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書評|嘘と正典

 無限に広がる可能性。それを形成する感情や事象。「広がり」に対して方程式を立て、全容の細部を可視化する。小川哲の『嘘と正典』は感性と理性の洪水を読者に浴びせる。

 著者は想像を創造する力に長けている。その力を使い、歴史の裏側に光を当てる。収められた『嘘と正典』ではタイムトラベルを使い、フリードリヒ・エンゲルスの無罪放免と共産主義の誕生をつなげた。

 夢幻のようであるが、描かれる科学的な描写の数々によって、とても理知的な印象をもたらす。単純に夢を夢として語るのではなく、構成要素を淡々と置いていくことに共感した。幻想に芯が通るからだ。AがBと合わさり、Cとなる。そんな具合に。

 簡潔かつリズミカルな文章も読者を水流に乗せる。謎を追う『ひとすじの光』『ムジカ・ムンダーナ』などの作品は語り手の視点に読者を没入させる力を持つ。姿を消した魔術師を追う『魔術師』は魔術と現実の境界線を曖昧にし、読む者を幻惑させる。作中では「宇宙」という言葉が頻繁に使われているが、壮大な旅に随行しているような感覚を味わう。幻影を追う旅路。読者の想定を超える結末も奥行きを感じさせる一端だ。

 ミステリーとSFの融合。感性の爆発と理性による収斂。理論を積め。そして、ロマンを味わえ。


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会社員兼Football Traveler。アウトプットをサッカー(W杯、CL、EURO、海外各国リーグ等を現地観戦)、食、旅、本で回していく雑文。 著書 『宴の記憶 ―眼の前にあったワールドカップ―』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0881WHNRC