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二俣城の弱点とは?:二俣城の地形と地質part2【お城と地形&地質 其の七-2】

戦国時代の「城」は、様々な理由でそこに建っています。
徳川家康領である二俣城は、天竜川沿いに立地し、平野と山地の境界部に位置しています。
天竜川と急峻な山々に囲まれる立地は、まさに「天然の要害」と呼ばれるにふさわしい城です。
しかしそんな二俣城にも弱点がありました。
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二俣城の弱点とは?

そんな堅牢な二俣城ですが、弱点がありました。
私が考える弱点は2つあり、まず一般的にも言われている弱点として「水」があげられます。
冒頭でも話したように、二俣城に籠城した将兵は、水を汲むための施設を破壊されたことで降伏しています。

二俣城周辺地形図:スーパー地形画像に筆者一部加筆

おそらく城の北の急斜面(赤丸のあたり)に櫓を設置していたと思われます。
山地の頂部には未固結の堆積物が載っているとは言え、長期間利用できるほどの井戸水はないのでしょう。

もう1つの弱点は「北東部の守り」です。
と言っても、これは二俣城だけの問題ではなく、他の城との連携の問題であり、詳しくは後述します。

城山に水はどのくらいあったのか?

では実際に、二俣城が建っている城山はどの程度の水を溜められるのでしょうか?地質をヒントに検証してみましょう。

二俣城周辺の地質図:5万分の1地質図幅「秋葉山」に筆者一部加筆

二俣城近辺の地質は2種類。
混在岩の上に未固結の礫・砂・粘土の堆積物(以下、未固結堆積物)が載っています。

混在岩に賦存する水

混在岩は別名メランジュと言って、泥質の岩石内にチャートや砂岩などの硬質な岩塊がゴチャ混ぜになった地質です。
風化すれば泥質部分が粘土化しやすく、またプレートからの圧縮力を受けているので、断層が比較的多く発達しています。
水との関係を考えると、粘土は水を通しにくいため、一見すると遮水する性質の方が強そうです。
しかし断層が多いとなれば少々話が変わります。
断層やその近辺には多数の割れ目が発達しています。
"割れ目"と言っても、ガラスや陶器のひび割れのようなイメージではなく、もっと密着した状態のものです。

例えば、コーヒーゼリーを食べるとしましょう。
カップに入ったままの状態で、スプーンを少し刺して、すぐ抜きます。
切れ目ができますが、密着した状態ですよね。
そこに液体のクリームを垂らしてみましょう。
切れ目に少しずつクリームが浸み込む様子が思い浮かべられると思います。

風化すると粘土化するような泥質の地質に断層ができる場合、上記のようなイメージの密着した「せん断面」が多く発達します。
そこには水は浸み込むでしょうが、決して量は多くないでしょう。
ましてや二俣城が建つ山体は小規模であるため、城を賄うほどの水量は期待できません。

すると、残るは上に載っている未固結堆積物内に溜まる水です。

未固結堆積物に賦存する水

では未固結堆積物内に溜まる水量を考察してみましょう。
「断面図」で考えます。

二俣城断面図位置図:スーパー地形より抜粋

城跡を中心に概ね北西ー南東方向(上図青線)の断面図を作成しました。

二俣城付近の断面図:スーパー地形画像に筆者一部加筆

地質図と地形図からの想定で、未固結堆積物の層厚は5m程度と想定されます。
この堆積物は未固結なので雨水をスポンジのように吸い込みます。
が、下位の混在岩は遮水性があるため、浸み込んだ水の多くは横方向に流れて流出すると考えられます。

二俣城周辺地形図②:スーパー地形画像に筆者一部加筆

さらに詳しく見ると、赤点線で囲ったあたりが極端に急崖であることから、ここから水が流出し、侵食が進んでいると想定できます。
つまり未固結堆積物に浸み込んだ水の大半は、東へ流出していると考えられ、堆積物の底面が緩やかに東方向に傾斜しいるのかも知れません。
よって、水平の場合よりも水は流出しやすく、堆積物中に溜まりにくそうですよね。

だとすれば、未固結堆積物内に常時溜まっている水は、かなり少ないか、もしくはゼロだと考えられます。
仮に層厚0.5m分の水があるとしても、概ね2500m3です。
武田が攻めて来た際に城にいた兵数は約1200人

現在の日本人の1人あたりの水使用量は約280リットルだそうで(国土交通省より)、風呂やトイレ(現在は水洗)を除いた最低限で50リットルだとしても、40日程度分の水しかありません。

以上のように、地形・地質的な観点から考えても、二俣城に井戸は無く、天竜川から汲み上げる水に頼らざるを得なかったのでしょう。

今回は以上です。
もう1つの弱点については、次回にお話しします。
お読みいただき、ありがとうございました。

引用・参考文献

斎藤正次・石義見 博(1954) 秋葉山.5萬分の1地質図幅説明書,地質調査所,34P.

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