われている。この整理は業務知識やスキルの点では概ね間違い無い。一方で、案件獲得の為の法人営業そのものはシニアになってからにせよ、法人営業の要素は、シニアになる前からPEファンド投資の多様なプロセスに通貫しているものである。例えば、M&Aプロセスにおける提案や交渉は売り主やセルサイドFAへの法人営業であり、LBOローンの獲得は金融機関への法人営業であり、無茶なスケジュールでDDをやり切るのはアドバイザリー各社への法人営業であり、立てた戦略の組織における実行や実行する為の誰かの異動や招聘は投資先への法人営業である。これらは、企業内個人の説得であり、組織としての承認獲得プロセスであると言い換えても良い。

各プロセスにおける法人営業要素

 高度な財務モデルを作ったら、すなわちM&Aが実行される訳では無く、売り主に「刺さる」提案が起点となり、実行に向けては売り主やFAとの複雑な交渉が必要である。また、より良いタームでのLBOローン調達に向けては、個別の金融機関との調整だったり、そもそも事前からの関係構築や案件打診、リスクの要点とそのミティゲートの共有だったりも重要である。これらの活動の効率性なりインパクトには、法人営業の巧拙が強く絡んでくる。
 バリューアップ段階においても、事業DDや中計で戦略を立てたら、すなわちそれが実行されるという事は無い。実行段階では組織の力学みたいなものの理解が非常に重要であり、創業者から新施策をサポートする一言を貰って錦の御旗にしよう、このKPIを予実で追うべき指標に採用して組織として重要視する事にしよう、研修をワークさせ人的資本を拡充する為に、組織内で軽く見られている研修のヘッドへの異動を、強面の営業のヘッドに打診・説得しよう、みたいな仕事が鍵であったりする。これらは、企業内個人の説得であり、組織としての公式・非公式の承認獲得プロセスそのものである。もちろん、それと同時に、施策の効果を追って、関係者に見える様にして、時には現場のインサイトを得て修正アイデアを提案し、また効果を測定する、所謂「コンサルティング」「バリューアップ」っぽい仕事を両輪で行っていく事も必要である。

自分が提案しなければ何も始まらない

 僕は前職の銀行においてデリバティブの部署で3年ほど働き、自分の提案から顧客にプロダクトを買って頂く経験を週に1度くらいのペースでしていた。もちろん、自分の提案と言っても、銀行の長年の信用や顧客基盤、あと融資している圧みたいなものを背景にした購買活動であるが、これらがあっても自然にプロダクトが売れる事は無いので、自分から提案して営業していく事が始まりとなっている。この提案を多数行う中で、企業内個人の説得や、組織としての承認獲得が実際どの様に行われるかに自然に慣れ親しめたのは、無形の資産となった。何の論点を潰せば、承認が得られるのか、どんな論点を放置しておくと、承認が得られないのか。論点だけ潰しても、ドライブしてくれる企業内の個人がいなければ何も進まないし、ドライブしてくれる企業内個人の気持ちやコメントだけに依存すると、後から論点が出て来てスタックする。そんな法人営業の当たり前が、PEファンドのそこここにある。
 法人営業をしてなければ、PEファンドの仕事が出来ないという事は無く、むしろ社員の大宗はその経験なくしてコンサルティングファームや投資銀行から入社しており、敢えて法人営業経験を積んでから業界に入る必要は無い。が、PEファンドのプリンシパルの立場を効果的に運用する為には、営業マインドを各仕事チャンクにおいて持ち続けるのは有用で、自分が提案しなければ何も始まらない法人営業出身者は、予めそこが鍛えられている、という事だろうか。業務知識やスキルと、営業マインドは二者択一では無く、個人の中で両立させた上でのバランスであり、クールヘッドとウォームハートに加えて、現代のプロフェッショナルB2Bサービスには、ホットな営業マインドも重要という事だ。そして、そうは言っても残る得意不得意、やりたいやりたくないを踏まえた上での組織としての仕組だったり、学習や動機付けだったり、ポートフォリオだったりを考えていくべきだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?